後編
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ゆきはほわほわと漂いながらも、気持ちが温かくなるのを感じていた。 ずっとこのままでいたいと思いながら、摩訶不思議な夢を見ていた。 身体に熱を感じる時は、どうしてこんなにも妙な夢を見るのだろうかと、ゆきは思った。 少しずつ眠気が消えて行く。 ゆっくりと目を覚ますと、まず最初に小松の顔が視界に飛び込んできた。 「帯刀さん……」 ゆきは、小松の顔を見て、まだ妙な夢の中にいるのだろうかと思った。 「良かった。ようやく気づいたね」 小松はホッとしたような表情を浮かべていた。 「先生に注射をして貰ったから、追々熱は下がっていくだろうと思うよ」 「はい、有り難うございました……」 小松は、先程までのように、ゆきを責めるのではなく、何処か申し訳なさそうな、不安そうな表情を浮かべる。 心許ない表情で、ゆきは逆に大丈夫だと言ってあげたかった。 「熱は下がっているね、先程よりは……」 小松は大きな手のひらをゆきの額に当てて、熱の様子を見る。 ほんの少しではあるが、小松はホッとした様子だった。 「今日はうちで寝ていきなさい。君のご家族にはちゃんと連絡をしておいた。折角楽しみにしていた、クリスマスパーティがなくなってしまって、申し訳ないけれどね」 小松は心苦しそうな表情を浮かべていた。 「帯刀さん、お仕事は!?」 「今日はキャンセルした。ただ、持ち帰ってはいるから、ある程度は進められるよ」 やはり仕事の邪魔になっていたのだ。 これにはゆきが逆に心苦しい。 誰よりも小松のことを理解し、その仕事も理解しているつもりなのに、これでは全く理解していないのと同じだと、ゆきは思った。 これ以上、仕事の邪魔をしてはならない。 ゆきは直ぐに起き上がると、帰る支度をしようとした。 だが、立ち上がろうとしてくらくらする。目眩がしてうまく立ち回れない。 「ほら、無理をするからそんなことになるんだよ。ほら、眠っていなさい」 「お仕事の邪魔になります」 「そんなことはどうでも良いの。ほら、ちゃんと寝て、熱を下げる」 小松はゆきをベッドの中に押し込んでしまう。 「本当にごめんなさい……。小松さんのお仕事の予定を台無しにしてしまいました……」 ゆきは小さくなりながら言う。それを小松が見守るように見つめていた。 「謝らない。謝らなければならないようなことを、君は一切していない」 小松はキッパリと言うと、ゆきをふわりと抱き締めてきた。 「謝らなければならないのは、私のような気がするよ。君のメールに気が付くのが、遅かったんだから……」 小松は心からの謝罪をゆきにくれる。その声はとても優しくて、熱すら何処かへ飛んでしまうような気分だった。 「それに、クリスマスが、とても大切なイベントだということを、私は知らなかったからね。本当に申し訳ない」 小松は溜め息を吐くと、もう一度ゆきを抱き締めた。 「ね、寒くない?」 「大丈夫です」 「そう。それは良かった」 小松はホッとしたように呟くと、一旦、ゆきから身体を離した。 小松はベッドから離れると、クローゼットを開ける。 直ぐに小さな箱を手に、こまつが戻ってきた。 「メリークリスマス、ゆき」 小松は小さな箱をゆきに手渡してくれる。 「薔薇を頂いたのに」 「あれとこれとは別だよ」 「有り難うございます」 小松もちゃんとゆきのことを考えてくれている。それが、ゆきにはとても嬉しかった。 「開けてみて」 「はい」 ゆきはときめきながら、プレゼントを開ける。わくわくするのが、楽しくなる。 プレゼントの箱を開けると、そこには美しいエメラルドの指輪が入っていた。 とても上品なデザインで見るだけで幸せな気持ちになる。 「綺麗です。有り難うございます……。あの、指環をはめていただけますか?」 愛する人に約束の指に指環をはめてほしい。 これは乙女の純粋な希望だ。 「分かったよ」 小松は頷くと、ゆきの左手を手に取ると、薬指に指環をはめてくれた。 指環のプレゼント。 それは女の子にとってはとっておきのものであることを、小松は気付いているのだろうか。 気付いて欲しいとゆきは思う。 「ゆき、この指環が特別なものだよ。君にしか、こんなことはしない」 小松の言葉が嬉しくて、ゆきは泣きそうになる。 ちゃんと小松はゆきのことを大切に考えてくれていた。 なのに、拗ねるような気持ちを抱いてしまったのは、本当に反省しなければと、ゆきは思う。 ちゃんとクリスマスを用意してくれていたのだ。 「とっても嬉しいです」 「私もね」 小松はゆきをしっかりと抱き締めると、その瞳を見つめてくる。 「ゆき、君からのクリスマスプレゼントを開けて構わないかな」 「どうぞ」 「有り難う」 小松へのプレゼント。小松に似合うと思ったマフラー。 トラディショナルな雰囲気が小松にぴったりだと、ゆきは思っていたのだ。 小松はマフラーを見ると、優しく微笑む。 「有り難う、ゆき。君が選んでくれたのが、とても嬉しい」 小松はゆきを見つめながら、本当に幸せそうに笑う。 その表情が嬉しくて、ゆきは思わず笑みを浮かべた。 「明日から早速していくよ」 「はい」 愛する小松が喜んでくれるからこそ、ゆきはプレゼントを、選ぶ楽しさがあるのだと思った。 「あ、ケーキとチキンも一緒に入れていてくれたんだね。有り難う」 「お仕事中の夜食にと思ったんです」 「有り難う。だけど一人には多いね。食べるのが大丈夫なら一緒に食べようか」 「はい」 小松は、さらに丁寧にケーキとチキンを取り分けてくれ、飲み物を用意してくれた。 これで充分なクリスマスのディナーだ。 ゆきはなんだかロマンティックでうきうきとする。幸せで、ついつい笑みを浮かべた。 「テーブルまで来れるかな?」 「大丈夫ですよ」 ゆきは真っ直ぐと歩いて、テーブルについた。 テーブルに並べられたささやかな料理たち。 ささやかだが、ゆきにとっては最高のご馳走だとおもった。 ふたりで一緒に食事をする。それが一番の贅沢なのだから。 愛する人との食事。 これ以上に素敵なものはない。 「メリークリスマス、ゆき」 「メリークリスマス、帯刀さん」 ふたりは、スパークリングワインの入ったグラスで乾杯をする。 今年は素晴らしいクリスマス。 そう思わずにはいられなかった。 終わりよければ総て良し。 |