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どれぐらいねむっていたのか、ゆきにも分からない。 ただ陽射しが眩しくて、ごく自然に目を開けた。 「……あ……」 見慣れない天井に、ゆきは直ぐに気がつく。 小松の家だ。 小松の家で、昨日から過ごしているのだ。 顔をほんの少しだけずらすと、そこには小松がいる。 ゆきが起きたことに気づいて、眩しいぐらいに素敵に甘い笑みを浮かべてくれている。 こちらがうっとりとしてしまうほどだ。 「おはよう、ゆき」 小松は、ゆきの目覚めが嬉しいとばかりに微笑むと、唇に優しいキスをしてくれた。 甘くて、愛情がたっぷりとつまったキスだ。 「……おはようございます、帯刀さん……」 今、何時なのだろうか。 出掛ける予定はないが、気になってしまう。 時計を見ようとすると、小松に強く抱きしめられる。 「……どうしたの?何か気になることでもあるの?」 深い艶がある声で囁かれて、ゆきはドキドキし過ぎて、耳まで真っ赤になってしまう。 「今何時かと気になっただけで……」 「どうして時間なんて気にするの?」 「どれぐらい眠っていたのか、気になっただけで……」 「今日はお休みだから、そんなことを気にする必要はないでしょ?」 小松は益々抱きしめてくる。 「ホテルを使うんなら、気にしなければいけないけれど、今日は私の家だから、気にする必要はないでしょ」 「何となくです」 「お腹が空いたから?」 小松はくすりと笑うと、からかうように言う。 「そ、そんなことはないですけれど……」 「そんなことはあるんでしょ?」 小松はくすりと笑うと、ゆきの頬のラインを優しくなぞった。 「まだ、ランチにはまだ早い時間だよ? 午前9時をお知らせするよ」 小松はゆきの頬に軽く甘いキスをくれる。 「だから、ブランチにしたら良いから、まだ起きなくても大丈夫。ゆっくり出来るよ」 ゆきはホッとする。 「私も9時まで寝るなんて、先ずはないから、こうしているととても贅沢な時間を過ごしているような気がするね」 「私もそう思います」 「だったら、ついでにもっと贅沢なことをしようか?」 「はい、どんな贅沢ですか?」 「こういう贅沢だよ」 小松はくすりと笑うと、ゆきを組敷く体勢を取る。 「……え?」 「これが私には一番の贅沢だよ……」 小松は官能的に笑うと、ゆきの身体をまさぐり始める。 そのまま、ゆきは情熱的な世界に、誘われた。 小松とふたりで、夕食の買い物を兼ねて、ブランチに出掛ける。 小松のこの時空への対応力は、全く素晴らしいとゆきは思ってしまう。 結局は、そろそろ昼食時間だというところまで、布団にくるまっていた。 「明日もこれぐらいの時間の使い方が良いね」 ゆきは朝のことを思い出すだけで、恥ずかしくて堪らなくなる。 「どうしたの?真っ赤になって。今朝の過ごし方は最高に贅沢で幸せだったでしょ?」 小松は微笑みながら、ゆきに意味深な視線を送る。 それがゆきには恥ずかしくて、真っ赤になりながら、小松を睨み付けた。 「し、幸せだったですけど……、恥ずかしくて……」 ゆきがゴニョゴニョと言うと、小松は可笑しそうに喉を鳴らした。 「私と結婚したら、休日毎にこのようなことになるから、覚悟していて?」 小松の艶やかな声で言われると、ゆきは息が出来ないぐらいにドキドキしてしまう。 愛する小松と結婚。 正直、意識しない筈はない。 心から愛しているひとと生涯を共にしたいと、誰しも思うことだろうから。 「近いうちにそうするつもりだよ。覚悟していて?」 甘くて意地悪に囁かれると、ゆきはときめくあまりに、身体の芯から蕩けてしまいそうになる。 嬉しさとドキドキで、ゆきは上手く言葉を発することが出来なかった。 本当にドキドキしてしまい、息遣いすら、コントロール出来ないというのに。 「返事は? ゆき?」 小松は少し怒ったような表情を浮かべる。 「は、はい」 「返事の仕方は、まあ、まあ、かな」 小松は、ゆきが希望通りに頷くとわかっていて、自信ある笑みを浮かべたようだった。 「……私が、はい、と返事をするとわかっていましたか?」 「当然でしょ?私は誰よりも君を愛しているのだからね」 小松は自信あるとばかりに、ゆきを真っ直ぐ見つめながら言った。 心臓が一気に跳ね上がる。 ドキリとして、このまま踊り出してしまいたくなるぐらいた。 真っ赤になって、ついにやけた顔をしていると、小松がフッと笑う。 「そんなににやけて。君はどうなの?私を誰よりも愛している?」 小松はわざと真剣な顔で、ゆきに近づいてくる。 全くズルい男性だ。 ゆきはドキドキし過ぎて、きちんとした反応が出来なくなってしまう。 「も、もちろん、帯刀さんが、誰よりも好きです。愛しています……」 最後の方は、恥ずかしすぎて、声が上手く出なくて、尻窄みになってしまった。 「本当に君は可愛いね。いつもそういう反応をするから、私も楽しいんだよ。君ならば、ずっと一緒にいても、絶対に飽きないね」 小松はくすりと幸せそうに笑うと、ゆきを真っ直ぐ見る。 「だから、一生一緒にいても大丈夫だと思ったんだけれどね」 小松の艶やかな声で言われると、ゆきは益々盛り上がった気持ちになる。 これはプロポーズだろうか。 だったら、こんなにも嬉しいいことはない。 だが、自意識過剰ではないだろうか。 そんなことを、ゆきは悶々と考えてしまう。 真っ赤になったり、少し不安になったりと、自分でもかなり忙しいと、ゆきは思う。 こんなにもあれこれ忙しいと感じるのは、きっと相手が小松だからという側面は大きいのではないかと、ゆきは思った。 こんな気持ちになるのは、小松が相手だからだ。 「ゆき、君ね、そんなにあれこれ考えて忙しそうなのは良いことだけれど、疲れないの?見ていて楽しいけれど」 小松はじっと揺れる眼差しでゆきを見つめたあと、フッと今までで一番色気のある視線を送ってきた。 「あ、あの、た、帯刀さん」 そんな眼差しで見つめられたら、ブランチを食べるどころではなくなってしまった。 「君ね、私が求婚していることに気付かないの?私の妻になりなさいと、私は言っているんだけれど?」 小松は、今度はゆきに直球を投げてくる。ドキリとし過ぎて、ゆきは落ち着かなかった。 「……あ、あの…あ、あの」 ゆきはどうして良いかが分からなくて、あたふたするばかりだ。 「君を私のものにする準備は万端だからね。安心して妻になりなさい。今回の休暇はその練習だよ。だから、連休の最終日には、正式に君のご両親にご挨拶をするからそのつもりで」 正式な挨拶。 幸せが胸に競り上がってきて、ゆきは言葉に出来ない。 「返事は? ゆき」 「はい、よろしくお願いいたします」 ゆきはどぎまぎしながら、勢いよく返事をする。 小松は満足そうに、柔らかな幸せの笑みを浮かべて、頷いてくれた。 人生がまた動き出すと、ゆきは感じずにはいられなかった。
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