*あなただけを*


 玄武を使役するようになってから、高杉は本気で女を愛することはしないと決めていた。

 そもそもそんな女には出会わないとたかをくくっていた。

 だが、現実は違った。

 出会ってしまったのだ。

 こんなにも一人の女性に執着することになろうとは、高杉には思ってもみなかった。

 女といえば、あと腐れない女を求めてた。

 だから、執着する感情なんて、あり得ないことだった。

 だが、ゆきは違った。

 最初は役立たずな神子には相応しくない女だと思っていた。

 だが、一緒に行動するうちに、真っ直ぐで純粋で強い部分があることを知ってしまった。

 自分の為だけではなく、他人のために命を掛けることが出来るゆきを、高杉は好ましく思う。

 本当にゆきを愛しく思えるようになった。

 そこからは、ゆきを求めることを止めることは出来なかった。

 いつも何処かでゆきのことを気にしてしまう。

 ゆきのことを考えない日はないぐらいに、ずっと考えてしまう。

 視線で追ってしまう。

 これ程までに、愛しいと思える存在が見つかるとは、思ってもみなかった。

 命を削ってまで、高杉の為だけに、動いてくれるゆきを、このまま抱き締めて離したくないと思う。

 この腕のなかで、永遠に閉じ込めていたいと思うのに、自分には遺された時間が、それほど多くはない。

 だからこそ、ゆきを最終的には放さなければならないと思っている。

 ゆきを独占することは許されることではないだろうから。

 それが解っているから、こうして今まで、ゆきに愛しい気持ちを示した上で、約束するようなことが出来なかった。

 戦いの結果がどうであれ、明日限り縁であることは間違いない。

 だから、本音の愛を語らないほうが良い。

 ゆきとは別れなければならない運命なのだから。

 だが、今この瞬間にも、ゆきを求めてしまう。

 この瞬間にも、ゆきを抱き締めたいと思ってしまう。

 高杉は溜め息を吐いてしまう。

 一人で部屋のなかにいたら、様々なことを考えすぎてしまう。

 高杉は、月でも眺めて、心を落ち着けるために、外に出ることにした。

 

 ゆきはひとりで縁に腰を掛けて、雪が降る幻想的な風景をじっと眺めていた。

 明日はいよいよ決戦だ。

 闘いについては、不思議なぐらいに落ち着いていた。

 ここまで縁を深めた仲間たちと一緒に闘いに挑むのだから、きっと大丈夫だという想いがある。

 そして、ゆきには愛するひとが着いている。

 だから大丈夫。

 高杉がいれば、何とか頑張れる。

 だが、高杉とも、明日には、別れなければならないだろう。

 そんな予感を、ゆきは犇々と感じている。

 愛しているひとと別離をしなければならないなんて、これ以上に切ないことはない。

 だから、明日が来て欲しくないなんて、そんなことすら思ってしまう。

 明日が永遠に来なければ、高杉と別れることはないのにと、ゆきは切なく思っている。

 ひとりの女の子としての感情が、ゆきの心を揺り動かす。

 こんなことは、神子として祈ってはいけないことだというのに、ゆきはつい考えてしまう。

 ゆきが大好きな高潔なあのひとは、きっとそのようなことを望んではいない筈だ。

 だから口に出来ない。

 そばにいたい。

 離れたくない。

 ずっと一緒にいたい。

 なんて、わがままな感情のようにしか、思えないから。

 解っている。

 高杉は、自分の力が間もなく尽きることを、本能では感じ取っていることを。

 だから、ゆきを近づけることはないことを。

 なのに深くなる一方の愛情を止めることは出来ない。

 会うたびに、高杉の志に触れる度に、恋心は強くなる一方だ。

 離れたくないという感情が募る一方だ。

 泣きそうになる。

 こんなにも誰かを愛したことは、今までなかったから、ゆきは苦しくて切なくて堪らなかった。

 だが、それは決して不快な感情でないことは、ゆきには十分に解っている。

 華やいだ切なさは、ゆきを更に愛情豊かなひとに成長させてくれている。

 だからこそ、ゆきは高杉を愛することを止められなかった。

 ゆきが降り積もった闇を見つめる。

 やはり、ゆきが輝いて幻想的に見える。

 本当に美しい。

 空は澄んでいて、いつの間にか、月が粛々と輝いているのが見えた。

 綺麗だ。

 綺麗すぎて、胸がきゅんと鳴って締め付けられてしまう。

 ただゆきは純粋に美しさを楽しむ。

 隣に大好きなひとがいたら良いのに。

 そんなことを無意識に考えてしまっていた。

 高杉と一緒にこの風景を眺めたられたら、さぞかしロマンティックだろうと思ってしまう。

 ふと背中に優しくて切ない影を感じた。

「……ゆき、こんなところにいると風邪を引く」

 振り返ると、神妙な顔をした高杉がいた。

「……高杉さん」

 高杉の姿を見つめるだけで、胸の奥からときめきがせりあがってくる。

 それほどまでに高杉のことが好きなのだと、ゆきは改めて感じずにはいられなかった。

 ゆきにとって、高杉は誰よりもときめく、大切でたまらない存在だから。

 ゆきがときめきながら高杉を見つめていると、静かに隣に腰掛けてきた。

 飛び上がってしまうぐらいに甘い鼓動が高まる。

 ゆきが落ち着かないのとは反対に、高杉は堂々と静かにそばにいる。

 闇に浮かび上がる月と白い雪を見つめる高杉の横顔は、とても美しくて落ち着いた雰囲気だった。

 ゆきはつい熱心に見つめてしまう。

 こんなにも綺麗で幽玄で、かつ男らしいひとは他にいないのではないかと思う。

 いつまでも高杉の横顔を見つめていたい。

 いつまでもそばにいられたら良いのにと、ゆきは思ってしまう。

 だが、それは赦されないこと。

 なのに心は求めてしまう。

「……ゆき、どうした? 明日が不安か?」

 以前の高杉ならば、不安かと、優しく訊いてくることはなかった。

 むしろ、そんなことを口にしてしまえば、非難されるのが落ちだっただろう。

 だが、今夜はこの上なく優しい。

 明日が最後だからだろう。

「……不思議と落ち着いています。信頼する仲間と一緒だから大丈夫だと……」

 ゆきは素直な気持ちを口にする。

 本当の気持ちを言うと、穏やかな笑みすらこぼれ落ちた。

「……そうか……」

 高杉は穏やかに微笑むと、月を見上げる。

 こんなにも月が似合うひとは他にいないのではないかと思う。

「……月が似合いますね、高杉さんは」

 高杉はフッと笑うと、更に高嶺を見つめる。

「……ゆき、お前は名前の通り雪が似合うな……。雪と月か……」

「私は雪と月が一緒にいるのは綺麗だと思います……。い、一緒にいるべきだというか……」

 恥ずかしくて高杉の顔をまともに見られないままだったが、ゆきは今の気持ちを伝える。

 すると高杉に、いきなり手を握りしめられ、息が出来ないぐらいにときめいてしまう。

「……俺もそれが一番だと思う……」

 高杉は低い声で呟くと、行きなり立ち上がった。

 ゆきもつられて立ち上がる。

 ふたりはただ見つめあった。





モドル ツギ