*ひだまり*


 平田殿のが見たい。

 最初は、それだけのことだった。

 ゆきはにゃんこが大好きだし、これ以上に可愛い動物がいるのだろうかと思うぐらいだ。

 猫は丸くて暖かいのに、気まぐれなところが良い。喉をゴロゴロと鳴らして甘えてくるのに、つっけんどんとするところもある。

 そこがまた微妙に可愛くてしょうがない。

 まるで小松のようだと、ゆきは思う。

 小松は猫属性だと思う。

 優しかったり、冷たかったりする。

 もちろん、それは私的に関係する事柄ばかりで、公的には冷静でキッパリしている。しかも、気まぐれにはならない。

 この落差が、小松は更に素敵な男に見せているのかもしれない。

 ゆきもこの落差に惹かれていた。

 いつの間にか、小松のそばにずっといたいと思っているぐらいに、好きになっていた。

 いつの間にか、平田殿をだしにして、小松に逢いに行っていた。

 小松に会うための理由として、平田殿を使っていると言っても良かった。

 それぐらいに小松に会いたくなる。

 神子と八葉としてよく会ってはいるが、それでも足りなかった。

 今日も、薩摩藩邸飼われている、平田殿に逢いたいと理由をつけて、ゆきは逢いにいく。

 最近では、薩摩藩邸も、ゆきを快く受け入れてくれている。

 本当に猫に逢って、小松に逢えればゆきは幸せだったから、薩摩藩邸は天国のような場所だった。

「お邪魔します」

「いらっしゃいませ、神子殿。平田殿は、縁でひなたぼっこをしていますよ」

「有り難うございます」

 ゆきは早速、縁に向かう。

 ひなたぼっこをしているだろう平田殿とゆっくりとしたい。平田殿の柔らかくて温かな身体をギュッと抱き締めたい。

 そうするだけで、ゆきは心から癒される。

 そして、小松と逢うことが出来れば、それが一番幸せだろう。

 うきうきして、ついステップを踏んでしまいたくなるかもしれない。

 薩摩藩邸の人々と仲良くなってきているからか、誰もがゆきに好意的に接してくれる。

 最初は誰もが、ゆきに対しては慇懃に接していたが、今はそれもなくなっている。

 ゆきは縁に向かい、平田殿を見つけた。

「こんにちは、平田さん」

 ゆきが声を掛けると、チャトラの猫は、僅かに目を開ける。折角の昼寝を、邪魔されたくはないのだろう。

 それはそれで一理ある。

「神子殿、お茶とお茶うけのお漬け物と大福ですよ」

「有り難うございます!」

 甘いものを食べたら、しょっぱいものを食べたくなるのが、人の味覚である。ゆきも、チョコレートとポテトチップスを交互に食べたくなる。

 それと同じでこのコンビネーションは有りがたかった。

「いつもおやつまで出していただいて有り難うございます」

「いいえ。神子殿に来て頂くと、藩邸も明るくなりますから。ご家老はもうすぐお帰りになりますよ」

「有り難うございます」

 藩邸の者が行ってしまった後、ゆきは平田殿を撫でながら、幸せに浸る。

「平田さんは可愛いね」

 ゆきは、平田さんを撫でながら、つい横に小松がいればと、夢想してしまう。ふたりと平田殿とで揃ってひなたぼっこをする姿を想像して、暴れたくなってしまった。

「ご家老も困ったものですな」

「本当に。早くお世継ぎをと考えますが、ご本人が結婚する気がないとは……」

 藩士たちが困り果てたかのように話している声が聞こえてきた。

 小松の結婚問題は、あらゆるところで囁かれているから、当然、ゆきの耳にも入ってくる。

 小松は結婚しなければならないのだろう。立場的に、それは理解できる。

 だが、考えるだけでとても苦しかった。

「……ね、平田さん、小松さんは結婚してしまうのかな?」

 口にするだけで、ゆきは気分が重くなった。溜め息をつい吐いてしまう。

 静かだが、確実な足音が聞こえてくる。

 玄関先が騒がしい。恐らくは、小松が帰ってきたのだ。

「ゆきくん、いる?」

「はい。小松さん。平田さんと一緒ですよ」

 ゆきが声を掛けると、小松は静かに部屋に入ってきた。

 小松の表情が柔らかくなり、ゆきはつい笑顔になる。

「おかえりなさい、小松さん」

「ただいま」

「もう少ししたら帰りますね。平田さんにも会えましたし、小松さんにも会えましたから」

 小松は家老としてかなり忙しいひとだ。邪魔にならないようにしなければならない。

「なんだか、私に会うのは、平田殿のついでということだね」

 小松は苦笑いをしながら、ゆきを見つめた。

「そんなことはありませんよ」

 小松に会いたいからこそ、平田殿に会いにくるのだ。もちろん、平田殿も可愛い。

「時間があるなら、こちらで休んでいきなさい。ここならば、安心だろうからね」

「有り難うございます」

「私は隣で仕事をするから、なにかあったら呼んで」

「はい、有り難うございます」

 小松がすぐ近くにいる。それだけで、ゆきは安心する。同時にドキドキしてきた。

 ふたたび平田殿とふたりだけになる。のんびりと、平田殿の温かな身体を撫でた。

 平田殿は日向が相当温かいらしく、のんびりと眠っている。

「そんなにも気持ちが良いの?私もごろんとしちゃおうかな。気持ちが良さそうだから」

 ゆきもついつい、横になってしまう。

「本当にこうしていると、気持ちが良いね、平田さん」

 ゆきはくすりと笑うと、平田殿と同じように身体を丸くさせた。

 目を閉じると、そのまま眠くなってしまうのが不思議だ。このまま眠りたい。

 うとうととしながら、ゆきは夢の世界に漂っていた。

 平田殿と小松と一緒に、縁でひなたぼっこをする。

 そんな幸せな夢を与える見る。

 いつまでも目覚めたくなかった。

 

 ゆきも平田殿もとても静かだ。

 小松はそっと隣の部屋を覗いた。

 すると、ついほっこりとする光景が繰り広げられている。

「眠っているんだね……」

 平田殿もゆきも、無防備に眠っているのが、見える。

 見つめているだけで癒される。

 闘いが終わってからも、ずっとこの光景が見られれば良いのにと思う。

 いつか、ゆきと平田殿と一緒に穏やかに暮らすことが出来ればと、思わずにはいられなかった。

 眠るひとりと一匹を、そっと撫で付けていた。

「……いつまでも一緒にいよう……」

 小松は優しく囁くと、ゆきの唇に自分のそれを口づけていた。

 想いが叶うようにと、小松は珍しく神に祈った。

 この恋を成就したい。

 今は、神様に祈るしかないと、考えていた。




マエ