1
|
ゆきはアレコレと考えながら試案を尽くす。 この時空でも、小松は難なく成功をし、物なんてなんでも買えてしまう状況だ。 それに、欲しい物を訊いても、小松はきちんと答えてはくれないだろう。 そう考えると、本当に何をあげて良いのかが分からなくなる。 都にも訊いてみたが、言葉をはぐらかして教えてくれなかった。 「ゆきの純潔が守れないのは嫌だ。アイツなら絶対に手を出す」 と、訳の解らないことを言っていたから、ゆきは結局、きちんと訊くことが出来なかった。 小松が欲しいもの。 一体、それは何なのだろうか。 ゆきのお小遣いで買える範囲のものでないと困るが、何か小松が喜ぶ素晴らしいものはないのだろうか。 そんなことを考えてしまう。 小松に直接訊いてもしまえば、済むことなのだろうが、それがなかなか訊けないのが、難しいところなのだ。 ゆきは出来たらサプライズさせたいと思っているから、なるべく自分で答えを出したいと思っている。 小松の誕生日前の最後のデートの日がやってきてしまった。 ゆきは、やっぱり何も思い付かなかった。 タイムリミットギリギリで、ゆきは観念して訊いてみることにした。 ふたりで手をしっかりと繋ぎながらデートをしている最中に、ゆきは大好きなひとに声をかけてみた。 「……帯刀さんの誕生日は、もうすぐですよね?あの……、何かして欲しいこととか、欲しいものとかは、ありませんか?」 ゆきがおずおずと訊くと、小松はフッと笑みを浮かべた。 艶やかな笑みに、ゆきはドキリとする。 「……そうだね……」 小松は意味ありげな艶を瞳に滲ませると、ゆきを見つめた。 「……命令、させて欲しいな」 「め、命令!?」 まさかそのようなことを言われてしまうとは思わなくて、ゆきは焦るように小松を見た。 「……私の誕生日前日から誕生日にかけては、命令させて欲しいんだけれどね。それ以上に素敵なことってないでしょ?」 小松は少しも悪びれることはなく言い、ゆきを試すように見つめている。 どうして良いのかが分からなくて、ゆきは唖然と小松を見つめることしか出来ない。 「……前日と誕生日は、ずっと私のそばにいること。何時もは仕事が忙しいからね、なかなか君のそばにはいられないならね。だから、せめて誕生日の前日から私はそばにいたいと思っているけれど。君は?」 大好きなひとのそばにいたいに決まっている。 どうしたら出来る限り長くそばにいられるのか。 ゆきはそればかりを考えてしまうのに。 「……それで、構わないのですか?」 「誕生日は、君とふたりで、のんびりとしたい……。それだけだよ。手料理を作ってくれたら、それだけで良いよ」 「は、はい」 そばにいるだけで構わないなんて、本当にそれで良いのだろうか。 ゆきはそれだけを考えてしまう。 「私の誕生日と、前日、翌日を私のために空けてくれたら、それで構わないから」 「はい。何か食べたいものはありますか?」 「煮物かな。それが一品あれば、構わないよ」 「はい」 小松はが求めているのは、あくまでシンプルなものだ。 それぐらいなら、ゆきも充分に出来る。 「鍵を渡すから、前日は私の家で、食事を作っておいてくれないかな。あ、ご両親には外泊の許可を取っておいて」 小松はさらりと大胆なことをゆきに言う。 何だか恥ずかしい。 小松の家は広いから、ゆき一人を泊まらせることぐらいは、なんてことはないのだろう。 「分かりました、許可を取っておきますね」 「お願いするよ」 小松はあくまで何でもないことのように呟いた。 ゆきももう大学生ではあるがら、その辺りは少し緩くなっていた。 「では誕生日はそういうことで、誕生日の打ち合わせはこれでおしまい。今日のデートをたっぷりと楽しもうか?」 「はい」 しっかり手を握り締め、冬の海辺のプロムナードを歩いてゆく。 大好きなひとのバースデー。 最高のものにしなければと、ゆきは強く思った。 小松の誕生日の当日。 ゆきは、ドキドキしながら、小松の家に向かう。 手料理のリクエストに緊張してしまう。 小松が好きな南瓜の煮物に、鶏肉をソテーしたもの、具沢山の味噌汁、焼き野菜たっぷりのサラダに、茶碗蒸し。 バースデーケーキは薩摩芋を使った生地で焼いて持ってゆく。 ゆきは献立を考えながら本当にこれで良いのかと、何度も考えた。 鶏肉には、たっぷりの野菜も添えてみた。 栄養のバランスは取ったつもりだ。 ゆきは買い物を済ませて、小松の自宅に向かった。 預かった自宅の鍵に、ゆきはドキドキしてしまう。 本当の意味で特別になったような気分だった。 特別だからと思うと、素敵な気持ちになった。 甘い幸せと緊張を抱きながら、ゆきは小松の家に入る。 そこからは、幸せな幸せな準備時間を過ごした。 小松と結婚したかのように思えて、ゆきは幸せを感じる。 ゆきはのんびりと準備をした後、小松を待つことにした。 嬉しくてドキドキしてしまう。 こうして前日から一緒に過ごすのも、幸せだとゆきは思う。 まるで自分自身がプレゼントを貰っているかのような、楽しい時間だ。 「帯刀さん、早く帰って来ないな……」 ゆきは時計をチラチラと見ながら待つ。 大好きなひとが喜ぶ顔を想像するから、嬉しいのだ。 小松へのプレゼントでもある料理も上手に出来たので嬉しい。 プレゼントも用意をしておいた。 小松が忙しい仕事の最中に和めるように、可愛い猫の置物と写真集、そして卓上カレンダーのセットにした。 些か子供っぽいが、小松が喜んでくれるだろうと、心を込めて選んだ。 笑顔でいてくれたら、これほど嬉しいことはない。 ゆきが様々な想いを抱きながら待っていると、インターフォンが鳴り響いた。 同時にセキュリティを解除する音が聴こえる。 ゆきがバタバタと走って行くと、小松が家に入ってきた。 「おかえりなさい、帯刀さん」 ゆきが挨拶をすると、小松が微笑んでいきなり抱き締めたかと思うと、深くキスをしてきた。 息が出来ないぐらいに激しくて甘いキスに、ゆきはこのまま蕩けてしまいそうになった。 ひとりでは立っていられないぐらいに、キスに溺れる。 こうなるのは小松が相手だからと、思わずにはいられなかった。 |