後編
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教会もあり、まるでこの町だけが時間の流れとは別に存在しているような感覚さえ覚える。 それほど外国の雰囲気を醸し出していた。 歩くだけで、まるで海外に来たような気分になった。 「ゆき様、教会に参られませんか?小松さまが是非にと仰っていますから」 「はい、有り難うございます」 ゆきは、教会の作りにかなり興味があり、この時代のデザインなどが見たくなった。 きっとかなり立派なのだろう。 考えるだけで、ゆきは楽しみでしょうがなかった。 小松が勧めてくれる教会だから、素晴らしいのだろう。 護衛もついていながらの見学なので、ゆきはどうしても落ち着かなかった。 だが、それだけ小松が重要な人物であるということなのだろう。 教会に入ると、その優美さに、ゆきは思わず声をあげた。 とても素敵な雰囲気だ。 やはり天井が高いのが魅力的だとゆきは思った。 見上げるだけで、かなり開放的だ。 「ゆき様、この奥の控室も素晴らしいんですよ。どうぞ……」 女性が扉を開ける。 すると、そこには、美しいウェディングドレスが置かれていた。 見事な刺繍で、気品があるのにとても豪華だ。 「帯刀公が是非にと。ゆき様、おめしかえをお願い致します」 まさか。ウェディングドレスが用意されているなんて、ゆきは夢にも思ってもみなかった。これには本当に驚いてしまう。 「髪を西洋風に結い上げることが出来る髪結いを連れてきております。準備をしましょうか」 「はい。有り難うございます」 泣きそうになるほどに、ゆきは嬉しい。 小松はいつもゆきのことだけを考えてくれる。ゆきが一番良い方向に、導いてくれるのだ。 それがゆきには嬉しかった。 「お化粧をして、髪を西洋風に結い上げましょうね。きっとお似合いですよ」 「有り難うございます」 小松は、神戸ならば洋風の結婚式を挙げることが出来ると、わざわざ準備をしてくれたのだろう。 ゆきはその気遣いも嬉しかった。 早速、ウェディングドレスに袖を通す。 絹で出来たウェディングドレスは、とても気持ちが良くて、ゆきはうっとりとする。 同時に、かなり高価で貴重なドレスを準備してくれた小松に、心から感謝した。 本当に幸せだ。 愛されているのだと、実感せずにはいられなかった。 ウェディングドレスを着て、クラシカルに髪を結い上げ、化粧をする。 嬉し泣きをしたいが、化粧が崩れてしまうので、何とか堪えた。 「きれいに完成しましたよ。どうぞ、鏡です」 鏡を出されて、ゆきはドキドキしてしまう。 いつもよりもずっと綺麗にして貰えたのが、ゆきには何よりも嬉しい。 本当に泣きそうだ。 「ゆき様、小松様が見えられましたよ」 小松の仕事が終わったのだ。 ゆきは緊張しながら、小松を待つ。 「小松様も洋装にされるので、少しお待ち下さいませ」 「はい。有り難うございます」 ゆきは、小松の洋装を見たことがあるが、素晴らしく似合っていた。 うっとりするぐらいだ。 ゆきは楽しみでしょうがなかった。 小松が来るまでの間、とてもそわそわする。 ゆきは喉がカラカラになるのを感じながら、何度も深呼吸をした。 まるで花嫁を待つ花婿のような状況になり、苦笑してしまう。 「小松様のお支度が整ったようですよ」 「有り難うございます」 女性はゆきを見て微笑むと、ブーケを手渡してくれる。 「西洋の婚儀には必要なものでございましょう?」 手渡されたブーケは、日本特有の花で彩られていたが、それもまた落ち着いた美しさを滲ませていた。 「有り難うございます」 ゆきはブーケを受け取りながら、今度こそ感極まって泣きそうになった。 「さあ、小松様が教会でお待ちですよ。写真もお撮りするように手配済みですからね」 「有り難うございます」 ゆきはなるべく泣かないようにと気遣った。折角、綺麗にしてもらったのに、お化粧が崩れてしまうのが嫌だからだ。 ゆきはなるべく笑いながら、小松を待った。 「小松様が見えられましたよ」 声がかけられたあと、小松がゆっくりと部屋の中に入ってきた。 小松は、紳士らしい燕尾服を着ている。ゆきにとってはクラシカルなデザインではあるが、とても素敵だと思った。 小松を見ているだけで素晴らしいと、ゆきはついうっとりと見つめてしまう。 「ゆき、お待たせしたね」 ゆきが小松に魅了されていると、柔らかく声をかけられた。 「帯刀さん……」 ゆきがはにかんで小松を見つめると、フッと微笑みをくれる。 「やはり似合っているね。今日は素晴らしく綺麗だね」 「帯刀さん……」 小松に、『綺麗だ』と言われるのが、ゆきにとっては最高に嬉しいことなのだ。 瞳に涙をいっぱいためていると、小松が困ったように笑った。 「君は困った子だね……」 小松はゆきの眦に溢れた僅かな涙を、指先で拭ってくれた。 「さあ、行こうか」 「はい」 小松は、ゆきの手を握り締めて、ゆっくりと歩いてくれる。 そのままクラシカルな作りの教会に入った。 教会の祭壇には、牧師がにこやかに待ち構えていた。 ゆきは泣き笑いを浮かべると、小松の腕をしっかりと取り、背筋を伸ばして、ゆっくりと祭壇の前に進んだ。 ふたりは、永遠の愛を誓うために、互いに向き合う。 薩摩の武家流の婚儀は挙げてもらっている。 だが、小松はゆきのためにこの機会を作ってくれたのだ。 小松の気持ちを考えるだけで、ゆきは、胸がいっぱいになる。 「病めるときも、健やかなるときも、死がふたりを分かっても、あなた方は愛し合うことを誓いますか?」 牧師の言葉を神聖に感じながら、ゆきと小松は、お互いの目を見つめ、深々と頷く。 「誓いのキスを」 ふたりは唇を重ねて、永久の愛を誓った。 お互いの愛が永遠であることを、肌で強く感じたことは、言うまでもない。 ゆきは、世界で一番素晴らしい結婚式が挙げられたと、強く感じていた。 唇が離れる。 「ゆき、これからもよろしく」 「よろしくお願いします」 今回の婚礼で、更にふたりの絆が、深くなった。 式のあと、記念に写真を撮る。 一生忘れない。 ゆきは、素晴らしいプレゼントをくれた小松に、心から感謝をした。 神戸。 きっと一生忘れない。 小松とふたりで更なる思い出が、また刻み付けられた。 |