*うたかたの琥珀*

34


 四神がこの下関にいる。

 四神を味方につければ、更なる前進が見られる。

 ゆきは、龍神が一番良い場所に導いてくれたのだと思った。

 しっかりと頑張らなければならない。

 ゆきは、ひとつの光を得られて、更にやる気がみなぎってくるのを感じていた。

「ゆきくん、疲れたら途中で言いなさい。君は頑張り過ぎるきらいがあるからね」

 小松は冷たく言いながらも、温かな気遣いを忘れないでいてくれる。

 それがとても嬉しい。

 いつの間にか、“神子殿”から“ゆきくん”に、呼び方を変えてくれた。

 ゆきはそれが嬉しい。

 小松に名前で呼んで貰えることが、幸せだった。

「小松さん、有り難うございます。頑張れますよ。手がかりを得ることが出来たんですから」

「それだったら良いけれど、余り無理はしないように。君が寝込んでしまったら、しょうがないでしょ。事態が動かなくなる」

「そうですね」

 確かに小松の言うとおり、事態が進展しなくなる。

「怨霊や陽炎を浄化することが出来るのは、君しかいないんだからね」

 小松は相変わらず厳しい。だが事実だから、しょうがないのではあるが。

「はい、気を付けます……」

 当たり前のことを言われているとはいえ、小松に怒られるのは切ない。ついしょんぼりとしてしまう。

「だから、ゆきくん。君はかけがえのない存在ということだよ……」

 小松は艶と切なさが同居しているような声で言いながら、空を見上げた。

 小松が切なげに考えている横顔は、本当に美しくて、凛としている。

 見つめているだけで、ゆきも気持ちが引き締まるのを感じていた。

 

 宿に戻ると、調べに出ていた八葉たちが帰ってきていた。

 誰もが、四神の出現の噂を聞いていた。

「話をまとめると、四神の力を得るのが必要のようだね。それは確かだ」

 小松は、目撃情報を整理をして、地図に印をつけていく。

 小松のやり方は本当に合理的だ。

 無駄のない動きをするようにと、きちんと分析をしていた。

 この分析力があったからこそ、きっとここまで引っ張ってきたのだろう。

「流石に凶暴化しているとはいえ……、四神は四神だからね……。八葉は、四神に対応するものがあたるのが一番だろうね。あとは、全員揃った上で、行くのが良いだろうね。助けるという意味でも、後衛が必要だろうからね」

 誰もが頷く。

「今後は厳しい闘いがしいられるだろうな……。それを凌駕する力が必要だ……。協力体制を整えなければならないな……」

 高杉は厳しい表情をしながら、地図を眺める。

「抵抗する四神は斬ってしまえば良いとは、なかなか言えぬところがあるからな……」

「おい、四神を斬るなんて、物騒だな」

 龍馬は苦笑いをしながら呟くと、高杉を見た。

「先ずは周りの怨霊を責めて、四神に向かったほうが良いと思う。良い気を流すのは、有益だろう……」

 瞬は冷静に分析をしながら呟いた。

 八葉の考えを総合してあたるのが一番良い方法だと、ゆきは思う。

 神子として頑張ってきて、ゆきは冷静な判断が少しずつではあるが出来るようになっていた。

「皆さんのご意見を尊重し、四神の近くにいる大きな力を持った怨霊を封印してから、四神のところに向かうのが得策だと考えます。ですから、地図にある四神の目撃情報の近くにいる、力を持った怨霊を浄化しましょう。遠回りのように見えますが、逆に近道になるように思います」

 ゆきは、キッパリと言い切る。

 するとそこにいた誰もが、驚いたようにゆきを見つめた。

「蓮水、お前は随分、龍神の神子らしくなってきたな」

 高杉はようやく認めるような言葉を口にしてくれる。

 これはとても嬉しかった。

 ゆきはもっと頑張ることが、八葉との絆を高めることになるのではないかと、強く思った。

「では、その方向で行こう!お嬢がいたら、きっと上手くいく!」

 豪快な龍馬の一言に、ゆきはつい笑顔になった。

 龍馬と一緒にいると、本当に前向きな気持ちになる。こんなに前向きな気持ちは、自分一人ではなかなか抱くことが出来ないのだから。

「明日から皆さん、よろしくお願いします」

 ゆきは深々と八葉に頭を下げる。

 まだ、絆は固くなった訳ではないが、前進したのは確かだった。

 

 会合が終わり、ゆきは宿の庭に立つ。

 緩やかな歩みかもしれないが、確実に前に進んでいるのは分かる。

 このまま前向きに頑張っていければ良いと、ゆきは思う。

 これだけ素晴らしいひとたちが仲間なのだから、きっと前を向いて頑張ってゆける。

 ゆきはそれを強く感じた。

「どうしたの、ゆきくん」

 小松の透明の金属の声が聞こえ、ゆきは振り返った。

 小松が見守るように立っている。

 小松は、いつもゆきを見守るように、ひとりでいる時には声をかけてくれる。

 不安にならないように、こうして見守ってくれているのだと思うと、ゆきの胸は熱くなる。

 小松が見守ってくれているからこそ、ゆきは前向きに生きていけるのではないかと、強く思った。

 きっとそうなのだろう。

 前を向いて考えられる。

 それは小松がそばにいてくれるから。

「夜空を見ていたんです。明日からしっかりと頑張れるなって、思っていました」

 ゆきは屈託なく笑う。

 その笑顔に、小松はフッと笑った。

「君は強くなったね。以前は人形のようで、意思がない子のように思っていたけれど、今の君は自分を持って前に進んでいる。随分と君は成長したと思ってね」

 小松の言葉に、ゆきは更に自信が持てるような気がした。

 自信を持つなんて、そんなおこがましいことは言えないが、それでも以前よりは良い。

「祇園のお茶屋にいた頃と比べていらっしゃるんですか?」

「お茶屋? いや……違うよ。お茶屋じゃない……。それだと……」

 小松は明らかに動揺しながら考え込む。

「……それよりももっと前だよ……。そんな気がする……。だけど、そんなことはあり得ない筈なのに……」

 小松は困惑しながら、目を伏せた。

 混乱しているように見える。

 記憶が引っ掛かっているのだろう。

 ひょっとして、思い出してくれるかもしれない。

 ゆきはほのかに期待せずにはいられない。

「君は、私が知らない、私の何かを知っているの?」

「……それは」

 知っているが、教えられない。

 ゆきは切なくなり、黙りこんだ。

「私が思い出さなければならないということだね」

 小松はすぐに察知をする。

「そうです」

「分かった、有り難う」

 小松はそれ以上は訊くことなく、空を見上げた。

 早く思い出して欲しい。

 ゆきは切ない恋心を抱きながら、小松を見つめていた。



マエ モドル ツギ