*Birthday*


小 松と付き合うようになって、もうすぐ三年になる。

 ゆきにとっては、幸せな時間であったことは確かだ。

 小松のそばにいるだけで、世界で一番の幸福者だと思わずにはいられない。

 大好きなひとのそばにいるというのは、本当に幸せでたまらないことだ。

 恋をする。

 愛するひとのそばにいて、ずっと一緒にいられるというのは、どんなに幸せななのだろうか。

 ゆきはそんなことを最近は考えては、ニヤニヤと笑っている。

 

 ゆきもまもなく、成人を迎える。

 法的に大人として認められるのだ。

 昔と違って、大人になるまでには時間があるのは羨ましいと、小松に言われて、確かにと思う。

 ゆきが年齢にしては幼かったことも、この世界の制度が関係しているのだと、小松には妙に納得されてしまった。

 だが、もう子供ではないと、法的に言われてしまう年齢になった。

 大人としての振る舞いが必要になってくるのだ。

 ゆきは、どうすれば大人の女性のように振る舞えるのか。

 それが解らなくて、今は悩んでしまう状態だ。

 小松とはお付き合いをしているが、これからは大人として扱われるのだろうか。

 大人に相応しい振る舞いが出来なければ、そばにいて貰えないのだろうか。

 ゆきの望みはたったひとつ。

 小松と一緒にいたい。

 ただ、それだけなのだ。

 小松の隣には美しくて大人の女性がよく似合う。

 だが、ゆきはそうではない。

 甘やかされてきたこともあり、子供の部分が大きい。

 だからこそ、背伸びをしなければならないのかと、そればかりを考えてしまう。

 

 ゆきの二十歳のバースデー。

 ゆきは、小松とバースデーデートをする。

 飛びたいぐらいに幸せな気分で、ゆきはドキドキする。

 忙しい小松がこの日のスケジュールを空けてくれていたのも、嬉しかった。

 ゆきは、いつも以上に大人びた素敵なスタイルになりたくて、膝たけの、ホルダードレスワンピースを着た。

 何だか往年のハリウッド映画のようなデザインだったが、シンプルで可愛いデザインが気に入って買ったものだ。

 ふんわりとしたバルーンスカートも素敵だ。

 唇を美しく官能的に見せるルージュを塗り、ゆきは何だかドキドキする。

 自分であって自分でないような気がしたから。

 また、足が綺麗に見えるヒールを履いて、更に大人の女性に見られるように努力をした。

 折角の二十歳のバースデーなのだから。

 大好きなひとと過ごすことが出来る、記念すべきバースデーなのだから。

 ゆきは準備を終えて、落ち着かない気分で小松を待った。

 いつもならば、小松の会社近くで待ち合わせをするのであるが、今日はお迎えに来てくれるのだという。

 これはゆきにとっては、お姫様になったようで嬉しい。

 そわそわしていると、母親が苦笑いを浮かべたぐらいだ。

「ゆき、もう少しだけ落ち着いたらどうなの?」

「う、うん。嬉しくて落ち着けなくて」

「本当にあなたはいつまでも子供なんだから」

「もう子供の歳じゃないよ」

 本当にいつまでも子供じゃないし、いられない。

 小松のそばにずっといたいのなら、やはり大人の女性にならなければならないのだ。

 ゆきはそれを心底感じずにはいられない。

「……だけどそうしていると、ゆきももう大人なのね……。私たちも年がゆくははずね」

 母親は何処か嬉しそうに呟いた。

 インターフォンが鳴り、ゆきはバッグを持って、慌てて玄関先へと向かい、ドアを開けた。

 すると、スーツ姿の小松が立っていた。

「……お待たせしたね、お姫様」

「こんにちは、小松さん……」

 相変わらず小松は艶やかで、ゆきは胸が激しく高鳴り、息が出来ないぐらいに高まってしまう。

 なんてロマンティック。

 ゆきはうっとりと見つめることしか出来なかった。

「ゆき、いつまでもここに居るわけにはいかないでしょ?邪魔になるよ。さ、行くよ」

 小松がごく自然に、しかも艶やかに手をさしのべてくれる。

 大人の男性の思慮深い手に、ゆきは思わず笑顔になる。

 ドキドキしながらしっかりと手を取ると、小松は力強く握り締めてくれた。

 息が出来ないぐらいに幸せで、ゆきはこのまま時間が止まってしまっても構わないとすら、思ってしまう。

 なんて幸せでロマンティックが沢山詰まっているのだろうか。

 うっとりとしていると、小松はフッと微笑む。

「さ、ぼんやりとは出来ないよ。行くよ」

「はい」

 ゆきは小松と一緒に、夢見心地で家を出る。

 まるで雲の上を歩いているかのような幸せを感じる。

 小松はそのまま車へとエスコートしてくれた。

 今日は本当にスペシャルな日だと思う。

 こんなにも幸せでドキドキする1日はないのではないかと思ってしまう。

 乗りなれている小松の車ではあるが、今日はカボチャの馬車にでも乗っている気分になった。

 本当にふわふわした気持ちだ。

「どうしたの?今日はさっきからぼんやりとしているね」

 小松はからかうように言うと、ゆきに薄く笑った。

「何だかドキドキしているんです」

「そんなにもドキドキしていたら心臓が持たないでしょ?私の車なんて、乗りなれているだろうに……」

 小松は呆れたように呟いたが、何処か楽しそうにもしている。

「確かに乗りなれてはいますが……、それは、その……、今日は特別な日だから、緊張してしまいます……」

「そうだね……。確かに今日は特別な日だ……。君にも、私にも……ね」

 小松にとっても特別な日。

 それがゆきには嬉しくて、つい笑顔になってしまった。

「だけど、嫌なドキドキではないんです。興奮にも似たドキドキというか……。凄く嬉しいドキドキです」

 ゆきはほおを紅潮させながらいうと、小松を見た。

「……ったく君は……。私が、車を運転中であるということを自覚しているの!?」

 小松は深い溜め息を吐くと、いきなり車を路肩に停めてしまった。

「……!?」

 車が停まったかと思うと、ゆきはいきなり抱きすくめられた。

「……私の運転を邪魔する子はお仕置き……」

 小松は意地悪に微笑むと、そのまま唇を重ねてきた。

 唇はしっとりと熱くて、ゆきを翻弄する。

 情熱的な大人のキスに、ゆきはうっとりとしてしまう。

 今、ここがどこであるかなんて、本当にどうでも良いと思うぐらいに、ゆきはキスに夢中になる。

 世界でたったひとりの大好きなひと。

 このひとに受けるキスは、世界で一番素晴らしいものだと、思わずにはいられなかった。

 





モドル ツギ