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お盆休みだといっても、ゆきの大好きなひとは相変わらず忙しい。 この時空に来て、会社を立ち上げ、立派にCEOとして運営をしている。 忙しくて、大学生のゆきとは時間を、あわせるのは難しくて、そう頻繁には会えない。 けれども、小松はゆきのために出来る限りの時間を作ってくれている。 それがゆきには嬉しくて堪らなかった。 小松は小松なりに、ゆきのために時間を作ってくれている。 それがとても有りがたい。 今夜は、小松の自宅近くで花火大会があり、ゆきは楽しみにしていた。 久々のデートで、しかも花火大会なのだ。 気合いが入らない筈がない。 ゆきは、たっぷりとお洒落をしたくて、一所懸命になる。 花火大会といえば浴衣だから、浴衣を着て、髪を結い上げる。 髪は長いほうではないから、アップにするのは大変だが、なんとか頑張って結い上げた。 お化粧は和服に似合うように、パープルを主体としたメイクをする。 後は、和風な奥ゆかしくて華やかな香りがするお香を身に纏って、ゆきは仕度を完了させる。 何だか鏡の中の自分を見て、ゆきはドキドキしてしまう。 リップグロスを軽く塗ると、キラキラと光って、余計にドキドキしてしまった。 どうしてだろうか。 今日はとてもドキドキしてしまう。 何だか華やいだドキドキだ。 何かが起こるような、そんな気持ちになるドキドキだ。 ゆきは恥ずかしくて、ひゃーと妙な声をあげた後、小松との待ち合わせ場所へと向かった。 待ち合わせ場所近くに来ると、華やかな浴衣姿の女の子が多くて、ゆきは雰囲気に気圧されそうになった。 誰もが華やかで美しい。 だが、自分はといえば、ひとり子供っぽいような気がする。 そう思うと、ゆきは何だか萎縮してしまった。 恋人の小松は、かなり大人で艶やかな魅力があるひとだ。 あの魅力に、ゆきはドキドキしてしまう。 きっと浴衣姿も素晴らしいに違いない。 小松が浴衣姿でこちらにやってくるのか見えた。 周りの女子が憧れの眼差しを向けてしまうぐらいに、小松は素晴らしい。 本当にうっとりとしてしまうぐらいに、小松は艶やかで麗しいオーラに充ち溢れていた。 ゆきの姿を見つけるなり、小松の表情が険しくなる。 周りの女性に比べると、全く色気が足りてはいないからだろうか。 それとも、綺麗ではないからだろうか。 浴衣が似合っていないからだろうか。 短い時間の間に、ゆきは様々なことを考えてしまう。 こんなことを考えてもしょうがないだろうと思うぐらいに、色々と考えてしまっていた。 ゆきが切ない気分で小松を見上げると、思いきり手を握り締められてしまった。 「……ゆき、お待たせをしたね。行くよ」 小松はいつも以上に冷悧な表情を浮かべると、真っ直ぐゆきを見た。 突き刺さる槍のような眼差しは、ゆきを更に切なくさせる。 「……ゆき、行くよ。花火大会の特等席は家だからね。行こう。何か食べるものを買って見よう。花火を近くで見るのも良いけれども、少し離れるところで見るのも良いからね。近くで見られる場所は確保したけれども、今日はうちの方が良いよ」 「はい……」 小松は会場で花火を見たくないのだろう。原因は、自分がみっともないからだろうか。 ゆきはそんなことを考えてしまう。 ゆきの姿を見るなり、小松が言い出したことなのだから。 ゆきは胸が切なく苦しくて、どうやって息をして良いのかが解らなかった。 小松はゆきの手をしっかりと握り締めて、そのままクールにあるきだす。 力強く歩くものだから、ゆきは着いてゆくしかなかった。 途中で、夕食用に立派な惣菜を買い求めた後、ふたりで小松の自宅へと向かう。 小松はずっとゆきの手を離さない。 それどころか、握り締める力がかなり強くなっている。 その力強さに、ゆきは息を飲む。 まるでゆきを絶対に離さないと囁いてくれているようだからだ。 もしそれが事実ならば、女の子としてはこれ以上に嬉しいことはない。 だけど、ゆきのことをみっともないと思っていて、早く人の目から連れ出したいと思っていたとしたら。 ゆきはドキドキしながら、不安と期待のせめぎあいな気分で見つめていた。 小松の自宅に到着すると、直ぐに花火大会の準備を始める。 ゆきは、どうして自宅での花火大会鑑賞になったのかを、ずっと訊こうと思ってはいたが、なかなか言えなかった。 小松は淡々となにも言わずに準備をしているから、ゆきは余計に不安になってしまった。 「……帯刀さん?」 「何、ゆき、どうしたの?」 「帯刀さんは、どうして、自宅で花火大会を見たいって思ったのですか?」 ゆきが覚悟を決めて訊いてみると、小松は更に冷たい表情になる。 「……どうしてって、それは私が人混みが好きではないからだよ。花火を見るだけで集まるなんて、合理的じゃない」 小松はさらりと言うと、準備を続ける。 確かにそうかもしれないが、大勢で見るところに醍醐味があるのだ。 「大勢で見るのも良いことだってありますよ?」 「……だけど、私は嫌なの。あんな大勢の前だと、苛々するだけだからね」 どうして苛々するのだろうか。 ゆきは理由が分からなくて、小首を傾げた。 「帯刀さんは、本当に人混みが嫌いなんですね」 「……人混みは嫌いだよ。だけど君は相変わらず鈍感と言うか……。そんな君に苦労しつつも、楽しんでいるんだけれど、鈍感過ぎるのは、命取りにならなければ良いけれど……」 小松はゆっくりと近づいてくる。 「……君は、多くの男たちの視線を浴びていたことを、気付かなかったの!?」 非難するように言われて、ゆきは目を見開く。本当に気づいていなかったのだ。 「……え? 私、帯刀さんしか見ていなかったですし……」 ゆきがしどろもどろに言うと、小松はいきなり喉を鳴らした。 「……全く、君って子は……」 小松はいきなりゆきを抱き締めると、腕の中に閉じ込めてしまう。 「……浴衣が似合っていて、綺麗だからに決まっているでしょ?誰にも見せたくないぐらいにね……」 小松に甘く囁かれて、ゆきは鼓動が激しくなるのを感じる。 息苦しいぐらいのときめきに、ゆきは呼吸が出来ない。 「……誰にも見せたくない……。君は私だけのものだからね」 小松の言葉に、ゆきの甘いはにかみは更にヒートアップしてしまう。 そのまま唇を重ねられる。 塞がれた唇から、甘い気持ちを感じた。
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