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高杉に抱き締められて、ゆきのドキドキは止まらない。 高杉はなにも言わない。怒っているのかも、平常心なのかも解らない。 ここが座敷で良かったと思う。 いつもよりもかなり積極的な高杉に、ゆきはドキドキが止まらない。 今夜はこのまま帰りたくないだなんて不埒なことを思ってしまう。 「……ゆき、今日はこのまま帰るのは勿体無いような気がする……。もう少しだけ一緒にいないか?」 高杉が堅物らしく些か緊張気味に言いながら、ゆきを見つめてきた。 ゆきも同じ気持ちだったから、真っ赤になりながらも、素直に頷いた。 「……そうか。有り難う。今日は俺がお前を子どもだとは思っていないことを証明してやるよ……」 どのように証明してくれるのだろうか。想像するだけで緊張してしまう。 子どもではないことの証明。それは、キスだろうか。 キスなら今もしているし、まるでお互いがキス魔ではないかと思ってしまうぐらいにだ。 だからその先となると、ゆきの想像を越えてしまう。 「…それはどういうことですか……?」 ゆきは本当に解らなくて、素直に高杉に訊いた。 「……お前は何処まで無自覚なんだ……」 高杉は呆れ果てたとばかりに溜め息を吐きながら、長い前髪をかきあげる。 無自覚だなんて言われても、ゆきには分からない。小首を傾げると、高杉は唇を荒々しく重ねてきた。 息が出来ないぐらいに激しく、痛みを感じるぐらいに熱くキスをされる。 荒々しいキスなのに、ゆきは止めて欲しくはなかった。 頭がくらくらするぐらいにキスをされた後、ゆきは頭をぼんやりとさせながら、高杉を見つめた。 「……外に出るか……」 「そうですね」 いつもならば外に出るのは勿体無いと思ってしまうが、今日はもう少しだけ傍にいられるから平気だ。だから寂しくない。 店を出た後、ゆきと高杉はしっかりと手を繋ぐと、そのままただ歩く。 なにも話せなくても良い。ただ手を繋いで一緒に歩いているだけで嬉しい。 不意にゆきの携帯電話が鳴る。 出ようとは思わなくて、そのまま鳴り止むのを待っていた。 「出なくても大丈夫なのか?」 ゆきは携帯電話の着信履歴で誰からの着信履歴であるかを確かめた後、高杉を見上げて笑った。 「高杉さんと一緒だから、出たくなくて……。それに瞬兄だから……。心配しているのかなあって……」 ゆきが何気なく言うと、高杉は急に不機嫌な表情を浮かべてきた。 「ゆき、着いてこい」 いきなり握る手に力を込めると、高杉は駐車場に向かって歩きはしめた。 高杉のいきなりの行動に、ゆきは驚いて、ただなされるがままだった。 高杉は機嫌が悪くなって、帰らなければならないのだと、ゆきは思った。 高杉の気にさわる。 そうだったら哀しい。 「高杉さん、何か気分を害したならばごめんなさい……」 ゆきが恋特有の不安にかられなから呟くと、高杉に厳しい一瞥を投げられた。 怒っている。 いつも無意識で相手のことや後先を考えずに行動してしまうことがあるから、きっとそのせいなのだろう。 ゆきは自分の考えのないところに、泣きそうになりながら、反省しなければならないと思わずにはいられない。 高杉はといえば、相変わらず黙りこんでしまっている。 かなり怒っていることが分かる。 恐らくはデートは中止だろう。 解る場所まで連れて行って貰ったら、ひとりで帰ったほうが良いのかもしれない。 車に乗せられたタイミングで、ゆきは真っ直ぐ前を見て言おうとした。高杉をまともに見ながらは言えなかったから。 「……高杉さん、近くの駅まで送って下さい。そうしたら、家までひとりで帰ることが出来ると思いますから……」 ゆきが瞳に涙を浮かべながらなんとか言うと、高杉はいきなり抱きすくめてきた。 