前編
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愛されている。 愛している。 それを感じるには、計るには、何を目安にしたら良いのだろうか。 ゆきはよくわからない。 贈り物だとかで、それが図られるとも思わない。 優しさだとか、気遣いだろうか。 そのような表現が苦手なひともいるだろうし、誰にたいしても気遣いが上手いひともいるだろう。 愛の形何てそれぞれだし、どうしたら、甘い愛情を確かめられるのだろうか。 ゆきは、つい、考えてしまう。 小松ならばどういう風に確かめられるのだろうか。 やはり、恋人である以上、どれだけ愛されているのかが知りたい。 同時に愛していることを、しっかりと小松に伝えたい。 そんなことをじっと考えてしまう。 友人たちの多くが恋人を持つようになり、徐々に愛情表現が変わってきていると、聞いている。 ゆきと小松の愛情表現も、そろそろ変わって来るのかもしれない。 まだまだ、ゆきに気遣ってくれているのか、キス止まりだ。 キスからそれ以上のことは、ゆきにとってはかなりのハードルになる。 だが、愛されている情熱と証も知りたい。 複雑な気持ちに、ゆきは揺れる。 いつ、それ以上のことが起こるのか。 そして、それはどのようにして起こるのか。 全く想像することが出来ない。 ゆきは、それ以上のことが起こるのではないかと、期待と不安を入り雑じらせて、小松とデートをしていた。 昼間はデートを楽しんでいるのだが、夕食時間になると、最近、そわそわすることが多い。 それ以上のラインを超える準備が出来ていないからと、かえって不安になるのだ。 いつもそれ以上のことは、結局、起こらなくて、やきもきしただけ無駄になるのだが。 それでも毎回、もやもやと考えることを止められないのだ。 今夜も夕食時に、やはり落ち着かなかった。 小松は、ゆきが何を考えているのかを見透かすように、じっと見つめてきた。 小松の眼差しに晒されるだけで、ゆきは気まずいドキドキを感じて、益々落ち着かない。 「ゆき、そろそろ帰ろうか。送ってゆく」 「は、はい」 小松がお開きだと言ってくれたので、ゆきはホッと身体から力を抜いた。 小松と車に乗り込むと、今日も何もなかったことへの安堵と、残念な気持ちとで、複雑怪奇な気分だ。 先の展開を期待しているのか、恐れているのか、すら、ゆきには全く分からなかった。 車に乗りながら、ふと、車窓に流れる景色が、いつもとは全く違っていることに、ゆきは気付いた。 「帯刀さん、方向が違うような気がしますが……」 「そうだよ。君に少し訊きたいことがあるからね。私の家に向かっている」 「え……?」 「何だかさっきから落ち着きがないでしょ。君は。最近、昼間は楽しそうなのに、どうして、夜になると落ち着かなくなるのか。そこを訊きたくてね。レストランだとか、誰が聞いているか分からない場所より、うちのほうが良いだろうからね」 やはり小松は気づいていたのだ。ゆきの落ち着きがないことを。 ゆきは思わず溜め息を吐いた。 どう、言えば良いのだろうか。 キスの後のことが起こると心配して、そわそわしているなんて。 そんなことを言ったら、小松に嫌われるのではないだろうか。 そんなことばかり、ゆきは考えてしまい、益々、気分が重くなった。 全く落ち着かない。 出るのは、溜め息ばかりだ。 「ゆき、そんなに深刻なのかな?」 「し、深刻ではないんですが……」 深刻ではないし、笑い飛ばされるようなことでもある。だが、口にすると、軽蔑されるのではないかと、心配してしまうことでもある。 ゆきは腹を括るしかないとは思いながらも、落ち着かなかった。 「まあ、後でじっくりと話は聞かせて貰うから、そのつもりで」 小松は意味ありげに言うと、運転に集中してしまった。 いよいよ追い詰められる。 ゆきはそのような気分だった。 小松の家に入ると、ゆきの緊張は頂点に達した。 「座って、先ずは落ち着こうか。何を飲む?紅茶や珈琲なら出せるけど」 「あ、あの、紅茶でお願いします……」 「分かった」 小松はいつも通りで、淡々としている。これに対してゆきは、落ち着かなくて、挙動不審だ。 「ゆき、そんなにきょろきょろしないの。そんなに落ち着かないということは……、……何か、やましいことでもあるのかな?」 小松は、ゆきに紅茶を出しながら、意味ありげに微笑んでいる。 その笑みに、ゆきは隠せないことを悟った。 甘いのに意地が悪く何処か冷たさすら感じられる微笑み。 ゆきは、動揺せずにはいられない。 「ゆき、率直に訊くよ。私は包み隠すような聞き方は出来ないからね」 「は、はい」 緊張が走る。 小松には何も嘘を吐けない。 「ゆき、君は夜になると、どうして落ち着かなくなるのかな?」 小松に真っ直ぐ見つめられながら言われると、ゆきは何も言えなくなる。 追い詰められた気分だ。 「それは……、キスより後はいつからなのかと……」 ごにょごにょと言いながら、ゆきは泣きそうな気分で小松を見た。 「そんなことを気にしていたの?君は」 小松は半ば呆れるように見つめている。 「嫌なの?」 あからさまに不快そうな声だった。 「嫌、では、ないのですが……。突然、そのようなことが起こったらどうして良いのかが、分からないですし……、それに、なければ、ないで、深く愛されていないかと思ったり……、それと、帯刀さんに子供のように見られているのかと、思ったり……」 ゆきは、たどたどしく言葉を紡ぎながら、小松を見上げる。 素直な気持ちだった。 「君は全く……、昔から妙な心配ばかりをする子だね……」 小松は苦笑いを浮かべ、ゆきを見つめた。 「ごめんなさい……」 「そんな可愛い理由で落ち着かないなんて、君らしいね」 小松は微笑むと、ゆきを抱き締めた。 抱き締められると、ドキドキする。 同時に心はとても満たされる。 「そんなことは、ごく自然に準備が出来るものなんだよ」 小松の言葉に、甘い緊張が駆け抜けた。 口付けられて、ゆきはようやく落ち着く。 もう一度抱き締められると、更に深いキスを受けた。 甘い口付け。 キスが深くなる余りに、ゆきは夢中になる。 まるで夢のなかにいるようだった。 こんなにも幸せなことはないと、ゆきは感じずにはいられなかった。 |