*うたかたの琥珀*

33


 翌日から、下関の怪異について、調べることにした。

 とにかくこれを解決しなけれは、先に進むことが出来ないのだ。

 ゆきは、とにかく、この先のことだけを考えて、行動することにした。

 今は、この世界が新しく平和に満ちた世の中になることを望みながら、先に進むしかない。

 それが、自分の生まれた世界を救うためには必要なことだということを、ゆきは気づきはじめていた。

 自分の恋心を、今は置いておく。

 今は、とにかく、前に進むことを考えるだけなのだ。

 ゆきは、八葉たちと手分けをしながら、怪異の情報をなるべく集めることにした。

 

 小松とふたりで、町で聞き込むことになった。

 小松とチナミと三人で聞き込みをするというだけで、ゆきの緊張は相当なものだ。

 やはり、恋心が競り上がってきて、上手く集中が出来ない。

 意識をし過ぎてしまう。

 こんなことではいけないというのに。

 ゆきは、自分の集中力の弱さに、溜め息を吐きたくなった。

 聞き込みを進めると、様々な怨霊の話を聞くことが出来た。

 以前からも怨霊はいたが、ここのところ、かなりのスピードで増えていることが感じられた。

 「こんなにも情報が多いと、どれが下関の怪異に繋がっているかが、分からないね……」

 流石に小松も溜め息を吐いている。

「そうですね。そのなかでも、騒ぎが大きなものを、調べに行く必要があるのかもしれないですね」

「確かにその必要はあるようだね」

 小松は、集めた情報を資料にしたものを見る。

 地図に印をしたりし、見易い資料を作ってくれたのは、チナミだ。

「チナミくん、とても見易い資料だよね」

「そうだね。私にはこのような細かい作業は向いていないよ」

 小松は苦笑いを浮かべている。これは意外だった。

「小松さんなら、緻密な作業が得意だと思っていました」

「緻密に考えて段取りをするのは、まあ、普通にやるけれど、こうした細かな作業は苦手だよ。指示をして、部下に行ってもらうことが多いよ」

 ゆきが驚いているからか、小松は困ったように笑った。

「本当に信じられないです」

「そう?龍馬なんて、私のことを、“意外にいい加減で、大雑把なところがある”と言っているぐらいだからね。まあ、一理あるから、怒らないよ」

 小松はさらりと呟いた。

「何だか、小松さんの別の一面を見たような気持ちになります」

「まあ、これも私だよ。何でも緻密に考えていたら、神経をすり減らしてしまうよ。どこか、力を抜くことも必要だよ」

 確かに小松の言う通りだ。

 ずっとガチガチになっていても、良い結果は得られない。

 適度に力を抜かなければならない。

「そうですね。適度に力を抜かなければいけないですね」

「そうだね。余り力を抜きすぎて、操り人形のようになっても困るけれど、今の君は力みすぎだ。力を抜いて」

「はい」

 ゆきは素直に返事をしながら、軽く呼吸をした。

「さて、怪異の情報を元に、丁寧に調べてゆく必要があるね。今は地道にやるしかない。地道にやることが、結局は一番の近道だからね」

「はい」

 急がば回れ。

 確かにそうだ。

 焦っても何もならないのだから。

 ゆきはそれを肝に命じて、行動することにした。

 地道に聞き込みを続ける。

 小さな怪異の情報は得られたが、なかなか大きな情報にはたどり着かなかった。

 こう歩き回ると、やはり体力が取られてしまう。

 ゆきは、竹筒に入った水を飲みながら、分からないように溜め息を吐いた。

「少し休憩をしようか」

 小松が声をかけてくれ、ゆきはホッとする。

「茶屋にでも行こうか。糖分は疲れが取れると聞くからね」

「有り難うございます」

 きっと小松が気遣ってくれたのだろう。優しい気遣いに、ゆきは感謝せずにはいられない。

 小さな茶屋に入り、ようやく足を休める機会に恵まれた。

 ゆきは、美味しそうな串団子を注文して、ホッとした甘味に癒される。チナミは、磯辺焼きを食べ、小松も同じものを食べる。

「チナミ、地図を見せてくれる?」

「どうぞ」

 小松は、地図をくまなく読みながら、考え込む。

「他の仲間たちの情報を総合したから、何らかしらの情報が得られるかもしれないね……」

「そうですね。宿屋で戦略を練らなければなりませんね」

「まあ、そういうことだね」

 小松は冷静な声で呟くと、ゆきを見つめた。

「後半も頑張らなければならないね。しっかり休んで情報を得よう」

「はい」

 今は、とにかく地道に頑張るしかないのだ。

 ゆきは、甘い団子を食べながら、何とか体力をかき集めることにした。

 この休憩も、小松が気遣ってくれている。

 冷たいが、きちんとひとを見て、優しい気遣いが出来る人なのだ。

 ゆきは、さりげない小松の気配りに、どんどん甘い想いが強くなるのを感じる。

 こんなにもドキドキする幸せで甘い想いは、他にはないのだろうと、ゆきは強く感じた。

「さてと、行こうか。まだまだ情報は足りないからね。しっかりと頑張っていこう」

「はい」

 甘い気持ちから、直ぐに厳しい現実に引き戻される。前向きに頑張らなければならない。

 ゆきは気持ちを引き締めていた。

 

 午後からも聞き込みを続ける。

「白い虎を洞窟で見た、と?」

 白虎。

 四神の一角を担っており、小松はまさに天の白虎だ。

 まさか、この長州に白虎がいるとは、思ってもみなかった。

 白虎の目撃情報があちこちで聞かれ、ゆきたちは確信する。

 白虎がいる。 

 白虎の力を得られたら、下関の怪異も解決出来るのかもしれない。

 ゆきたちは更に確信する。

 その上、紅蓮の炎を纏った美しき気高き鳥を見たと、目撃情報が出る。

 朱雀。

 あくまでまだ、情報のレベルでしかないが、四神の目撃情報がこれほど出るとなれば、確実かもしれない。

 二つまでいるということは、残りの二つもいるということになる。

 四神の力を得られたら、下関の怪異も解決が出来るかもしれない。

 そもそも下関の怪異の原因が、四神にあるとするならば、解決していかなければならない。

 ゆきは気持ちが引き締まる。

「とにかく、四神の目撃情報が多数得られたね。他のものたちとも情報交換するためにも、一度、宿に戻ろう」

 小松の言葉に誰もが強く頷いた。

 他のものの情報を総合すれば、何かが得られるのかもしれない。

 確実に真実に近づいている。

 ゆきはそう強く感じずにはいられなかった。



マエ モドル ツギ