*クリスマス前に*

後編


 クリスマスは愛する小松と過ごしたい。

 その想いは日に日に強くなるばかりだ。

 だが、それが必ずしも叶わないことを、ゆきは解っている。

 だからこそ、本当に一緒にいられるのかが、不安になった。

 車に乗って、小松の家に向かう。

 ずっと会いたかった。

 それはゆきも同じことだ。

 小松と逢いたくて、逢いたくて、堪らなかったのだ。

 そしてようやくではあるが、こうして逢うことが出来たのだ。

 小松の家に到着すると、直ぐに手を思いきり握り締められた。とても強い力に、ゆきがびっくりしてしまった程だ。

 それだけ小松が逢いたいと思ってくれていたのが、嬉しくてたまらなかった。

 ゆきと同じように。いや、それ以上に思ってくれていたのが、幸せだと思う。

 小松の家に入ると、いきなり強く抱き締められた。

「……ずっと、君と会いたかった……」

 艶やかな掠れる小松の声に、ゆきは泣きそうになる。

 ゆきも同じぐらい、いや、それ以上に小松のことを求めていたのだから。

 小松に逢いたくて堪らないのは、ゆきも同じだったのだから。

 何度となくふたりは深く唇を重ねてゆく。

 甘く、そして時には激しく唇を重ねてゆく。

 甘いキスに、ゆきは溺れていった。

 離れていた時間が、キスによってどんどん蕩けてゆく。とろとろになり、蜂蜜のように甘く、幸せな味がした。

 同時に激しい情熱も刻み付けられる。息が出来ないほどの熱を生んだ。

 この情熱をもっともっと燃え盛るものにしたい。もっともっと熱くしたい。

 ふたりはそのまま情熱的な時間を共有した。

 

「何だか貪ってしまったようで、君には申し訳なかったね」

「私も同じです」

 ふたりはお互いに顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。

 切迫した感情に、ふたりはお互いを強く求めた。

 愛し合ったあとは、気だるい幸せだけがあった。

 小松は、ゆきを優しく包み込んでくれている。こうされていると、本当に護られていると実感せずにはいられない。

「年末年始はやはり色々と忙しいからね。本当に君には申し訳ないと思っているよ。感謝している」

 小松に感謝されると、飛び上がって喜びたくなる。それぐらいに幸せを感じずにはいられない。

「もうすぐクリスマスですね」

 一緒にいられるかどうかを訊きたくて、ゆきは口にした。

「クリスマスの時期は追い込みの時期だからね。なかなか、情緒を楽しんでいる余裕はないよ……」

 小松の言葉でどれぐらい忙しいのか理解できた。

 これでは一緒にいられない。

 それがゆきには哀しくてしょうがなかった。

 ゆきが急に暗くなったのを、小松は見逃さなかった。

「どうしたの、ゆき?」

「何でもありませんよ」

「何でもないって顔じゃないよ。私には隠し事はしないの」

「だけど、これは私のワガママですから」

「言いなさい」

 ゆきが遠慮するように言うと、小松はピシャリと厳しく言い放った。

「クリスマスイブもクリスマスもお仕事、ですよね……?」

 ゆきが切ない気持ちで、小松に探るように訊くと、少し厳しい表情をになった。

「……残念ながら、仕事をしなければならないよ」

 小松もゆきの気持ちは解っているようだった。だからこそ、切なそうな表情を浮かべている。

「ゆき、君は理解のある子だと、私は思っているよ」

「はい」

 小松の仕事は誰よりも理解しているつもりだ。だからこそ、いつも仕事でなかなか会えない時も我慢している。

 だが、クリスマスのような時だけは、一緒に過ごしたいと思ってしまう。

 それこそスペシャルな日なのだから。

 ゆきは切ない気持ちを抱きながら、小松に甘えるようにすがった。

 小松は柔らかく抱き締めてくれる。その甘さにゆきはすがりたくなる。

 すがってそのままずっと一緒にいられたら良いにと、思う。

「クリスマスプレゼントは準備をしてあるから」

「有り難うございます」

 プレゼントよりも、何よりも、本当はただ小松に逢いたいだけなのだ。

 それがゆきにとっては何よりものプレゼントになるということを、小松はきっと分かってはいないのだろう。

 それがゆきには苦しかった。

 物なんて、本当はいらないのだ。何が必要か。それはあきらかに、小松そのものなのだ。

 それを分かって欲しいのだ。

「……ゆき、私がまた頑張って前に進めるように、力を貸して」

 小松はゆきの唇に柔らかく口付ける。

 そのまま再び口づけをする。

 甘い、甘い、キス。

 熱いキスに、ゆきはそのまま蕩けてゆく。

 熱くて切ない想いに、ゆきはこのまま時間が止まってしまえば良いのにと、思わずにはいられなかった。

 

 翌朝早くから仕事があるせいか、小松はかなり早く起床していた。

 ゆきも、一緒に家を出なければならないから、同じタイミングで起きた。

 これで年内はもう逢えないかもしれない。

 ゆきはそう考えるだけで、重たい気持ちになった。

 ふたりだけで過ごす時間は、とても短く感じてしまう。

 ゆきは切ない気持ちに、更にどんよりとした気持ちになった。

「ゆき、また、連絡をする」

「はい。待っています。帯刀さん」

 ゆきは素直に言いながらも、胸の奥に沸々とわきあがった苦々しいものがなかなか解消出来なかった。

 クリスマスは家族と過ごす。

 いつもと同じだ。

 何ら変わりはないのだ。

 なのに、苦しい想いがゆきの心を覆い尽くしていた。

 

 小松に最寄りの駅まで車で送ってもらう。

 駅前には、クリスマスツリーが飾られており、怨めしいぐらいになる。

 小松は、わざわざ、車を降りて、改札まで送ってくれる。

 ツリーの横で、小松が立ち止まる。

「ゆき」

「え……?」

 ゆきが息を飲むよりも前に、小松はゆきに口付けてきた。

 そのまましっとりとキスをされて、ゆきの胸は甘く華やいだものになった。

「ツリーの下でキスをすると、幸せになれるんでしょ?」

「帯刀さん……」

 小松はフッと微笑むと、「また連絡をするよ」と言い、そのまま駐車場へと歩いて行く。

 クリスマスツリーの下でのキス。

 ロマンティックな準備は完了。

 小松の甘いキスに、ゆきは切ない気持ちが吹き飛んだように思えた。

 

 クリスマスの前に甘いプレゼントがあったのだから、ゆきは僅かな希望にすがって、クリスマスを迎えることにした。

 クリスマスは、きっと愛する人と過ごせると期待に胸を馳せて。



マエ モドル