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それは戯れなのではないだろうか。 戯れでないとするならば、それは心からのことなのだろうか。 心から望まれているのであれば、こんなに嬉しいことはないのに。 「君は私の妻になる。それだけだよ。……総てが終われば、私は君を妻にする」 小松は真摯な眼差しで、決して目を逸らすことはしない。 真剣に考えてくれている。 それをひしひしと感じる。 肌が緊張する。 だが、それは決して不快なことではなかった。 小松を見つめられて、ゆきは胸をドキドキしてしまう。緊張し過ぎて、ゆきは何も言えなかった。 「……どうしたの?嫌なの?」 「……嫌ではありません……」 「有り難う」 小松はフッと笑うと、ゆきの顎を突然持ち上げられる。 甘くて刺激的な行為だ。 「……ゆきくん、君はもっと自分に素直になったほうが良いんじゃないの? 素直に自分に自分の気持ちを訊くと良いよ。一番、君には必要なこと。私は無理強いはしないけれど、君を妻にすると言う決意だけは変わらないよ。それだけを覚えておいて」 「はい」 小松の言葉を聞きながら、気持ちが引き締まる。胸が緊張で華やかに高まった。 本能で分かる。 小松の妻になりたいのか。 妻だとかではなく、漠然ではあるが、ゆきはずっと小松と一緒にいたいと、素直に思っている。 それが結婚だというならば、それを受け入れる。 その理由はといえば、好きだから以外にはない。 誰よりも小松が好きだ。 家族も大好きではあるが、明らかに家族に抱くのとは違った感情だ。 それはゆきにも解っている。 同じ『好き』でも、家族に対するものと、小松に対するものは、全く違っていると言っても過言ではないのだ。 同じように素敵で温かな感情ではあるのだが、小松に対しては、沸騰するような熱い感情であるといっても過言ではないのだ。 「……何黙り込んでいるの?考え事?」 小松はゆきを何処か見守るような眼差しを向けてくれている。 小松は大人だから、いつもゆきに考えを整理する時間をくれる。それがゆきには有り難い。 こうした、きめ細かい気遣いが、ゆきが更に小松に夢中になる要因だった。 「……小松さんに対する『好き』と、家族に対する『好き』は違うなって思っていたんです……。小松さんへの『好き』は、熱いというか、ドキドキするというか、ドキドキするのに、苦しいのに、とても幸せだったりシマス……」 ゆきは真っ赤になりながら、一所懸命、自分の気持ちと向かい合う。 「……ゆきくん」 優しくて甘い小松の声が下りてくる。ドキリとして、ゆきが顔を上げると、小松にいきなり強く抱き締められた。 「……あっ!」 息が出来ないぐらいに抱き締められているというのに、少しも不快ではない。それどころか、何処か甘い幸せがじんわりと滲んできて、ドキドキした。 「……ようやく自分の気持ちを理解したのかな?君が、自分から私のことを『好き』だときちんと伝えたのは、初めてじゃないかな?いつも、私に誘導されていたけれど、今回は自分の言葉できちんと伝えてくれている。これはとても大きなことだよ」 「……小松さん……」 小松はフッと微笑むと、ゆきの顎に指先を宛てて、顔を真っ直ぐと向けられる。 「……ね、ゆき、私のことをどう思っている?素直に話してくれる?」 小松の眼差しは、直視できないぐらいに艶やかで官能的で、大人の男性特有の色気を見せている。 ドキドキして視線を外したいのに外せない。 耳まで真っ赤にしながら、ゆきは呼吸を浅くする。 顔が熱い。 顔だけではない。 全身が沸騰してしまうぐらいに熱い。 「……ね、どうなの?ゆきくん。私の目を見て、しっかりと気持ちを伝えて」 小松はゆきに魅入るように見つめてくる。 逃げられない。 「……私は、君を誰よりも愛しているよ。だから君に、殿の前で、婚約者のふりをして貰った。私自身は、これを“ごっこ遊び”として終わらせる気は、全くないからね。それは覚えておいて……」 小松は誠実に、ただゆきの目を真っ直ぐと見つめて伝えてくれる。 袋小路に追い詰められる。 ゆきも小松と同じように小松のことを愛しているのだ。 本当に幸せで、愛に満ちた気分になっている。 こんなにもドキドキしているのは、相手が小松だからだ。それ以上も以下でもない。 ゆきは軽く深呼吸をすると、覚悟を決める。 小松に拙いが自分の気持ちを伝えようと思った。 「……小松さんのことは……大好きです……」 ゆきはそれこそ、清水の舞台から飛び下りるような気持ちで、勇気を振り絞って、小松に気持ちを伝えた。 「……ね、誰よりも私のことが好き?」 小松が蕩けるように甘くて低い声で囁きながら、顔を近づけてくる。 「……はい……。誰よりも好きだと思います……」 「思います?」 小松が意地悪に訊いてきた。 「す、好きです……。大好きです」 「よくできました」 小松はそのまま顔をもっと近づけてくると、そのまましっとりとゆきにキスをする。 最初は浅くてロマンティックな角度で、次は激しく情熱的な角度で。 何度も何度もキスを繰り返す。 ゆきはいつしか、小松にしがみつくように抱き締めて、キスに溺れていった。 キスを何度も繰り返した後、小松はきつくゆきを抱きすくめた。 「……ゆき、決着が着いたら、君を妻にする……。良いね?」 甘くて激しいロマンティックなプロポーズ。 ゆきは頭が甘い幸せでぼんやりしている。 だが、返事だけはきちんと考えられた。 小松と一緒にいたい。 このひとと一緒ならば、前向きに頑張って行くことが出来る。 だから大丈夫。 「……総てが終わったら、時が満ちたら……、小松さんのお嫁さんにして下さい」 ゆきははにかみながらも、自分の明確な意思を小松に伝える。 この気持ちが揺らぐなんてことは、きっとこれからもないだろうから。 それだけは自信がある。 「……有り難う、ゆき。時が満ちたら君を妻にするよ」 「はい!」 ゆきは明るく希望に満ちた笑顔で返事をする。 すると小松もまた、明るく希望に満ちた笑顔を柔らかく浮かべる。 「今度はちゃんと花嫁支度をするからね」 小松は言いながらキスをする。 小松の妻になる日。 それが、近い未来であることを、ゆきはひしひしと感じていた。 |