*黄金休日*


 長い休みが始まる。

 ゆきは、小松とのんびり出来れば良いと思わずにはいられない。

 日頃、小松は忙しくて、なかなか一緒にいられない。

 だからこそ、ゆきは、この連休はずっと一緒にいたいぐらいだ。

 ゆきは、小松の予定を聞きたくて、携帯電話を手に取る。

 小松と一緒にいられるだけで良いから、特に出掛けなくでも構わない。

 小松に電話をかけると、直ぐに出てくれた。

「どうしたの?私の声が聞きたかったの?」

 艶やかな声が聞こえて、ゆきはドキリとする。携帯電話を通して聞こえる声は、艶やか過ぎてドキリとする。

「帯刀さんの連休のスケジュールを聞きたくて……」

「連休?カレンダー通りには休もうとは思っているけれど、土曜日は仕事をしようかと思っているよ。休むのは、祝日だけかな」

 小松は相変わらずのワーカーホリックぶりだ。

 いまの仕事は本当に楽しいらしく、小松は喜んで仕事をしているようだった。

 ゆきにはそれが好ましくも、恨めしくも思えた。

 切ないぐらいに。

「一緒に過ごせますか?」

 ゆきの問いに、小松はくすりと笑う。

「どうして笑われたのですか?」

「どこかに行きたい、ではなくて、君は私と過ごしたいと言ってくれた。それが、私には嬉しかったんだよ。君らしいとも思ったけれどね」

 小松は本当に嬉しそうに楽しそうに話してくれる。

「連休中は、どこに言っても、混んでいるからね。人混みにうんざりするよりは、のんびりしたほうが良いよ。疲れて本末転倒というのは、嫌だからね。休息をするために、休みは使いたいからね」

 合理的なことが好きな小松らしく、理路整然としている。

 それがゆきには好ましい。

 小松らしいとも思う。

「私は小松さんと一緒にいられたら、それで良いです。久し振りに、ただお逢いしたいです」

「君は……、全く、どうしてそんなに可愛いことばかりをいうの。そのままさらいたくなってしまいそうでしょ?」

 小松は、明らかに照れているように見える。それが、ゆきには嬉しい。

「ゆき、君のスケジュールを教えて」

「はい。私は、連休初日の土曜日から9連休ですよ」

「そう……。だったら、初日の夜に迎えに行くよ。泊まりの準備をして、待っていて。連休中は一緒にいよう」

 連休中はずっと一緒。

 それを想像するだけで、ゆきはドキドキし過ぎてしまう。

 こんなにもときめいてしまうのは、なかなかない。

「……じゃ、じゃあ、じゅ、準備をして待っています……」

 恥ずかしくて、どうして良いかが分からない。

「今更、照れることはないでしょ?何度もうちに泊まっているんだから」

小松は何でもないことのように、さらりと言う。

 だが、ゆきにとっては、まだまだ慣れていないし、嬉しい恥ずかしさが充満する。

 ドキドキし過ぎて、落ち着かない。

「……こんなに長く帯刀さんのそばにいるのは、初めてですから……」

「本当に君は可愛いね」

 甘さが含んだからかいに、ゆきは恥ずかしさの余りに目を伏せる。

 勿論、電話であるから、小松には表情なんて見えないだろうが、ゆきにとっては、見られているような気分になる。

 本当に近くに小松がいるのではないかと、ゆきは思ってしまう。

「君をたっぷりと独り占め出来ることを楽しみにしているよ、ゆき。土曜日に逢おう」

「はい」

「ゆき、愛しているよ。じゃあ、また……」

「あ、お、おやすみなさい……」

 ゆきはドキマキしながら、電話を静かに切る。

 まだ耳元で小松が囁いてくれているのではないかと、錯覚してしまう。

 ゆきは、その余韻に鼓動を高めながら、携帯電話を握り締めた。

 

 連休初日の朝から、ゆきは落ち着かない。

 両親は小松との交際に賛成なので、ゆきがこうして小松と過ごすことを、特に反対はしていない。

 息が出来ないぐらいに朝から緊張してしまい、ゆきはガチガチになってしまう。

 嬉しい緊張には違いないのだが。

 ゆきにとっては、初めての長い泊まりなのだ。

「連休中はずっと一緒にいるなんて、あなたたちはもう結婚したのと同じね。本当に仲が良くて、幸せそうで、お母さんは嬉しいわよ。ゆき、まるで新妻みたいね、小松さんの。新婚さんみたいで、あなたをお嫁に出した気分よ」

 母親は朗らかに話している。

 何だか嬉しくて、恥ずかしかった。

 母親は、ゆきと小松が早く結婚すれば、良いのにと思わずには、いられない。

「もうっ。お母さんのバカ……」

「バカで結構よ。あなたは本当に可愛いわね。そこがあの帯刀さんにはたまらないのかもしれないけれどね」

 母親はゆきをからかって楽しんでいる。

 悪趣味だとは思いながらも、ゆきは母親らしいとも思った。

 夕方、小松からメールが入り、ゆきの家に、後一時間ほどで着くとのことだった。

 いよいよ小松が迎えにやってくる。

 準備万端なはずなのに、やはり大切なことは、何度確認しても不安になる。

 ゆきはドキドキしながら、まるで熊のように動き回る。

「ゆき、本当にあなたは分かりやすいわね」

「……そんなこと」

 母親に反論したところで、何もならないのではあるが。

 玄関先のインターフォンが鳴る。

 小松だ。

 律儀なだけあり、時間通りだ。

 ゆきが玄関先まで走ってゆき、玄関ドアを開けると、小松が立っていた。

 嬉しくて、ドキマキしてしまう。

「お待たせしたね、迎えに来たよ。準備はできている?」

「はい」

 ゆきが荷物を取りに行こうとすると、母親が荷物を持ってきてくれた。

「小松さん、連休中は娘をよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、娘さんをお借りします」

 母親はすっかり嬉しそうだ。

「はい、荷物。ゆき、いってらっしゃい」

「いってきます……」

 母親がにこにこ笑って見送るものだから、ゆきは余計に恥ずかしくなってしまった。

「さあ行こうか。今夜は流石に食事を作ることは出来ないから、外で食べようか。明日からは、ふたりでのんびりするよ」

「はい」

 小松はゆきの手をしっかりと握りしめてくれると、そのまま車までエスコートしてくれる。

「九日間は、ふたりでのんびり過ごそう。私は二日ほど仕事に行くけれど、それでも君と一緒にいられるのは、嬉しいからね。予行演習にもなるから」

「え?」

「何でもないよ。行こうか」

 甘くてのんびりした、情熱的な連休が始まる。

 ゆきは、ドキドキしながらも、小松と過ごせる濃密な時間を楽しみにしていた。




モドル ツギ