*Birthday*


 小松に深いキスをされると、ゆきはうっとりと蕩けてしまいそうになる。

 小松のキスは何度も受けているけれども、こんなにもロマンティックで、情熱的なキスは初めてかもしれない。

 これぞ大人のキスだと、ゆきは思った。

 なんて濃厚で艶やかなキスなのだろうか。

 ゆきはキスの後も、暫くぼんやりとしていた。

 暫くは、今、車の中にいるのだということを、思い出せずにいた。

 ぼんやりとしている間に、車が動く。

 静かに動き始めて、ようやく車に乗っているのだと、ゆきは気づいた。

「……ようやく正気に戻った?」

 くすりと笑いながら、小松が声をかけてきた。

 ゆきは真っ赤になりながら、つい俯いてしまう。

「……元から正気です……」

 恥ずかしくて、ゆきはまともに小松を見ることが出来なかった。

「……君も気を付けたほうが良いよ」

「何をですか?」

「……無防備に私を煽るような可愛い態度や言動を控えたほうがら良いって、言っているんだよ」

 さらりと言われて、ゆきは益々ドキドキして、恥ずかしくなってしまった。

「……そ、そんなことは、していないと思っているんですけれど……」

 ゆきは小松の甘くからかうよう眼差しにドキドキし過ぎて、これ以上真っ直ぐ見つめることが出来ない。

 ドキドキがおかしくなる。

「……ゆき、本当に君は無自覚だね……。捕まえておかないと、何処かに飛んでいってしまうかもしれないね」

 小松は苦笑いを浮かべると、意味深に手をしっかりと握りしめてきた。

 小松に手を握り締められるだけで、ゆきは震えてしまうぐらいにときめいてしまう。

 付き合って随分経つのに、ゆきは未だにスキンシップが馴れない。

 かといって嫌いというわけではなく、むしろ、もう少し触れられたいとすら、思ってしまっていた。

「小松さんだから、ドキドキし過ぎるのかな?きっと……。嫌ではない感情です……」

「可愛いことばかり言っていると、また、おしおきをしなくちゃならなくなるでしょ?」

 小松のお仕置きは、甘くてロマンティックで、それでいてほんのりと意地悪が入っている。

 それがゆきにとってはたまらなくドキドキしてしまうのだが。

 勿論、甘さがたまらなく好きだということもある。

 小松の車がまた路肩に停まる。

 すると素早く抱き締められて、深い、深い、キスをされた。

 先程よりも更に官能的なキスだ。

 ゆきはまた、このちいさな空間が何処であるかということが、解らなくなってしまった。

 甘くて深いキスに夢中になる。

 このままだと、本当にいつまでたっても、目的地には到着しないような気がした。

 小松は、ゆきの唇がぷっくりと官能的に脹れるまで、何度も何度もキスをする。

 今日はいつも以上に甘くて情熱的なキスが何度も続く。

 まるで小松が我慢できないかのように何度も何度もキスをされる。

 ゆきは、もうここが何処であるとか、どうでも良くなってきた。

 ただ、甘いキスを何度も欲しいと思った。

 二十歳の記念すべきバースデープレゼントは、小松で良い。

 小松を貰うだけで充分だ。

 貰うと言っても、ゆきの中ではそばにいるという意味合いはのではあるが。

 小松はゆきに何度もキスをした後、ゆきをギュッと抱き締めた。

「……ったく。このままだと、レストランの予約時間に遅れてしまうよ……」

 小松は深い溜め息を吐くと、再びステアリングを握って、走り出し始めた。

 キスを始めたのは小松ではあるが、ゆきも夢中になって応えてしまったので、何も言えなかった。

 

 ようやくレストランに到着し、小松はレストランにエスコートをしてくれる。

 しっかりと指を絡めて手を繋いで、ふたりはレストランに入った。

 最高のバースデーだ。

 愛するひとと一緒にいる。

 ただそれだけで、ゆきは幸せでしょうがない。

 小松が毎日一緒にいれば、本当に毎日がバースデーのようなスペシャルな日になる。

 ゆきはここまで愛することが出来るひとと結ばれて、本当に幸せだと思う。

 一緒にいられること。

 それが人生最高のプレゼントだと思った。

 席に案内をされて、ゆきは小松とふたりで席につく。

 いつもは和食が多い小松だから、このような西洋的なレストランにつれていってくれるのは、とても珍しいことだった。

 ゆきはそれがかえって新鮮で楽しいと思ったのは、勿論、言うまでもないことだ。

「……小松さんがレストランなんて珍しいですね」

「郷に入れば郷に従えっていうでしょ。今夜は西洋的なレストランが良いと思ったんだよ」

「ありがとうございます」

 小松が自分のためにプランを立ててくれたのが、ゆきには嬉しくてしょうがない。

 ふたりで食事をするだけで、とても親密な感じがする。

「美味しいですね」

「そうだね。だけど私は、君が作ってくれる素朴な味付けのほうが、好きだけれどね」

 小松がさらりと言ったが、ゆきは嬉しくて頬を赤らめながら微笑んだ。

「ありがとうございます。また、作りますね、小松さん」

「頼んだよ」

 小松は優しい笑みを向けてくれる。

 優美な微笑みは、ゆきのこころをたっぷりと甘く満たしてくれた。

 食事をしながら、つい笑顔になってしまう。

 ゆきは表情を和らげながら、小松ばかりを見つめる。

 大好きなひとと一緒にいる。

 それだけで、ゆきは幸せな気持ちになれる。

 これだけで充分なバースデープレゼントだと思った。

 デザートの時間になる。

 この楽しいひとときもおしまいだと思うと、妙にさびしい気分になった。

「ゆき、誕生日だから贈り物が必要だね」

 小松はプレゼントが入ったちいさな紙袋をそっと取り出す。

「君も二十歳だ。この世界で言えば成人だということだね。誕生日おめでとう」

 小松が紙袋から取り出したのは、小さなジュエリーボックス。

 それを小松がそっと開けると、そこにはダイヤモンドが輝く指環が入っていた。

 ゆきは一瞬、なにが起こったかが解らなくて、目を大きく見開きながら小松を見上げる。

 すると、小松はフッと笑った。

「さっきも言ったけれど、郷に入れば郷に従えでしょ」

小松はケースから指輪を取り出すと、ゆきの左手を手に取った。

「……私と結婚して下さい」

 まさかの小松のプロポーズに、ゆきは瞳に大きな涙を溜める。

 予想以上のバースデープレゼントに、ゆきはもう言葉に出来ないぐらいに嬉しくなる。

「……はい……」

 笑おうとしても上手く笑えないぐらいに感動してしまう。

 ゆきは、泣きそうになりながら、ただ大きく頷く。

「お願いします」

 ゆきが頷くと、小松は左手薬指に指輪をはめてくれる。

「……君が成人したら必ず求婚しようと決めていたんだ……」

「……ありがとうございます」

 ゆきは泣き笑いの表情で、小松を見る。

 最高に想い出に残るバースデーになった。

 





マエ モドル