*黄金休日*


 小松とのゴールデンウィークの時間は、まさに蜜週と言っても良かった。

 ゆきは、本当に小松と結婚したような気分になった。

 小松は、ゆきに無理をさせない程度の家事しかさせようとはしなかった。

 ゆきがしたくて率先して家事をしている。

 こうしていると、本当に小松と結婚したような気分になれるから。

 ドライブに近場を回ったりしたが、それ以外はふたりで、まったりのんびり、ゴールデンウィークだった。

 そのゴールデンウィークも間もなく終わりを告げる。

 終わると意識するだけで、ゆきは切ない気分になる。

 まるで遊園地から帰る時の、あの寂しい気持ちに似ていた。

 ゆきは帰る前日から、過ぎ去って欲しくなくて、無言になる。

 ずっとこの時間が続けば良いのにと、思わずにはいられない。

 小松と同じベッドで眠るのも、今夜でおしまい。

 今度はいつこのように過ごせるのだろうか。

 それよりも、今度はいつ会えるのだろうか。

 そればかりをゆきは考えてしまう。

 小松中毒だ。

「どうしたの?夕飯が終わってから暗いよ」

「……何でもないです……」

 小松と離れるのがかなり寂しいだなんて、本当は知られたくない。

 ゆきは必死になって黙りこむ。

 きっとそんなことを言えば、小さな子供と同じような扱いを承けるに決まっているから。

「君は、私に知られたくないと、そうやって必死になって隠すよね。どうして?いつも、最終的に私に知られてしまうでしょ?だったら、素直になりなさい。それに、素直な子には、ちゃんとご褒美をあげるよ」

 小松は小さな子供を宥めるように言う。確かに、ご褒美は魅力的かもしれない。

 心が揺れ動く。

「……帯刀さんと離れ離れにまたなると思うと、寂しいだけです……」

 ゆきは結局は自分の気持ちを認めてしまう。

 小松にはやはり弱い。

 小松には、結局、何も隠しだて出来ないのだ。

「君は本当に飽きないし、私を誰よりも楽しませてくれるね。君は良い子だ……」

 小松にギュッと強く抱きしめられると、ドキドキする。

 ドキドキは、いつまでたっても変わらないのだ。

 きっと一生変わらない。

「……きちんと良い子だったご褒美をあげなくちゃいけないね」

 小松はゆきから離れると、一瞬、眩しそうに目をすがめた。

「左手出して」

「どうぞ」

 掌に飴玉でも乗せられるのだろうか。

 子供扱いをする小松らしいご褒美かもしれない。

 ゆきは飴玉だと思いながら、小さな子供がするように手を出した。

 すると、小松は、ポケットからジュエリーボックスを出したかと思うと、それを開けて、指輪を取り出した。

 ダイヤモンドの指輪がまさか出てくるとは思わなくて、ゆきは目を丸くした。

「……こちらでは、夫婦の約束をするときに、夫となるものが、妻となる女性に指輪を贈るんでしょ?」

 小松は何時ものように、何処かひねくれたように言う。

 だが、ゆきを見つめる眼差しは深みがあり、とても温かかった。

 こんなにも温かな眼差しはないと言うぐらいに。

 感極まり、嬉しいを通り過ぎた最高の喜びに、ゆきは泣きそうになる。

 涙ぐんでいると、小松が苦笑いを浮かべる。この上なく優しい苦笑いだった。

「私の妻になるんでしょ?」

「……はいっ!帯刀さんの妻になります」

 ゆきは泣き笑いの表情を浮かべながら、小松を誠実な眼差しで真っ直ぐ見つめた。

 小松も愛が溢れた笑みを静かに浮かべると、ゆきの左手を手に取る。

「君を誰よりも幸せにするよ」

 小松は、真摯で愛が沢山つまった、柔らかな優しい声で、ゆきに堂々と宣言してくれる。

 それが本当に嬉しかった。

 小松は静かに、ゆきの左手薬指に指輪を嵌めてくれる。

 これ以上に神聖な儀式はないだろうと思い、ゆきは泣きそうになった。

「……有り難うございます、帯刀さん」

 小松の大きな愛情に応えたい。

 ゆきは、小松への深くて熱い、誠実な愛情を滲ませた眼差しを、しっかりと向ける。

「私も帯刀さんを誰よりも幸せにします」

「有り難うゆき」

 小松もまた、眩しいぐらいに幸せそうな眼差しを浮かべていた。

 本当に幸せそうで、ゆきも感動してしまうぐらいに嬉しくなった。

「ゆき、私に幸せにする証を見せて?」

「え?」

「私に誓いのキス……、出来るでしょ?」

 小松の大胆な提案に、ゆきは驚いて恥ずかしくなる。

「あ、あの」

 恥ずかしすぎてもじもじしていると、小松は少し不機嫌そうに見つめてくる。

「出来るの?出来ないの?」

「で、出来ます……」

「そう。君はやっぱり良い子だね……」

 小松に意味ありげに言われると、本当にドキドキしてしまう。

「目を閉じていて下さいね……?」

「了解」

 小松が目を閉じたタイミングで、ゆきは抱きつきながら、思いきり背伸びをしてキスをする。

 自分から誘うような大胆なキスなんて、本当に出来ないと思いながら。

 小松にキスをすると、今度は思いきり抱き締められて、甘いキスをされる。

 激しいキスに、くらくらする。

 頭の芯まで蕩けるようなキスをされた後、ゆきは抱き上げられる。

「続きは、寝具で確かめさせて貰うよ」

 小松の艶のある眼差しに、ゆきは従うしかなかった。

 

 翌日、小松はゆきを自宅へと送ってくれる。

 左手薬指には、幸せの象徴が光っていた。

 両親に挨拶をしてくれるのだ。

 本当に嬉しい。

 ゆきは、ほんのりと緊張しているのを感じながら、小松とふたりで、自宅に入る。

「まあ、小松さん、わざわざゆきを送って下さいまして、有り難うございます」

 母親は本当に嬉しそうに出迎えてくれた。

「ゆきさんのご両親にお話がございます。お時間はよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

 母親は、一瞬、ゆきの左手を見つめて微笑んだ後、リビングへと通してくれた。

 両親とテーブルを挟んで座ると、かなり緊張する。

「ゆきさんのご両親にお願いがございます。ゆきさんを私に下さい」

 あの小松帯刀が、ゆきの両親に深々と頭を下げる。

 ドキドキし過ぎて、息が出来なくなるぐらいに感動するとともに、ゆきは嬉し涙を溢す。

「こちらこそ、ゆきをよろしくお願いいたします」

 両親も、小松の真摯で誠実な想いに応えるために、深々と頭を下げた。

 本当に愛されている。

 ゆきは涙でよく見えない。

 今年のゴールデンウィークは、最高に幸せな日々だったと思う。

 一生忘れない。

 ゆきは強く思った。



マエ モドル