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そこにいけば、四神は手に入るかもしれない。 各人の情報を総合すると、そういうことだった。 闘わなければならないだろうか。 ゆきの気持ちは沈んだ。 だが、やらなければならない。 「陽炎組という者たちが、城下を荒らしているのを聞いた。四神を得ることも大切だが、それらを浄化することも大切だ」 瞬は眉を潜めて、深刻そうに話をする。 陽炎組。 放っておくわけにはいかない。 それらが、下関の怪異に繋がっているかもしれない。恐らくは天海の差し金なのだろう。ゆきは苦しくなった。 正直、かなり辛くて、苦しい。 ゆきは息が詰まる思いがした。 目を閉じて、ゆきは考える。 先ずは、陽炎組を制圧しなければならない。その後に四神を味方につけ、その上で、下関の怪異と立ち向かおう。 しかし、時間があるだろうか。 下関の怪異までたどり着くまで、砂時計が持つのだろうか。 ゆきはそこまで考えて、溜め息を吐いた。 とにかく時間が惜しい。 効率的に動かなければならない。 考えれば考えるほど、ゆきは自分を追い込み、思い詰めてしまう。 苦しい。 だが、これを乗り越えなければ、ゆきには明るい未来がないことぐらい、解っていた。 ゆきは唇を噛みしめ、これからのことを、考えずにはいられなかった。 ゆきの隣に然り気無く座っていた小松は、ゆきの思い詰めて、袋小路に陥っている様子を、いち早く気付いていた。 確かに、今のゆきには、八葉には、やるべきことが山ほどある。 こんなにも重苦しい様々な事実で、ゆきが押し潰されそうになっていることを、小松は気付いていた。 それが苦しい。 見ているだけで辛い。 自分も同じような重いものを背負ってはいるが、ゆきほどの深刻な重さはない。 世界の行く末が、この小さな体にかかっているのが、なんとも不憫だと、小松は思った。 勿論、小松も全力でゆきを支えるつもりでいる。 藩のことを抱えているから、他の八葉に比べると、助けてやれることが少ない。 ならば、助けられる間に、精一杯助けようと、小松は思わずにはいられなかった。 支えてやりたい。 誰よりもゆきを支えられる人間になりたい。 小松はそう強く願わずにはいられなかった。 「先ずは、陽炎組をなんとかすることから、始めたいです。陽炎組は、城下の皆さんを苦しめていますから。そして、四神を手に入れ、下関の怪異に対峙をしようと思っています。皆様はどう思われますか?」 逡巡した後、ゆきは背筋を伸ばし、凛とした態度で、キッパリと言い切った。 小松は、すぐそばで、ゆきの様子を見つめながら、益々強く、慕いたくなった。 こんなにも慕いたいと明確に思った相手は、初めてかもしれない。 小松はどんどん強くなるゆきを慕いたくなるのを、明確に感じた。 成長した。 清く、凛々しく、美しく。 小松は、ゆきのことを誰よりも得たいと思った。 ゆきがそばにいれば、誰よりも強くなれる。 誰よりも満たされる。 そして、幸せになれる。 小松は強く感じずにはいられない。 ゆきがいれば、どのような困難も乗りきれてしまえるのではないかと思った。 最高の相棒になれるのではないかと、思う。 冷静にかつ慎重に話さなければならない場所で、自分は何を考えているのだろうかと、強く思わずにはいられなかった。 話は、陽炎組を制圧する件を最初に行うことで、誰もが納得しているようだった。 特に長州藩士である高杉は、ホッとしているようだった。 城下の治安を安定させることが、最優先だからだ。 「俺は同じ考えだ。先ずは、人民を巻き込まないことが大切だからな」 高杉は明らかにホッとするように呟くと、ゆきに薄い笑みを浮かべた。 「私も賛成だよ。実に合理的だと思うよ」 小松はあっさりと認めるように呟いた。 ゆきは八葉の賛同を得られて、ホッとしているようだった。 ちらりと小松に、有り難うと言う風にも取れる、笑顔を向けてくれる。 明るくて素直なきらびやかな笑顔だ。 眩しくて、小松はドキリとする。 ずっとゆきの笑顔を独り占めすることが出来ればと、思わずにはいられない。 先程から、大局を見据えた話ではなく、ゆきを見据えたことばかりを考えてしまう。 それほどまでにゆきを愛してしまったのだと、自覚しなければならないほどに。 愛しているから、離したくない。 だが、同時に、愛しているからこそ自由にしてやりたいとも思った。 「では、これで決まりだな。明日からは、先ずは陽炎組をやっつけることから始めるか」 龍馬は上機嫌で言う。 「ゆきくんにしか、陽炎組を浄化することが出来ないから、今回は全員で行動するしかないね……。効率は悪いが、これしか方法はないからね」 小松は頭をなんとか切り替えて、なるべく淡々と言う。 「将軍は、新撰組たちがいるから、俺たちがいなくても、警備はなんとかなるだろう………」 高杉は決意を秘めた低い声で言った。 「しかし、俺も晋作も、新撰組には散々追いかけ回されたのに、皮肉なもんだな」 龍馬はあっけらかんとしながらも、苦笑いを浮かべた。 「ではこれで決まったね。解散だよ」 小松が宣言し、散会となった。 小松はゆきから目を離せない。 じっと見つめてしまう。 か細い身体にどれほどの重いものを背負っているのだろうか。 覚悟を決めてから重いものを背負うのと、覚悟出来ないままで、重いものを背負わされるのでは、やはり後者のほうが辛い。 しかも、自分で背負うと覚悟をしなければならない。 ずっと温室で育っていたゆきには、辛いことなのだろう。 小松は、ゆきの背中を追いかけていった。 「……ゆきくん」 小松が声をかけると、ゆきが優しい笑顔を浮かべながら、振り返った。 「明日から気を引きしめなければならないね」 小松の一言に、ゆきの表情が凜としたものになる。 「はい。明日から頑張らないと……!」 ゆきは思い詰めたような表情になる。 その表情に、小松は不穏な感情を覚えた。 ゆきは重いものを隠している。そう思わずにはいられなかった。 重いものを隠しているのならば、少しでも軽くしてやりたい。 小松は想いの強さから、ゆきの手を強く握り締めた。 ゆきは息を呑む。 だが、小松の手を返事をするように握り返してくれる。 小松の胸に甘い感情がわき上がった。 |