*見守る戀*


 もう誰にも止められないと、ゆきは思った。

 運命にすら止められやしない。

 それだけゆきが小松を想う気持ちは強かった。

 こうして抱き締めあうだけだと、感情が暴走する。

 足りない。

 小松が足りないのだ。

 ゆきは小松成分を求めて、更に強く抱き締めた。

 すると小松も同じように抱き締めてきた。

 小松に抱き締められたまま、時間が止まれば良いのにと、ゆきは思わずにはいられない。

 小松に抱き締められると、何もかもがどうでも良くなった。

 小松以外には、本当に何も気にならないのだ。

 ゆきは胸がいっぱいで泣きそうになるのを感じながら、小松に更にしがみついた。

 ずっとこうしていたいと思う。

 だが、それを言葉に出来ない。

 ゆきは感極まった小松への恋情を唯一表す方法として、ただ真っ直ぐ小松を見つめた。

 言葉で上手く伝えることが出来ないのであれば、眼差しで伝えるしかない。

 ゆきが潤んだ瞳を小松に向ける。

 すると、小松の眼差しが艶やかに翳った。

 ゆきの気持ちが伝わったかのように、小松もまた官能的な眼差しをゆきに向けてきた。

 ふたりが見つめあうと、そこは言葉のいらない世界になった。

 お互いに視線を絡ませれば、何を考えているのかが、すぐに理解することが出来た。

 言葉を越えた、魂レベルで、お互いに理解することが出来たと思った、瞬間だった。

 お互いに、自分達がかけがいのない存在であることを、理解することが出来た。

 小松の顔が近づけてくる。

 お互いに唇を通しての温もりを享受する。

 唇が重なった。

 お互いに求める想いが、唇に凝縮される。

 ゆきは、胸に沢山の幸せがゆっくりと貯まってくるのを感じた。

 ずっと見守られている。

 同時に、ゆきも小松をずっと見守っていたのだと感じずにはいられない。

 お互いにずっと探して、探し当てた後は、お互いに見守っていたのだと、ゆきは思った。

 キスをして、それを確信する。

 小松も同じ気持ちのようだった。

 切ないぐらいに胸がいっぱいで堪らなくなる。

 幸せに満たされると、泣きそうになるのだ。

 唇が離れた後、ゆきは霊が引きちぎられるような喪失を感じた。

 痛い。なのに、快適だ。不思議な感覚に、ゆきは目を見張った。

 言葉がなくとも通じる、初めてのひと。

 ずっと探していたひと。

 そう感じた今は、小松とは離れたくはなかった。

 離れられないぐらいに愛しい存在になる。

 ゆきはただ潤んだ瞳を、もう一度小松に向ける。

 小松も、すぐにゆきの想いに気づいたかのように、頷いた。

「君を、もう離したくはない……。それは私とて同じことだよ……」

 小松の艶やかで優しく深みのある声に、ゆきは涙を溢した。

 このひとに出会うために、ここにいるのではないかと、ゆきは思った。

 胸がいっぱいになる。

 この世界に来た理由をひとつ見つけた。

 ゆきは、小松を強く抱き締め返した。

 息が出来ないほどの幸せを見つけたようなきがした。

「小松さん、大好きです。あなたがいるから、振り返ったらすぐにあなたがいることが分かっているから、私は頑張ることが出来るんです。有り難う……」

 ゆきは心からの感謝を呟き、小松を抱き締めた。

 いくら抱き締めても、抱き締められても、果てはない。

 これからずっと一緒にいたい。一緒にいようと思う。

 だが、この瞬間はこの一瞬しかない。

 だからこそ、ゆきは、一瞬、一瞬を大切にしたいと思った。

 ふたりはもう一度見つめあい、今度は、お互いにこの愛を大切にすると誓って、キスをした。

 甘くて切なくて熱いキスが、唇をしっとりと覆う。

 唇を通してお互いの想いを交換しあう。

 キスのあと、潤んだ瞳をお互いに視線を交わしあった。

 キスをして、抱き合う。

 だが、小松はそっとゆきから離れる。

「……小松さん……?」

 小松に離れられると、ゆきは胸が苦しくなる。

 息苦しい。

 もっとそばにいたい、そばにいて欲しいのに。

 もっと情熱的な愛を交わす方法が、他にあるのではないかと、ゆきは思った。

 それが具体的に何であるかは、今のゆきには分からなかった。

 小松はゆきの頬を柔らかに撫でる。

「……ゆきくん、今夜はゆっくりと休みなさい……」

 小松はゆきの頬をまろやかに撫でると、名残惜しそうに頬にキスをした。

「……小松さん……」

 ゆきは、どうして小松が離れてしまったのか、意味が解らなくて、押し黙った。

 ゆきは泣きそうな気持ちになる。それを瞳に滲ませると、小松は苦笑した。

「私も、君と一緒にいたいのは山々だけれど、今はまだ早いよ。もう少し、待つから、君は成長しなさい」

「小松さんに追い付くということですか?」

「そうだよ。精神的に大人にならなければ、この先は進めないからね、ゆきくん。私はそれまで待つつもりだからね。焦らなくても大丈夫……」

 小松の艶やかな声に優しく諭されて、ゆきは従うしかないと思った。

「だから、今はやるべきことを集中する時間だと思って、志を遂げよう……」

 小松は艶のある声で呟くと、もう一度だけゆきを抱き締めた。

「……おやすみ、ゆきくん」

 小松は柔らかく囁くと、ゆきを寝具に寝かせて、離れる。

 本当はずっと一緒にいたい。

 だが、それはまだ早いのだ。

 ゆきは自分に言い聞かせると、小松から離れることを納得しようとする。

 この続きは、総てが終わってから。

 ゆきはそれを楽しみにしていた。

「……ずっと見ててあげる」

 小松が不意に部屋を出る前に呟く。

 ずっと見ていて貰える。

 ゆきにとっては宝物のような言葉だった。

 

 ゆきの部屋から出て、小松は自室に戻る。

 言葉にならない甘く満たされた想いが、小松の胸に去来する。

 ずっと見守っているだけの恋だと思っていた。

 それではもう満足出来なくなっている。

 そして、もう見守るだけでなくても良いのだと、小松は思う。

 総てを為したら、一緒になる。

 ずっと見守っている。

 今までも、これまでもずっと見守っている。

 見ててあげる。

 一生見守る相手を見つけられた。

 見守るだけの恋は、真実の愛に変わった。

 

 これからもずっと見守ってくれる。

 だからこれからもずっと前を向いて歩いてゆける。

 とてもとても幸せだと、ゆきは思わずにはいられなかった。

 幸せがじんわりと滲んで、ゆきを世界で一番素敵な女の子にしてくれる。

 頑張ろう、愛する人のために。

 頑張ろう、目的に向かって。

 

 とてもとても幸せな、神子様の物語。



マエ モドル