「どうしてそんなことを言う!?」 高杉が苦しげに言うものだから、ゆきは驚いてしまう。息が出来ない。 高杉の苦しい恋心が伝わってきて、ゆきは更に泣きそうになる。 「高杉さん……、怒っているのではないですか?」 ゆきがおずおずと訊くと、高杉は更に強く抱き締めてくる。 「……怒ってはいない。お前が余りにも……」 高杉は一瞬、言葉を淀ませて、瞳の周りを真っ赤にさせる。 「無防備に可愛かったから。お前が、瞬からの電話に出ないでくれたのも嬉しかったし……、瞬に嫉妬したというのもある……」 高杉のぶっきらぼうな告白に、ゆきは嬉しくてつい笑顔になった。 「高杉さん、嬉しいです」 ゆきが素直に言うと、高杉は益々恥ずかしそうにした。 高杉は開き直ったように呼吸をすると、ゆきをギュッと抱き締めた。 そのまま覆い被さるようにキスをしてくる。 燃えたぎる情熱をキスに託されて、ゆきは息が出来ないぐらいにうっとりとした。 こんなに激しいのに優しくて甘いキスは他に知らない。 車内で何度も水音を立てながらキスをする。 ゆきはキス以外の考えられなくなってしまう。 キスをする度に、不思議なぐらいに躰が熱くなってゆく。 高杉にもっと甘い刺激を求めてしまう。 もっとこうしていたい。 高杉ともっと一緒にいたい。 高杉を独占したいという気持ちが強くなり、ゆきは驚かずにはいられなかった。 高杉ともっと一緒いたいから、もう子供時代のモラルなんていらないと思った。 高杉はもうゆきを離さないとばかりに、抱き締めてくる。 もう一度キスをした後、高杉はゆきの瞳を覗きこんだ。 「今夜はお前を帰さない……」 高杉は低い艶のある甘さがたっぷり含まれた声で囁いてくる。 こんなにも情熱的な高杉は初めてかもしれない。高杉がきちんと独りの女性として 扱ってくれて、想ってくれている。 ゆきはそれがうれしかった。 「私も帰りたくないです……」 ゆきは囁くと、高杉を抱きしめた。 「うちに行く」 「はい」 ゆきは迷うことなく頷く。高杉は、ゆきから名残惜しそうに離れると、ステアリングを握った。 車が静かに出る。 ゆきは緊張しているにもかかわらず、とても幸せだ。 ドキドキしていても、悪いドキドキではなかった。 ゆきはメールで母親に、高杉と一緒にいるから大丈夫だと伝える。 切ないぐらいに苦しい甘さに、ゆきは息苦しくなる。 母親は高杉のことを信頼しているから、恐らく大丈夫だ。 いつかこうなることは解っているのだろう。 ゆきもこの日がいつかやって来ることが解っていたが、こんなにも早くやって来るなんて思ってもみなかった。 だが、今はそれも嬉しい。 車はお馴染みな高杉の家で静かに停まる。 静かな和風家屋は、高杉にはピッタリな家だ。 ゆきも通いなれた大好きな家だけれども、いつもとは違った緊張感がゆきの躰を支配する。 緊張し過ぎて、つい固まってしまう。 「ゆき、着いたから降りるぞ」 「はい」 高杉は先に車を降りたが、ゆきは緊張し過ぎてモタモタとしてしまい、ゆきは中々車から降りることが出来ない。 ゆきの様子を見かねたのか、高杉は手を差し伸べてくれる。 「ゆき」 「ありがとうございます」 ゆきが恥ずかしながら呟くと、高杉は手を握り締めたまま甘く笑った。 手を繋いだままで、ゆきは高杉と一緒に家に入る。 「お茶でも淹れる」 「ありがとうございます」 お茶なんていつも飲んでいるが、今夜のお茶が一番緊張すると思った。 高杉はゆきの湯呑みにお茶を淹れて運んできてくれた。 「ありがとうございます」 お茶をちびちびと飲んでも、余計に緊張感が増すだけだ。 お茶を飲んでいると、高杉は限界とぱかりに、ゆきを背後から抱きすくめてくる。 「……愛している……」 高杉はとっておきの愛の言葉を囁いた後、そのままゆきを床へと押し倒した。 |