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高杉はゆきを宥めるように抱き締めて、その背中を撫でてくれる。まるで子供にするかのように。 ゆきは高杉が子供扱いをしているのだろうと思い、切なくなった。 「高杉さんは、私のことを子供だと思っているのではないですか?」 「ゆき、俺はお前を子供だと思ったことは一度もない」 高杉はピシャリと言うと、ゆきを睨み付ける。 高杉は怒るとかなり凄味がある。 ゆきが驚いて息を呑んでしまうぐらいに。 高杉に怒られてしまうと、ゆきはつい小さくなってしまう。 「お前はどうしていつもそのような考えになってしまうんだ?」 高杉に厳しく言われても、ゆきは上手く答えられない。 高杉が大好きだからこそ、つい、不安になってしまい、後ろ向きな考えをしてしまうのだ。高杉はそのことに気付いているのだろうか。 「……高杉さんを好き過ぎて、いつも不安になります。高杉さんは、私に愛しているとは、余り言ってはくれないから、私はいつも不安になります。本当に愛されているのかなって……」 ゆきが切羽詰まった感情を滲ませながら呟くと、高杉は更に抱きすくめてきた。 「……高杉さん……」 「……ゆき、お前は何も解っていない。本当に何も解っていないと俺は思う……」 高杉の言葉と声が厳しくて、ゆきは本当に泣きそうになった。 高杉にこのまま抱き締められていても、切ないだけだ。 ゆきは、高杉の腕の中から逃れようとして、躰を捩らせる。 だが、腕から逃れようとすることに、高杉は良しとはしないようで、余計にゆきを抱きすくめてきた。 「駄目だ。今日はお前を離さない。俺から逃げることは赦さないからな」 ピシャリと言われても、ゆきは高杉の腕の中で更に暴れる。 すると高杉は更に力づくで抱き締めてくる。 抵抗出来ないし、出来る筈がないと、ゆきは思った。 「ゆき……!」 高杉は、いきなり唇を荒々しく重ねてきた。 唇を乱暴に吸い上げられて、舌で激しく口腔内を愛撫される。 呼吸を盗まれたのではないかと思うほどの激しいキスに、ゆきは鼓動を早める。 こんなにも激しく荒々しい高杉は初めてかもしれない。 ゆきが呼吸困難で溺れてしまいそうになっていると、いきなり、信念を持ったかのように抱き締められた。 「……ゆき、お前が子供じゃないことぐらいは、俺が一番よく解っている。だからこそ最近、困ってしまうことがある」 「困ってしまうこと?」 「お前が急速に大人になっていっていることだな……」 高杉はゆきを真っ直ぐ見つめた後で、もう一度しっかりとだきしめて、その温もりを感じているようだった。 「……私は大人にはなれない子供だとばかり思っていました」 「確かにお前はまだまだ子供なところはあるかもしれないが、だが、時間が経つごとに、お前はどんどん成長していってしまって、俺は寂しいような哀しいような複雑な気分だ」 「高杉さん、私は少しも大人ではないと、ずっと思っていたから……。高杉さんがこのように思って下さっていて、私は嬉しいです……」 高杉を見つめながらゆきが言うと、苦しそうな表情をされた。 「……だから、困るんじゃないか……。お前が無自覚のままで大人の女になっていっていることが……」 「……え?」 ゆきは驚いて、思わず高杉を見上げた。 すると高杉は照れるように、目の周りをうっすらと紅に染め上げた。 「後で教えてやる……。今は食事をしよう」 高杉に言われて、ゆきはようやくここが座敷であることを思い出す。 恥ずかしくて、ゆきは耳朶まで真っ赤にしてしまう。 こんな場所で抱き合ったり、キスをしていたなんて。 座敷とはいえ、恥ずかし過ぎる。 ゆきはしまったと思いながら、小さな躰を更に小さくするしかなかった。 食事が運ばれてきて、高杉とのんびりと食事をする。 ゆきは、なんて恥ずかしいことをしたのだろうかと思いながら、ちらちらと高杉を見つめていた。 高杉は先ほどのことはなかったことのように、クールに食事をしている。 そこが高杉が大人であるところなのだろう。 ゆきは自分が子供であることを思い知らされたみたいで、切なかった。 「高杉さん、最近はお仕事が忙しいようですね」 「ああ。新しいことをどんどん取り入れていかなければならないからな。忙しい」 高杉はいつものようにぶっきらぼうに言う。 「お仕事、頑張って下さいね。それと、しっかり気分転換をしたり、体力を温存して下さいね。休んで下さいね」 「有り難う」 高杉はフッと微笑む。 仕事をしている高杉を見るのは好きだ。とても精悍で素晴らしいからだ。 寂しいこともあるが、それは仕方がないと思っている。 「お前と逢うことが良い気分転換になっているからな。こうしている時は、とても良い気分でいられる。だから大丈夫だ。無理もしていない」 「はい」 「お前には寂しい想いをさせているから、悪いと思っているけれどな」 高杉の申し訳なさそうな声に、ゆきは首を横に振る。 「大丈夫です。寂しくないと言えば、大きな嘘になってしまいますけれど、だってこうして逢う時には思い切り甘えさせて貰っていますから」 「そうか……。ゆき、お前は気付いていないのか?」 「え……?」 ゆきは何のことを言われているのかが分からなくて、思わず小首を傾げた。 「お前はそういうところはとても大人の女なんだ。俺にはわがままを言うことは基本ないからな。それに、俺を気遣ってくれている。そんなことがごく自然に出来るのは、お前以外にいない」 高杉の言葉に、ゆきは嬉しくなる。 高杉が認めてくれているのが、ゆきには嬉しくてならなかった。 「お前はわがままを言わないからな。もっと逢いたいとか、仕事よりも自分を優先しろだとか……」 高杉は何かを思い出したかのように、苦笑いを浮かべる。 「どうしたんですか? 高杉さん」 「いや……。今言っていたことで苦労をしている男が多いことを思い出しただけだ。お前はそんなことを言わないで、俺を気遣ってくれているから、助かる」 ゆきは、恥ずかしくなる。 ただ高杉に喜んで貰いたくて、高杉の立場を充分に理解してやっているだけで、特別なことはしていないのに。 「そんなにも特別なことをしているようには、思えないんですけれど」 ゆきがはにかみながら言うと、高杉は頭を優しく撫で付けてくれる。その指先からは確実に暖かさを感じていた。 「ゆき、最初は、なんて世間知らずの女だと思っていたし、子供の正義を掲げる女だと思っていたが……、お前はいつの間にか、かなり成長していた。だから、お前は子供なんかじゃない。だが、無邪気さは残していて欲しいとは思うけれどな……」 高杉はくすりと笑うと、ゆきを抱き寄せる。 今日は座敷で良かったかもしれない。 こんなにも甘くて情熱的な高杉を見ることが出来たのだから。 「……高杉さん、有り難う。とても嬉しいです」 ゆきは幸せを感じながら、高杉に礼を言う。 高杉にこんなにも優しく見つめて貰えている。 それが嬉しかった。 ゆきはホッとした気分で食事を続ける。 高杉に愛されている。 それだけで特に卑屈になる必要はないのだと、ゆきは感じずにはいられなかった。 デザートが出てきて、ゆきは笑顔でそれを食べる。 美味しくて、高杉にも無邪気に笑いかけた。 「高杉さん、美味しいですよ」 ゆきが言った瞬間、高杉に強く抱き締められた。 |