*京都へ*


 ふたりが辿った道を、しっかりと確認しておきたくて、小松とゆきは京都に向かった。

 ふたりが過ごした“京”とは、似てはいても、その未来だとは言い難い。

 だが、似ているという意味では、同じかもしれない。

 新幹線で京都に向かう。

 車でも構わなかったが、小松に負担がかかるから、ゆきは新幹線を選択した。

 のんびりとふたりで新幹線を乗るのも良い。

 富士山が見られたり、沿線の景色が見られたり。

 小松とのんびりと話が出来るのが嬉しい。

 初めてのふたりきりの旅行。

 その行先に京都を選んだのは正解だと、ゆきは思った。

 今回は、小松にしては長い休みが取れた。

 二泊三日だ。

 京都をのんびりと、ゆっくりと回るつもりだ。

 ゆきは幸せな気持ちを抱きながら、横にいる小松を見つめた。

「帯刀さん、楽しみですね」

「そうだね。君の世界の未来の京と、私が生まれ育った京都とは、弱冠、異なるだろうけれど、楽しみではあるね。連理の榊はここにもあるらしいからね……。本当に楽しみだね。薩摩藩邸が、大学になっているとは、興味深いけれどね」

 小松は、現代と幕末の地図が重なる本を読みながら、懐かしそうに微笑んだ。

「この幕末の地図と、帯刀さんの時空の地図とは、異なるところはありますか?」

「……いや、変わらないね。私の記憶は正しければ、全く差はない。君がよく通ってくれた薩摩藩邸の位置も同じだからね……。清水寺寺の位置も同じ……。本当に、異世界なのかと、私は思うね。ただ、違うところは、怨霊がいるか、いないか、ぐらいかもしれないね……。人も同じ名前の同じような人物が生まれているしね。ただ、君の世界に怨霊がいたのか、居なかったのかは、判断が難しいかもしれないけれどね……」

 小松は溜め息を吐きながら、地図をじっと見つめた。

「楽しみです。帯刀さんと一緒に京都をのんびりと巡れるのが」

「そう……。それは良かった」

 小松はフッと微笑むと、ゆきを見た。

「京都には色々と美味しいものが有るようですから、それも楽しみですよ」

「君は食い気が先行するね」

 まるでゆきが子供っぽいと言わんばかりに、小松は呟く。ゆきは恥ずかしくて、つい頬を真っ赤にさせました。

「和のスウィーツは本当に美味しいんですから」

「はい、はい」

 小松はゆきを子供のように見ては、笑っている。それがほんのりと癪に障った。

「まあ、私は、君とふたりの思い出巡りも兼ねて、楽しもうと思っているよ」

 小松は優しくて何処かノスタルジーが感じられる視線を宙に投げ掛けていた。

「私もそれが一番ですよ」

「和のスウィーツよりも?」

「勿論ですよ」

 ゆきがキッパリと言うと、小松はただ笑っていた。

 新幹線は一路西へと向かう。

 富士山の美しさに、ふたりで見惚れたりしているうちに、名古屋を過ぎる。

「次は京都。あっという間だね。徒ならば、ここまで一気に進めないからね」

「確かに」

 小松とふたり、車窓に映るメガソーラーを見たり、景色を楽しむ。

「薩摩の家老だった平田殿が治水工事をしたのは、恐らくこの辺りだろうね……。想像出来ない程に、発展しているね」

「そうですね。きっと昔の方がこの地域を守って下さったからこうなったのでしょうね」

「そうだね」

 小松は感慨深げに車窓を眺めていた。

 やがて比叡山が見えてくる。

「間もなく京都です。お乗り換えのご案内を致します、東海道線は……」

 車掌のアナウンスが始まると、小松の大きな手が、ゆきの小さな手を、包み込むように握り締める。しっかりと握り締められて、ゆきは胸がキュンと締め付けられる程に高まった。

 小松とふたりだけの初旅行。

 両親公認の仲だから、喜んで送り出してくれた。

 とても幸せな気分だ。

 小松はゆきの手を握り締めたままで、荷物を下ろしてくれる。

 こうして手を繋ぎながら、荷物を下ろしてくれるのに、ついときめいてしまう。

 新幹線が京都で停車すると、小松はホームに降り立ち、迷うことなく歩いて行く。

「ゆき、奈良線に乗り換えて、東福寺でまた、京阪電車に乗り換えるから。大きな荷物は宿に運んで貰えるように手配している。タクシーを手配しても良かったけれど、今回は、君とふたりだけで回りたいから、このパターンになったよ。済まないけれど」

「わたしもそのほうが嬉しいです」

「そう、それは良かった」

 ゆきも今回の旅は特別であることぐらいは分かっている。

 ゆきもまた、ふたりきりでいたかったのだ。

「私もそれが嬉しいです」

「それは良かったよ」

 小松はゆきの手を更に強く握り締めた。

 しっかりとお互いの絆を感じることが出来る。それがとても幸せ。

 ふたりで、電車やバスを乗り継いで旅をするのは、とっておきのことのように思えた。

 荷物を宿に運んで貰えるサービスを利用したあと、ふたりで電車に乗り込む。

 手を繋いだままで電車に乗るというのは、なんてロマンティックなんだろうか。

 ゆきはつい笑顔になる。

 直ぐに乗り換えて、今度は出町柳まで向かう。

 地下を走るので景色が見えないのが、残念だった。

 いよいよ、下鴨神社がある、出町柳に降り立った。

「帰りはふたばの豆餅を買って帰りましょう」

「君は甘いものに本当に目がないね」

 小松はしょうがないとばかりに苦笑いをしていた。

「みたらしだんごもありますよ。だって、発祥の地なんですよね! 関西のお団子は三つだと伺いましたよ」

 ゆきが一所懸命に話しているのを、小松はじっと優しく聞いてくれていた。

 鴨川べりを歩いて、糺の森へと入ってゆく。

 その瞬間、気持ちが引き締まる想いがする。

 神が宿るという、糺の森。

 神聖な雰囲気を感じて、ゆきは身震いがする。

 原生林のままで残されている意味が、ゆきには分かるような気がした。

 神が宿る。

 それは確かだ。

 ゆきは大きく深呼吸をした。

「……ここには、神様がいるような気がします」

「確かにね」

 握り締めてくれている小松の手の力がとても強くなる。

「連理の榊が役割を終えても、必ず次の連理の榊が出てくるんだから、神が宿っていてもおかしくはないだろうね。さ、行くよ。1日は短いからね」

「はい」

 小松とふたりで手を繋いで、堂々と連理の榊を見に行く。

 ふたりがここにいられるのは、きっと、連理の榊に祈ったからに違いない。

 ゆきは、時空は違うかもしれないが、きちんと礼を言おうと思っていた。



モドル ツギ