*アナタイロ*


「君を私色に染めるために、たっぷりと調教してあげるよ」

 薄く笑いながら意地悪に言われて、なかなか素直に従えない。

 ゆきは小松好みになるものかと、つい反発をしてしまう。

 こんなことをさらりと言ってのけるのは、小松帯刀しかいない。

 ゆきはとてもハードルの高い男性を好きになってしまったものだと、我ながら苦笑いを浮かべてしまいそうになる。

 小松は、今まではずっと、恋人を自分色に染めてきたのだろう。

 そしてゆきもそうしたいと思っているのだろう。

 ゆきは、小松色に染まること自体は嫌なことではないし、既に真っ白だった自分は、充分に小松色に染められていると、思っている。

 小松以外に好きになれない時点で、小松色に染まっていると言えるのだろう。

 ゆきは、だからこそあえて調教されたくないように思ってしまう。

「……帯刀さんには調教なんかされません。逆に私が調教します」

 ゆきがドキドキしながら呟くと、小松は眼鏡の奥から、挑戦的な眼差しを向けてくる。

 このような眼差しを向けられても、ゆきは決して自分を見失わないように、しっかりと地に足をつけて立った。

 小松は面白そうな表情をすると、ゆきを真っ直ぐ見つめた。

「……My princessは、威勢が良いものだね」

 小松は完全に面白がっている。それがゆきには、癪に障る。

「アーネストの真似なんてしないで下さい」

 ゆきが拗ねるように言っても、小松はあくまで意地悪で魅力的な笑みは崩さなかった。

 それがまたゆきの唇を尖らせて、拗ねさせてしまう結果となる。

 気付いてはいないだろう。

 だが、小松ならばそこまで計算をしてやっているのかもしれない。

 きっとそうだろう。

「……お遊びはお仕舞いだよ。君は私色に染まることは決定的でしょ?君は、私が好きなんだからね……?」

 小松はゆきを挑発するかのように、甘く艶やかな表情のある声で、ゆきに囁いてくる。

 小松の官能的な声にゆきが弱いことを知ったうえで、攻めてくるのだろう。

 本当に厄介な男だ。

 だが、その厄介なところも含めて、ゆきは小松が好きなのだから、始末に終えない。

「ゆき、君が私色をどれだけ薄くして、君色を際立たせるか、私はとても楽しみにしているよ」

 小松は本当に楽しそうにしている。

 彼にとっては、楽しい描けや痴話喧嘩程度のものなのだろう。

 ゆきはなかなか勝ち目のない闘いに挑んでしまったと思いながらも、後悔はないと思っていた。

「さてと、楽しみにお話はこれぐらいにして、今度は楽しくて幸せなデートを始めようか」

「はい」

 小松がしっかりと手を握りしめてくれたことを幸せに思いながら、ゆきもしっかりと握り締める。

「さてと、君が私にどのような抵抗をするのか、とても楽しみにしておくよ」

 小松は余裕の笑みを浮かべながらも、ゆきの手をしっかりと強く握りしめてくる。

 見つめてくれる瞳はこの上なく優しくて、ゆきは蕩けてしまいそうになった。

 

 楽しいデートが終わり、小松はゆきを車で家まで送り届けてくれる。

 いつもこうしてゆきを大切な女の子として扱ってくれるのが、何よりも嬉しかった。

 小松は、いつでもゆきをお姫様のように扱ってくれる。

 それがゆきにとっては最高にロマンティックなことであり、両親にとっても好ましいようだった。

 ゆきの家の近くまで車が来たところで、突如、停められてしまう。

「帯刀さん、もう少し家は先……んっ……!」

 いきなり抱き締められたかと思うと、そのまま深く唇を塞がれる。

 舌を荒々しく口腔内に入れ込まれて、くまなく愛撫される。

 完全に小松にイニシアティヴを取られてしまっている。

 拙いのは解ってはいるが、この情熱的なキスに溺れないわけにはいかなかった。

 激しいキスをされてしまい、ゆきはそのまま蕩けてしまうのではないかと思ってしまう。

小松の愛情と情熱を見せつけられて、嫌だという女がどこにいるのだろうかと、つい考えてしまう。 

 小松に抱きついてしまうと、このままどっぷりと小松色に染め上げられてしまいそうな気がして、ゆきは抱き付かなかった。

 これでしか、抵抗することは出来なかった。

 小松はそれが気に入らないようで、ゆきを更に強く抱き締めてくる。

 息が出来なくなるぐらいに抱きすくめられて、鼓動が激しく高鳴っていった。

 完全犯罪。

 小松らしい。

 だが、ゆきは抱きつかないようにと、必死の抵抗をする。

 だが、難しかった。

 小松が大好きすぎてしょうがないから。

 とうとう理性が蕩けてしまい、ゆきは小松に抱きついてしまった。

 すると、小松はこの上なく優しく背中を撫で付けてくれる。

 そのリズムがゆきにとっては愛しいものになった。

 ようやくキスが終わり、ゆきは理性をぼんやりとさせる。

 唇がぷっくりとふっくらと腫れ上がってしまう。

 潤んだ瞳を向けると、小松は柔らかく抱き締めてきた。

「君は可愛いね。可愛く私に抵抗を試みる。……全く、君は私を翻弄するのが上手だときている……」

 小松は艶と苦々しさが同居しているような声で呟くと、ゆきを抱き締めた。

「今の瞬間、君は私のことしか考えられないでしょ?だから、君は私色に染まっているということかな」

「帯刀さん……」

 小松の言う通りに、確かに小松色に染め上げられている。

 本当は元々染まっていて、その色が出てきたに過ぎないのだ。

 それはゆきだけの秘密だ。

 深い眼差しで真っ直ぐ見つめられると、本当に逃げられなくなる。

 ゆきは思わず目を伏せた。

「……しょうがない。今夜はお姫様をきちんとお送りしないといけないからね。お送り致しますよ、お姫様……」

 小松はステアリングを握り直すと、そのままゆきの家まで車を走らせる。

 キスの余韻が、ゆきを蕩けさせてしまい、甘くて切ない余韻に、胸がいっぱいになった。

 息が出来ないぐらいに、好きだ。

 もうそれだけで、ゆきは小松に染め上げられている。

 ほんのりと頬が明るい紅に染まり、唇はぷっくりと腫れ上がって紅くなっている。

 どちらも小松に染め上げられた、正真正銘の小松色だ。

 車が静かにゆきの家の前に停まる。

「着いたよ、お姫様」

「はい、有り難うございました、帯刀さん」

 ゆきは小松に丁寧に礼を言うと、車から降りた。

 小松は早々に車を出してしまう。

 ゆきは、小松の車を見送りながら、胸が苦しくて、どうしようもなくなる。

 小松色になんてとうに染め上げられている。

 こうして佇んでいるだけでも、小松色にどっぷりと染まっていた。





モドル ツギ