*京都へ*


 糺の森を抜けると、柔らかな日射しと共に、下鴨神社が見えてくる。

 変わらない。何一つ。

 ゆきが小松とふたりで見に行った、下鴨神社と。

 生まれ育った世界も、小松が生まれ育った世界も、何も変わらないのだ。

 本当に何一つ。

 変わらないことの素晴らしさを感じずにはいられない。

 ゆきは、感動で魂が震えるのを感じずにはいられなかった。

 ふと小松の手の力が更に強くなる。

 そこから、沢山の愛が感じられる。

「……行こうか」

「はい」

 ゆきは深呼吸をして、背筋を真っ直ぐ整えると、愛する小松と一緒に、のんびりと真っ直ぐ歩いてゆく。

 心が、澄み渡ってくるのを感じずにはいられなかった。

 連理の榊の前までやってくる。

 小松と一緒に見た、あの連理の榊と何も変わらない。

 泣きそうになるぐらいに素敵な愛を感じる。

 小松とふたりで、ずっとこうしていられたらと、思う。

 連理の榊のように、ずっと寄り添っていられたら良いのにと思わずにはいられない。

 ゆきが熱心に見つめているのを、小松は見守るような優しい瞳で見つめてくれていた。

「……ゆき、祈ろうか」

「はい」

 ふたりでしっかりと手を合わせて、深く祈らずにはいられない。

 かなり長く祈っていたのかもしれない。

 連理の榊と同じように、ずっと小松と寄り添っていられるように。

 ゆきが祈り終わると、小松は苦笑いをする。

「ゆき、随分と長く祈っていたね。そんなに祈ることがあった?」

「秘密です」

 ゆきが何を祈っていたのかを、大体分かっていたくせに、小松はからかうように訊いてくる。

「そう……。後でじっくりと聞こうかな」

 艶のある意地悪な声で小松に囁かれると、ゆきは鼓動が早くなってどうしようもなくなった。

 ふたりでもう一度、連理の榊を見つめる。

「不思議だね……。枯れても、枯れても、いつも糺の森に新しい連理の榊が生えてくるそうだよ。ひとが寄り添うというのは、何よりも素晴らしい事なのだろうね」

 小松はしみじみと言うと、ゆきを見た。

「いつまでもこの連理の榊と同じように、私たちも一緒にいないとね。連理の榊に約束をしたんだから」

 小松はゆきをさりげなく抱き寄せる。

 まるで連理の榊のように。

 ときめきと幸せで、胸がいっぱいになってくる。

「……ずっと一緒にいたいです……」

 恥ずかしくて、ゆきは真っ赤になりながら、小松に寄り添った。

 連理の榊のようにずっと一緒にいたい。

 ふたりの願いが重なれば、神様は、連理の榊は叶えてくれる。

 ゆきは、そう信じて、疑わなかった。

 

 御神籤を引いたり、参拝をしたりして、ゆきたちはのんびりと散策をする。

 神社を愛するひとと回るというのは、とても幸せだとゆきは感じずにはいられなかった。

「さて、次に行くよ」

「みたらしだんごと、ふたばの豆餅!」

「君は本当に食い気ばかりだね。そんなに食べられないでしょ?お昼御飯もあるんだから……」

「少しずつだけですよ、帯刀さん。別腹ですから」

「全く、君はしょうがないね……」

 結局、ゆきはみたらし団子を一本買い求め、豆餅も買い、ほくほくになる。

 みたらし団子だけは、その場で食べた。

「関西のお団子は四兄弟なんですね。もちもちしていて、とっても美味しいです。流石はみたらしだんごの元祖ですね」

 ゆきがもちもちと団子を食べているのを、小松は見守っていてくれた。

「さて、祇園まで出るよ。今日はその周辺をゆっくり回ろうか」

 再び電車に乗り込み、今度は四条で降りる。

「この駅を出ると、直ぐに祇園だ。祇園社と円山公園を回ろうか」

「はい」

 駅に降りて、祇園から円山公園に向かって歩き出す。

「可愛い和雑貨のお店が多くて楽しいですね。見ごたえがありますね。あ、手鏡とかがありますよ」

「懐かしいね。君はずっと大事にしてくれているね」

「はい。あの手鏡は宝物なんですよ」

 小松は嬉しそうにフッと微笑んでくれる。

 ゆきは、和雑貨の土産物店を覗きながら、華やいだ気持ちになる。

 その間も、小松はずっと手を繋いでいてくれた。

 その手が結ばれているからこそ、ゆきは幸せで安心していられた。

「さて、祇園社にお参りをしようか」

「はい」

 少し山手にある、八坂神社へと向かう。

 お参りをして、円山公園へと向かうのだ。

 八坂神社に入ると、小松は立ち止まる。

「ここも、変わらないね。良きものを残していることに、敬意を感じるよ」

「はい」

 ふたりは、ご利益があるという、パワースポットでもある、祇園社にしっかりと祈る。

 祈ると、不思議なぐらいに心が透き通ってきた。

 ゆきは、愛するひととふたりだけで、こうして縁の場所を回ることが出来るのが嬉しかった。

 沢山の力と愛を貰った後で、ゆきたちは円山公園へと向かった。

「ここには、こんなにも趣がある洋館があるんだね。随分と古そうだね。だけど、調和しているね」

「長楽館というそうですよ。カフェとレストラン、ホテルらしいです。カフェはココアがお勧めらしいですよ!」

「……君ね、これ以上、甘いものを食べたり、飲んだりするのは止めなさい。きちんと、食事は取りなさい」

「はい。そうします……」

 まるで小さな子供のように怒られてしまい、ゆきはすっかりしょんぼりとしてしまった。

「後で抹茶と和菓子を用意するから、それまで我慢しなさい」

「はい」

 小松はやはり代わりになることをちゃんと考えてくれている。

 ゆきはにんまりと笑ってしまった。

「円山公園には、龍馬と中岡くんの像があるらしいからね。それを、見に行こうか」

「はい」

 小松と手を繋いで、龍馬の像を見に行く。

 この世界の龍馬と、小松の世界の龍馬は、明らかに違う。

 だから、切ない気分になる必要など、少しもないのだ。

 坂本龍馬と中岡慎太郎の像の前に立つ。

 荘厳に感じずにはいられない。

「……新しい国のために命をかけ、旧い国のせいで命を絶たれる、か……」

 小松は感慨深げに呟くと、もう一度、坂本龍馬と中岡慎太郎の像を見上げた。

 小松の切ない眼差しを、ゆきはずっと見上げていた。

「ゆき、行こうか……」

「はい」

 小松としっかりと握り締めると、ゆきの手を引いて、円山公園を後にした。

 ゆきは、もう一度、振り返って、中岡と龍馬を見上げる。

 ゆきは、あの時代の龍馬と中岡が、どうか無事であるようにと、彼らの夢を叶えられるようにと、祈らずにはいられなかった。



マエ モドル ツギ