*花火の夜*


 小松に何度も何度も角度を変えてキスをされる。

 甘くて柔らかなキスに、身体の芯まで蕩けてしまうほどの安堵感と幸せを感じる。

 ふたりでしっかりと抱き合って、ゆきは心から充たされていると感じる。

 大好きなひととキスをする。それだけでとっておきの幸せを感じた。

 幸せすぎてどうして良いのかが分からない。

 幸せで、幸せでしょうがない。

 大好きなひととキスをするのは、この世の天国だと思った。

 ようやく唇を離されたが、ゆきはまだとろんとしていた。

 気持ちが良い。

「……ゆき、花火大会、見るんでしょ?さあ、準備をしようか」

 小松に柔らかく諭すように言われて、ゆきはもっとキスをして欲しいという想いを引っ込めた。

「……ゆき、さ、そんな目をして、私を煽らないでくれる?君も花火大会どころではなくなるよ」

 小松の透明感のある艶やかな言葉に、ゆきは真っ赤になりながら頷いた。

 折角だから花火は見たい。

 だがそれ以上に、小松が欲しいだなんて、ゆきは恥ずかしくて言えなかった。

 

 ベランダに準備を終えると、猫がタイミング良くやってきた。

 愛らしく鳴く猫に、ゆきは思わず笑顔になる。

「こうしてベランダで花火を見るのも良いですね。猫と一緒にいられますからね」

「そうだね、それもまた自宅花火の醍醐味かもしれないが……」

 小松はフッと微笑むと、猫を膝の上に乗せて優しく撫で付けた。

 気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らす猫を見つめながら、ゆきはほんのりと猫が羨ましくなった。

 本当に小松は猫にたいしては、純粋に優しかった。

 ゆきに対しても優しいが、いつもほんのりと意地悪が入っている。

 甘い意地悪ではあるが、猫が羨ましくなる。

「……どうしたの?猫がそんなに羨ましいの?」

「羨ましいです……」

 ゆきが素直に言うと、小松は喉を鳴らして笑う。

「……だったら、君も私の膝の上に乗れば良いよ」

 小松はさらりと言うと、猫を下ろして、膝を空けた。

「さ、おいで」

 いきなり大胆なことを提案してくる小松に、ゆきは喉がからからになってしまうぐらいにドキドキしてしまう。

 こんなにドキドキしてしまうと、ゆきは本当にどうしようかと思ってしまう。

 耳まで真っ赤になるぐらいに恥ずかしい。

 恥ずかしいけれども、ゆきは膝の上に乗りたくなる。

 だが、心臓がうねり声を上げていて、うまく出来ない。

 ゆきは鼓動がおかしくなり、上手く呼吸が出来なくて、それ以上何も言えなかった。

「……どうしたの?来なさい」

 小松は、折角、膝の上を空けてあげたのにとばかりに、ゆきには命令口調で呟く。

 行きたいのは本音だけれども、上手く出来ない。

「あ、あの、わ、私っ……!」

 ゆきがあわわとしていると、小松はいきなりゆきの腕をつかんで膝の上に乗せさせる。

「……あ、あのっ……!!!」

 ゆきは狼狽えながら、真っ赤になってしまう。恥ずかしすぎて、小松をまともに見ることが出来なかった。

「……小松さん……」

「素直になったらどうなの!?」

 小松に鋭く言われて、ゆきは返す言葉がない。

「……なんてね……。分かってるから、ちゃんと私の膝の上に座りなさい……」

「……はい……」

 ゆきはもじもじとしながら、小松の膝の上に座り直した。

「……良い子だね」

 小松にしっかりと抱き抱えられて、ゆきは恥ずかしいけれども、とっても幸せだった。

「……間もなく花火が始まるね」

「そうですね」

「ゆき、お腹空いた?」

「そんな余裕は……」

 そこまで言って、お腹が空腹を訴えていることに気がついた。

「……やっばり、お腹が空いていたみたいです」

「そ、じゃあ食べようか?」

「ひ、膝の上で座ったままだと、落ち着いて食べられないです……」

 流石にこの状態だと、きちんと食べることが出来ない。

 ゆきは胸がドキドキし過ぎて、お腹が空いているのに食べられない。

「……しょうがない子だね。下ろしてあげるよ」

 ゆきの反応を楽しむかのように言うと、小松は膝から下ろしてくれた。

 ホッとしてはいるものの、何だか物足りないような気持ちにもなる。

 ゆきは椅子に腰をかけると、飲み物を口に含みながら食事を始めた。

 ごはんを食べていると、花火が始まる。

 花火が始まってしまうと、ゆきはそちらに夢中になってしまった。

 ごはんを食べるよりも、花火を見つめるほうが忙しい。

 本当に夜空に輝く大輪の花火は美しくて、ついうっとりと見つめてしまう。

「……ゆき」

 ふと小松に名前を呼ばれて、ゆきは見つめられているのに気がついた。

 花火よりも自分の顔を見つめてくれている。

 嬉しさと照れで、ゆきはドキドキしてしまった。

 小松の綺麗な瞳に見つめられると、ドキドキが止まらない。

「……た、帯刀さん……?」

「花火よりも、君の百面相のほうが、見ていて余程面白いけれどね」

 小松は意地悪な笑みを浮かべながら、ゆきをからかうように見つめている。

「……そ、そんなの、知りませんっ。私、百面相なんかじゃないですからっ」

 ぷくりと頬を膨らませても、小松は喉を鳴らして笑っているだけだ。

 それがゆきには気に入らなかった。

「怒っていないで花火でも見たら?」

「言われなくてもみます。帯刀さんのイジワルっ!」

 ゆきがいくら拗ねても、小松は面白がるだけだった。

 悔しくて、ゆきはわざと花火に集中する。

 すると小松の顔が項に、近づいてきた。

 項に小松の吐息がかかる。

「……やっ……」

 つい甘い声を上げてしまい、ゆきは肌を震わせた。もう花火のことなんて考えられなくなる。

「……見るんでしょ、花火……」

 小松は意地悪な声で囁きながら、ゆきの項に唇を押し付けてきた。

 体温よりもほんのりと冷たい唇が押し当てられて、ゆきは鼓動を速めた。

「……花火が……」

「……花火は見られるでしょ?楽しめば良いよ」

 小松は首筋を唇で吸い上げながら、手を浴衣の袷に持ってくる。

 そのままソフトなのに強引に袷から手を差し入れた。

 胸元を直に柔らかく触れられる。

「……帯刀さんっ…!!」

 ゆきが声を震わせながら大好きなひとの名前を呼ぶと、更に胸に触れられる。

 

「……ゆき、私を煽ってるの?」

「……煽ってなんか……」

 小松のイジワルで甘いイタズラに、ゆきは身体の奥がとろかされる。

「……花火が……」

「……花火なんかどうでも良いでしょ?私だけに集中したら良い……」

 小松は低く艶のある声で囁くと、ゆきを更に熱い世界へと誘った。

 





マエ モドル ツギ