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白無垢姿で、高杉と共にいる。 手を繋いで歩いているだけで、高杉と結ばれているのではないかと、思う。 歩いていると、ひとの視線を感じる。 友好的なものばかりだが、恥ずかしい。 ただ、心配にもなる。 こんなにも目立って高杉は大丈夫なのかと、ゆきは心配してしまっていた。 「高杉さん、大丈夫なのですか?」 「何だ?」 「人の視線が集まっているので……」 ゆきが遠慮がちに言うと、高杉はフッと微笑んだ。 「確かに拙いかもしれないが、今は構わない……。気分は悪くないからな」 「高杉さん……」 高杉の柔らかな思慮のある深い微笑みに、ゆきはつい頬を赤らめてしまう。 なんて素敵な笑顔なのだろうか。 高杉と出逢った頃は、狂気に支配された人だと思っていた。 だが、高杉の人となりに触れることによって、本当は誰よりも思慮深いひとであることを知った。 こんなにも深い想いを持ったひとは他にはいないと、ゆきは思う。 思いやりが溢れた、本当に素晴らしいひとだと思う。 ゆきは高杉の人柄に触れる度に、本当に好きになっていった。 これ以上ないぐらいに、大好きなひとになった。 ゆきにとっては、最高のひと。 そのひとと、仮初めであれ、花嫁衣裳で一緒にいられるのは、本当に幸せだ。 高杉は近くの神社までゆきをつれていってくれる。 しっかりと握られた手の強さは、ゆきを安心させるのと同時に、ときめかせてもくれる。 ゆきは頬を赤らめながら、何度も何度も高杉を見つめては微笑んだ。 すると慈しみが溢れた眼差しを、ゆきにくれる。 それだけで、愛を感じて幸せだった。 「……こちらだ」 ふたりで静かに境内に入り、神殿の前で祈る。 こうしていると本当に静かで穏やかな気持ちになるから、不思議だ。 ゆきは深呼吸をすると、静かに祈る。 これが仮初めではなく、いつか本物になりますように。 奇蹟を起こすための準備をしておけば、必ず起きるものだと、ゆきは信じているから。 高杉といつか、こうして契りを結べたらと、ゆきは思わずにはいられなかった。 祈っているゆきは、なんて美しいのだろうかと、高杉は思わずにはいられない。 本物に魂を吸いとられてしまうのではないかと思うぐらいに、ゆきは美しかった。 高杉は祈りを忘れてしまうぐらいに、ゆきを見つめてしまっていた。 美しすぎて、このまま抱き締めて、連れ去ってしまえたらと、思う。だが、それは出来ない相談であることぐらいは、高杉が一番よく解っている。 だが、ここは祈りたい。 ゆきとは永遠の契りを交わすことができますように。 戯れでも、仮初めでもない。 本物の愛をゆきとは誓って、育んでゆきたいから。 高杉もまた、ゆきと同じように深く祈った。 ゆきとふたりで、ずっと一緒にいられますように。 ゆきとふたりで、同じ人生を歩むことができますように。 それだけを高杉は強く願った。 不意に、生臭い“気”を感じる。 これだけ目立っていたのだから、追跡をされないはずがなかった。 高杉は呼吸を整えて、気持ちを集中させる。 横にいるゆきも、気付いたのか、高杉の手を取る。 そこから、龍神の神子としつての神気が躰に流れ込んで来るのが、分かる。 力が、みなぎる。 高杉はゆきの手をそっと離すと、剣に気を集中させた。 ゆきという、最高の戦女神が着いているから、絶対に勝てる。 大丈夫だ。 ゆきと出逢って、その心根に触れてからというもの、高杉は負ける気がしなくなった。 ゆきがそばにいるだけで、守られ、安心して闘うことが出来るのだ。 「……高杉……!お命頂戴!!」 ふたりに襲いかかってきたのは、やはり不逞浪士たちだった。 ここは命を絶ってしまえば、ゆきが哀しむ。 高杉は華麗な剣さばきで、気絶をさせる、峰打ちを選んだ。 我ながら甘くなったと思う。 だが、元々は無益な殺生は好まない。 そして、陽炎でなければ、可能性を残してやりたいと思う。 それだけだ。 高杉は剣に集中する。 「たあああああっ!!!」 勢いをただつけるために声を上げて襲いかかってくる、浪人たちに、高杉は青く静かな炎を湛えた剣を抜く。 殺気をみなぎらせることはなく、ただ静かに。 高杉は一人につき一太刀で、気絶をさせてゆく。 多数に襲いかかられても、高杉が要した時間は僅かだった。 気絶をさせて、当分起き上がれないようにしておいた。 これで大丈夫だ。 気絶をした刺客を見た後、高杉は剣を静かに納めた。 「ゆき、行くぞ」 「は、はいっ」 高杉はゆきの手をしっかりと握りしめて、歩いて行く。 神社の奥には、末社があり、そちらに入った。 小さな神社ではあるが、とても静かで落ち着ける環境だ。 高杉は、ゆきの手を引いて、そちらで暫く、落ち着くことにした。 「ゆき、大丈夫か?」 「はい、何とか……」 いつもならば、ゆきの動きは俊敏なのだが、やはり白無垢姿だから動き難いのだろう。 高杉はよりゆきを守ってやらなければならないと思う。 ゆきは、本当は全力で守ってやらなければならないのだろう。 今は、龍神の神子として頑張っているから気が張っているが、それが終われば、全力で護らなければならない、か弱さが出てくるだろう。 もし、許されるのであれば、自分が全力で守ってやりたいと、高杉は思った。 ゆきだけを。 「……ここまで来ればもう大丈夫だろう……」 言いかけて、高杉はハッと息を呑む。強い殺気を感じる。 このどす黒い殺気は、恐らく、陽炎だ。 高杉は直ぐに剣を構えると、ゆきを背中で被うように、その前に立った。 「ゆき、俺のそばから離れるな」 高杉は緊張感のある低い声で呟くと、直ぐに剣を陽炎に向けて振り上げる。 ゆきを守る。 今はそれだけだ。 ゆきは、高杉に助太刀をするように気を送ってくれる。 陽炎の力を弱めてしまえば、後は、ゆきに封印して貰えれば良い。 高杉は気をギリギリまで弱らせる為に、太刀を振るった。 「うごごごご……!!!」 陽炎は一気に苦しみ出す。 高杉がなにも言わなくても、ゆきは静かに清らかな光を滲ませながら、封印をする。 白無垢で封印をする神子は、ゆきが初めてだろうが、それを見つめるだけで、神聖な気持ちにさせられた。 こんなにも清らかな存在であるからこそ、天海はゆきを欲したのかもしれない。 高杉はそんなことすら、考えてしまう。 それほどゆきは麗しかった。 封印が終わると、高杉は思わずゆきを抱きすくめていた。 息が出来ないぐらいに強く抱き締める。 ゆきは自分だけのものだと。 そう高らかに宣言するかのように。 ゆきは静かに高杉を抱き締めて、総てを預けてくれる。 高杉はゆきの滑らかな頬に触れると、そっとその瞳を覗き込む。 「……いつか……」 「……いつか……?」 ゆきが反芻する唇を、高杉は塞ぐ。 甘いキスを交わしながら、高杉はいつか本物の婚礼衣装で、きちんと愛を誓いたいと思わずにはいられなかった。 |