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小松が導き出した答えは、ゆきと一緒に、ゆきの時空に行くということだった。 そのために、かなり前から綿密な準備をしていた。 自分がいなくなっても大丈夫なように、屋敷の使用人たちの行く末を決め、チナミの後見人に西郷をつけ、新しい世の中が上手く進むように、様々な準備をしてから、ゆきの世界へと旅立ってくれたのだ。 そして。新しい世の中になれば、自分のような身分の者はいらないからと、落ち着いたら、身を引くつもりだったと、自ら話してくれた。 無私を地でゆくような小松は、いつも表舞台に立つことなく、常に、自分よりも身分が下の者たちに、花を持たせ続けた。 小松の働きがなければ、新しい世の中は作られなかったと、ゆきは最も身近なところで見て思っていた。 それは、世界が違えど、ゆきの世界の小松帯刀と同じだった。 自分の功労よりも、自分の手柄よりも、その先の結果だけを見ていた。 それは今も同じで、この世界に来て貿易会社を立ち上げ、瞬く間に、大きな会社へ成長させてしまった。 福利厚生もしっかりし、なによりも、年功序列のようなナンセンスなこともせず、常に能力だけで登用されるスタイルに、多くの優秀な人材が集まってきている。 ゆきはといえば、大学の途中で、小松と結婚した。 大学はこのまま続けるが、早く結婚したくて、大学卒業を待てなかったのだ。これは、小松も同様だった。 新婚旅行から帰ってきて、今日から本格的に二人だけの生活が始まる。 これからは、ずっとふたりで一緒にいられるのだ。 小松がお風呂に入っている間、ゆきは、便せんを取り出して、小松に手紙を書き始めた。 久しぶりの手紙だ。 一緒にいるようになってからは、手紙で小松に想いを伝えることはなくなってしまった。 だからこそ、今、こうして想いを伝えようとゆきは思う。 小松清廉帯刀様 あなたと出逢って、私の人生は意味を持つようになりました。 あなたに人を愛することを教わり、あなたに人生の厳しさを教わり、あなたに人生に意味を教わりました。 あなたに本当の意味で人生を教えて貰えました。 あなたと出逢って、本当に嬉しかった。 そして、あなたとこれからも離れないで済むことを、私は心から感謝しています。 あなたと文を交わすようになって、あなたに逢いたいと強く思った祈りは、私が、”龍神の神子”として異世界に渡り、あなたが私の”八葉”として現れると言う形で、あらわれました。 あなたが私の八葉で、そして文の相手であったことが、どれほど嬉しかったか、解りますか? あなたのことを胸が苦しくなるほどに、戀焦がれていた自分を気付かなかった私は、本当におろかものでした。 沢山の愛を有難うございます。 これからもずっと離れません。 子供たちが出来て、賑やかな家庭になっても、私は、子供たちとあなたを取り合っているかもしれないですね。 これからもずっとあなたをお慕い申し上げております。 親愛と永遠の想い出を込めて。 小松ゆき ゆきは手紙を書き終わると、とても満たされた気持ちになり、文箱に忍ばせる。手紙を書いてこんなに幸せなのは、きっと愛する人への手紙だからだろう。 もう、下板に隠したりはしない。ゆきは堂々と、手紙を文箱の中に入れた。 きっと小松はすぐに見つけてくれる。この手紙を読んで、幸せな気持ちになってくれたら嬉しいと、ゆきはくすぐったい幸福感に包まれていた。 ゆきと愛し合った後、満たされた気持ちで小松は眠れなかった。 本当にこんなに幸せで良いのだろうかと思わずにはいられない。 小松は、ふと、机の上に、二人にとって大切な文箱があることに気付いた。 そっと寝具から抜け出して、小松は文箱の蓋を開ける。すると、そこには、小松清廉帯刀様 小松ゆき と、書かれた文が入っていた。 小松は文を開けて読むと、言葉では表すことが出来ないほどの幸せを感じた。 幸せでたまらない。 小松はごく自然に笑顔になると、自ら机に向かう。 折角、愛する妻から文を貰ったのだから、返事を書かなければならない。 小松は幸せな気分のままで、愛する妻に手紙を認めた。 小松ゆき殿 君がこの名前になってから、初めて手紙を認める。 私は、君に出会って、本当の意味での愛を知った。 人を愛する感情、恋をする感情と言うのは、非合理な感情だとずっと思っていた。 私は恋をして、結婚することはないとずっと思っていた。愛しいものが出たとしても、妾ぐらいにしか出来ないことも。 だが、私は君に出会ってしまった。 君と文箱で文を交わしているうちに、いつしか君に逢いたくて堪らなくなっていた。 そして、君に出会って、益々、愛しい気持ちを抑えることが出来なくなっていた。 君が愛しくて、愛しくて堪らなかったよ。君がけなげに、自分の世界ではなく、私の世界を救おうと、命を削ってくれているのを傍から見ながら、とても悔しい想いをした。 どうして私は何もできないのだろうかと。 だけど、君は、私がいるから頑張れると、笑顔で言ってくれた。それが本当に嬉しかった。 君には、人を愛すること、本当の意味で愛されることを、教えて貰った。 本当にどうもありがとう。 これからも君にはずっと感謝し続けるよ。 子供が出来たら、きっと私は、子供たちと君を取り合うことになるだろうね。 永遠に君を離さないから。 永遠の愛を込めて。 小松清廉帯刀 小松は幸福感に包まれたまま、手紙を書き終えると、そっと文箱に入れる。 きっと、明日の朝に、ゆきは気付いてくれるだろう。 愛らしい笑顔ではにかむだろうか。それを思い浮かべながら、小松は更に幸せな気持ちになった。 小松は再び寝具に戻ると、愛しい妻を抱きしめる。 文で始まった二人の恋は、永遠の命を得たのだ。 |