前編
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大好きなひとが喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、うきうきとした気持ちになる。 とっておきの時間を愛するひとと過ごす。これ以上の時間はないと、ゆきは思っていた。 クリスマスが楽しみすぎて、今年はアベントカレンダーすら買ってしまう始末だ。 クリスマスという大きなイベントがあるからこそ、年末もかなり忙しい小松と会えなくても、頑張ることが出来るのだ。 ゆきは、小松に、極力、連絡をしないようにする。 電話やメールをしてしまい、仕事を止めさせてしまった経験が何度かあるからだ。 だからこそ、クリスマスまでは我慢しようと決めたのだ。 とはいえ、クリスマスを小松とどのように過ごすかなんて、何も決めていなかった。 それに、まだ、きちんとした約束も出来ていない状況だ。 それでも、きっと一緒に過ごすことが出来ると、ゆきは思っていた。 だからクリスマスの予定はちゃんと入れている。今年のクリスマスは、休日だから、一緒に過ごせる。 ゆきはそれを楽しみに、小松へのクリスマスプレゼントを選ぶ。 誕生日にら薩摩切り子を選んだから、今度は違うものをと考える。 小松のことだから、英国のトラディショナルブランドのマフラーや革の手袋が良いかもしれない。 やはり、温かなアイテムについつい目がいってしまうのだ。 小松は英国の紳士的なアイテムがよく似合うように思えた。 ゆきはデパートを巡り、自分の出来る限りの予算の範囲内ではあるが、小松に合う上質なものを探す。 モスグリーンとディープブルーとグレーの組み合わせが素敵な、上質そうなマフラーを見つけた。 ゆきはそれに一目惚れをし、小松へのクリスマスプレゼントとして決めた。 小松がマフラーをしてくれているのを思い浮かべるだけで、本当に楽しい。 ゆきはきれいにラッピングされているのを見つめながら、クリスマスへのワクワク感が半端がないぐらいに高まってくるのを感じていた。 家族へのクリスマスプレゼントも買い求め、楽しくも幸せな気持ちになった。 巷を歩いて流れるクリスマスソングを口ずさみながら、ゆきはほわほわとして温かなホリディシーズンを満喫していた。 クリスマスの準備は出来た。 だが、小松との約束だけが出来ていない。 流石にクリスマスまでは働かないだろうと思いながらも、小松ならやりかねないとも思う。 小松の世界には、クリスマスといったお祭りをお祝いするという概念は、全く持ち合わせてはいないのだから。 余りに小松から連絡がないため、ゆきはすっかり意気消沈していた。 自分から電話をかけようとしていたそのタイミングだった。 小松からの着信を示す音が鳴り響いた。 「はい、ゆきです」 「ゆき? 私だよ。君に今から少しだけ逢いたいのだが、構わないかな?」 小松の声は明らかに疲れていて、ゆきは心配せずにはいられない。 年末に入ってかなり忙しい様子だった。 「はい。いつですか?」 「今からならダメかな?私はとても君に逢いたいのだけれど……」 小松は半ば苦笑いを浮かべながら言う。きっと、こんな時間に電話して逢いたいと言うなんて、どこまで仕事人間なのだろうとでも、思っているのだろう。 「分かりました。今、どちらに?」 「車で君の家の近くにきている。五分もあれば、そちらに行くことが出来る」 「わ、分かりました。すぐに支度して、家の前で待っていますね?」 まさかこんなにも近くに来ているなんて、思ってもみなかった。 ゆきは、携帯電話を切ると、とりあえずは髪をといて、リップだけを塗り、防寒対策をする。 それだけでも五分なんて直ぐに経過してしまった。 ゆきが家の門から出たタイミングで、小松の車がやってきた。 久し振りに小松に会える。それがゆきには嬉しくて堪らない。 小松は車を停めると、そこから降りてきた。 「本当に有り難う。こんな夜に声をかけて申し訳ない」 小松は静かに言うと、早速、助手席のドアを開けてくれた。 「君に会いたくてしょうがなくてね。仕事が忙し過ぎて、連絡する時間すらなかった。申し訳ない……」 小松は本当にただただ申し訳なさそうだった。 小松が多忙なのは分かっていたから、ゆきは大丈夫だとばかりに微笑む。 「私も帯刀さんと一緒にいられることが、とても嬉しいですよ」 「それは良かった。早速だが、夕食に付き合ってくれるかな?」 「はい、よろこんで」 小松と夕食を共にするのも、かなり久し振りなのではないかと、ゆきは思った。 こうして小松と会えるだけで、ゆきは嬉しくてしょうがなかった。 ゆきは助手席に座ると、にこにことしながら、小松を見つめた。 「お仕事、かなりお忙しいようですね」 「やはり年末はやることが多いね。正月の休みを取るためには、休日返上で仕事をしなければならないね。だから、君には寂しい想いをさせてしまうかもしれないね。本当に申し訳ない」 小松は本当に心苦しい様子だった。 「忙しいのなら、それは仕方がありませんよ」 小松がどれほど責任を重視しているかは、ゆきはそばにいるからこそ充分分かっている。 だからこそ、クリスマスの約束をつけることが難しいことを悟る。 「この埋め合わせは、冬の休みで」 「はい」 小松は沢山の社員も抱えているし、大変なことはゆきにはよく分かっている。 だからこそ、ワガママなんて言えるはずがなかった。 「君だからこそ、私の恋人が務まるのかもしれないね」 小松の一言には頷きそうになった。 だが、小松の世界にいる女性たちは誰もがそうなのではないかと、ゆきは思った。 ゆきの世界では特別なのかもしれないが、小松の世界では普通のことなのだ。 「ゆき、今日は時間が許す限りは、君と一緒にいたい。君を堪能したいということだよ」 艶やかな小松の声に、ゆきは甘い緊張を止められやしなかった。 ホリディシーズンを前にした、貴重な甘い時間なのだと思った。 だからこそ、大切。 ゆきはこの時間をしっかりと楽しもうと思った。 「この時間は私にとっては貴重だからね。君と一緒にいられることが、私の何よりもの活力になるからね」 「私もです」 ゆきは返事をしながら、クリスマスの件をどのように切り出そうかと考えていた。 |