*京都へ*


 食卓に並べられた、見事な京料理は、見た目はとても美しくて、繊細だ。

 目で見るだけで、美味しそうだとゆきは思った。

 美味しそうで、ついうっとりと見つめてしまう。

「食べるのが勿体ないですね」

「そうだね。本当に綺麗だ。だけど……」

 小松は意味ありげに笑みを浮かべると、ゆきを凝視する。

 こんなに艶やかな視線を向けられたら、つい震えてしまう。

 柔らかに震えると、小松はフッと和菓子よりも甘い笑みを浮かべた。

「ね、ゆき。美しくて清らかで、繊細なものだからこそ、壊したいって、思わない?」

 小松は低いトーンの声で、背中がゾクリとしてしまうぐらいに官能的に話をする。

 とどめに、小松が冷たいほどに熱いあだめいた眼差しを向けてくるものだから、ゆきは身体の芯が蕩けて脱力してしまうのではないかと、思った。

「さあ、食べようか。料理も評判だそうだからね。ほら」

「はい」

 小松と向かい合わせで、食事を始める。

「あ、おだしが利いていて美味しいです!」

「京料理は特にだしにこだわっているからね」

「美味しい。今日は食べてばっかりですね、私」

「まさか、今日の感想は、“美味しい”じゃないだろうね?」

「……その、まさかだったりします……」

 ゆきは恥ずかしくてしょうがなかったが、素直に自分らしい感想を伝えた。

「……やっぱりね。だけど、君らしいとは、思うけれどね……」

「そうですか?」

「そうだよ」

 小松はまたくすりと笑う。

 ゆきがまだまだ子供だと思っているのだろう。

「子供みたいだと、思っていますか?」

「思ってはいないよ。こどもだと思ているのならば、こんなことはしないでしょ?」

 小松はキッパリと言い切ると、ゆきの指に自分の指をしっかりと絡めてきた。

「た、帯刀さんっ!?」

「君が狼狽えるようなことは、しない、ということだよ……」

 小松は薄くニッコリと笑うと、ゆきをじっと見つめた。

 小松と美味しい食事を楽しんだあと、冷たいデザートが出された。

 これで終わりなのだ。

 すっかりお腹がいっぱいになり、ゆきは清々しい気持ちになる。

「凄く美味しかったです。満足です」

「それは良かった」

 デザートを食べ終わると、食卓が綺麗に片付けられる。

 その間に、奥の部屋には蒲団が二組くっつけて敷かれていた。

 それを目の当たりにした瞬間、ゆきは身体を固まらせてしまう。

「ゆき、何固まっているの?」

 小松はゆきの視線の向こう側に気付く。

「……なるほどね……」

 小松は、ゆきが固まった理由を直ぐに理解すると、背後からいきなり抱きしめてきた。

「……あっ……!」

「……ダメ、逃がさないよ……」

 小松はゆきをしっかりと抱きしめて、離さない。

「……緊張している?」

 小松は、色気が滲んだ声で、優しく囁いてくる。

「……少し」

「……かなりの、間違いじゃないの?」

 からかうように言われて、ゆきは全身に熱い血が流れて、真っ赤になるのを感じた。

「ゆき、君を愛しているから、こうして君を愛しているから、私は抱きしめたりしているんだよ。私も同じように緊張しているよ……」

 小松は、ゆきの耳に唇をふんわりとつけながら、囁いてくれる。

 うっとりしてしまう。

 小松も同じように緊張してくれている。

 ならば、少しだけ力を抜いても大丈夫かもしれない。

「そう、力を抜いて……。今から私は、君をどれほど愛しているか、伝えるから。心で、そして、身体で……」

 小松はゆきの首筋に唇を強く押し付けて、身体をさらに密着させてくる。

「……ゆき……」

 小松の手が、ゆきの袷にゆっくりと入ってくる。

 その瞬間、肌が小刻みに震えた。

「触れるだけで分かる……。君は滑らかで美しいのがね……」

 小松はゆきを抱き上げる。

「ゆき、私は君を幸せな気持ちにさせてあげるよ。幸せにする」

 小松は唇に軽くキスをした後、ゆきを蒲団に丁寧に寝かせた。

「ゆき、ここまで私は君を待った……。だから、もう、待てないんだよ……」

 小松は男らしい艶やかさの滲んだ声で呟くと、ゆきと同じ蒲団に入って、抱きしめてきた。

 同じ寝具。

 一人分の寝具をシェアすると、とても相手が近く思えた。

 小松が近い。

 いつも抱きしめてくれて、かなり近い位置にいても、ここまで近いと感じたことはなかった。

 ゆきは頬を薔薇色に染めながらも、小松への愛でいっぱいになりながら、一途に見つめた。

「……本当に良い瞳をしているね、君は……。私以外に、そんな眼差しを向けては、いけないからね……」

 小松はゆきに柔らかなキスをする。

 柔らかなキスは、天使のキスのようで、ゆきは心が春の日差しのような温もりで満たされていく。

 とても幸せだ。

 小松のことを愛して良かったと、心から思う。

 何度か甘くて軽いキスをしているうちに、どんどん深くなってくる。

 ドキドキし過ぎて、ゆきは身体がじんわりと熱を帯びてくるのを感じた。

 キスが深くなる度に、浴衣が乱れてゆく。

 ゆきは呼吸を浅くしながら、小松のキスに溺れていった。

 頭も身体もぼんやりとしてくる。

 段々と気持ちよくなっていった。

 キスをもっとしていたいと思ったところで、キスの雨が止む。

 ねだるような眼差しをつい小松に向けると、情熱を宿した眼差しを返された。

「……この場所で、君を私のものにすることは、とても意味があることだと思っているよ……」

 小松はゆきに真摯さが帯びた声で囁いた後、息を乱しながら、抱きしめてきた。

 小松の温もりと重みが、ゆきにはとても心地好かった。

 ずっとこの重みを感じていたかったのだろう。とても懐かしくて、ときめく。

 小松を抱き締めたくて、ゆきはその背中に腕を伸ばした。

 小松は更にゆきの身体を強く抱く。

 お互いの想いが絡み合い、ゆきは肌が沸騰してくるような感覚を持った。

 浴衣が焦らすように剥ぎ取られる。

 小松は自分の浴衣も一気に脱ぎ捨てる。

 肌と肌がしっとりと重なる。

 お互いの情熱が混じりあって、化学変化を起こすかのように、更に熱を帯びた。

 小松とゆきの愛が絡みあいひとつになることが、ゆきにとっては、喜び以外の何でもなかった。



マエ モドル ツギ