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小松も、初めての娘の節句ということもあり、準備には力を貸してくれている。 見事な雛飾りを用意してくれ、ゆきは感謝と共に泣きそうになった。 見事に飾られた雛人形を、ただただ見つめるだけだ。 「帯刀さん、お雛様有り難うございます。凄いですね。こんなにも見事な雛飾りは初めて見ました」 「初めての娘だからね。当然だよ。嫁入りの時も、持参して貰いたいからね」 小松は目を細めて優しい表情を浮かべる。甘くて柔らかい。 小松の想いに触れながら、ゆきは自分の両親の想いを重ねた。 幼い頃、本当に大切にして貰った。 小松とゆきが、子供たちに注ぐのと同じぐらいに深い愛情をたっぷりかけて貰った。 雛祭りは、雛人形を飾って、盛大に祝って貰ったことを思い出す。 きっと両親は、今、ゆきと小松が感じているのと同じぐらいの想いで、用意をしてくれていたのだろう。 同じように、娘が嫁入りをしても、雛人形を用意してくれたのだろう。 利害を超えて、純粋に愛してくれたのだ。 今、親になって、ゆきはようやくその気持ちを理解することが出来た。 返せないほどに愛を注いでくれたのに、こうして異世界で生きてゆくことを選んでしまった。 返せないからこそ、受けた愛情を子供に今、与えることで、間接的に返しているのだろう。 もう二度と逢えない両親。 だが、瞬や祟が、その分、しっかりと大切にしてくれているだろう。 だから、心配はしていない。 それでも、やはり時折、切ないぐらいに懐かしくなり、胸が痛む。 「どうしたの、ゆき」 小松が気遣うように声をかけてくる。 ゆきは、物思いから解き放たれた。 「あ、帯刀さん」 「どうしたの、ぼんやりして」 「家族でお祝いをして貰った、雛祭りを思い出していたんですよ。懐かしいなって。両親も、私と帯刀さんと同じぐらいに、沢山の愛情を注いで、雛人形を用意してくれたのではないかと、思っていたんですよ」 ゆきは穏やかな気持ちになりながら、小松を真っ直ぐ見つめた。 「……ゆき……」 小松は、切なそうな表情をする。 ゆきが、生まれた世界を恋しいと思っているのではないかと、考えているのかもしれない。 「親になって初めて両親の想いが理解出来たような気がします。だから、私も子供たちにその想いを間接的に伝えたいです」 ゆきが雛人形に触れながら、穏やかに呟くと、小松はゆきを抱き寄せてきた。 「た、帯刀さんっ!?」 子供たちが見ているかもしれないと思うだけで、恥ずかしくなる。 「……寂しいの?」 小松は低い声で、どこか不安が滲んだトーンで訊いてくる。 「いいえ。寂しくはありませんよ。家族が寄り添ってくれますから。ただ、懐かしいと思ったのと同時に、両親の想いと私の想いを重ねてしまいました。私も同じような想いを抱いて、ようやく両親の気持ちが理解出来ましたから」 ゆきは、小松に甘えるように、顔を逞しい胸に寄せる。 こうしていると、本当に幸せだ。 「……ゆき」 「こうして帯刀さんに甘えられるのが嬉しいですよ。とても幸せです」 「そう」 小松はゆきを強く抱き締めてくれる。 こうして抱き締めてくれる腕があるからこそ、ゆきは今まで頑張ってくることが、出来たのだ。 「帯刀さんがいる場所が、私のいる場所ですから」 「有り難う。私も、そう思っているよ」 ふと、ふたりの身体にすりよってくる、温かな体がある。 「平田殿!」 見ると、平田殿のお嫁さん猫と、その子供が同じようにすりよってきた。 「平田さんのところも、初節句でしょう?一緒にお祝いをしましょうね?」 平田殿の家族も、小松とゆきの家族も、ここに共にいるから幸せなのだと思う。 小松とゆきは、お互いに顔を見合わせた後、名残惜しいとは想いながらも、抱擁を解いた。 「平田殿の家族のお祝いもしなければならないね」 小松が平田殿を撫でると、喉をゴロゴロと鳴らした。 「奥方様」 子育てを助けて貰っている婆やが、子供たちを連れてきてくれる。 小松によく似た長男は、随分としっかりしてきた。娘はまだ、生まれてから半年程ではあるが、日に日に成長している。 ゆきは、なるべく、子育ては自分で行うようにしてはいるが、助けも借りている。これは、小松の配慮でもある。 勝手が違う世界からやってきたゆきのためだ。 ゆきは、婆やから娘を抱き取り、飾り付けた雛人形を見せた。 「あなたの雛人形だよ。綺麗でしょ?賢く、優しく、真っ直ぐに育ってね」 ゆきは、母親として、想いをしっかりと伝える。 優しい気分になる。 母親としての気持ちは、慈しみが先立つのだと、ゆきは思った。 「父! 妹は立派!」 まだまだ言葉を上手く操れない息子ではあるが、それでも父親と同じような武士としての心構えが、見える。 「しょうがないでしょ。女の子は、きらびやかだと決まっているからね。お前も立派な兜飾りがあるでしょ。まあ、もう、あのような甲冑や兜は、使うことはないのだろうけれどね」 平和で誰もが等しい世界を目指す小松から出た、心からの言葉だと思う。 家族全員と、平田殿の家族とで、雛人形を見つめる。 こうして家族でいつまでも幸せに、節句を祝うことが出来たら良いのにと、思わずにはいられない。 だが、それも現実には短い時間だろう。 子供は巣立つものだからだ。 ゆきは子供たちを見つめながら、小松と共に成長を見守るのもまた楽しみだと思った。 「ね、ゆき、君はどのようにして、雛祭りを祝っていたの?」 「こちらと変わらないですよ。皆で、お寿司を食べて、雛人形を眺めて、お祝いをしました。後は、記念に写真を撮りました」 「余り変わりがないね」 「子供の成長を願う親の気持ちは、変わらないですから」 「確かにね」 小松は穏やかな笑みを浮かべながら、子供たちに見えないように、ゆきの小さな手をそっと握りしめる。 「ずっとふたりで見守っていかなくちゃね」 「はい」 ふたりで子供たちの成長を見守ってゆく。 それが、ゆきにとっても、小松にとっても、大きな楽しみになる。 愛するひとと、愛する子供たちをずっと見守ってゆく。 節句とは、子供のためであり、成長を確認する親の為でもあると、ゆきは感じていた。 |