*風邪をひいたら*

夜編


 喉も痛いし、鼻もかなりグスグズしている。

 大好きな小松とずっと一緒にいたいのは山々ではあるが、ここは、帰らなければならないとゆきは思った。

 風邪を引いてしまったのだから、しょうがない。

 一緒にいて、小松に移してしまうのも嫌だし、ゆきは早目に帰って、眠ることにした。

「帯刀さん、風邪を引いて余り調子が良くないみたいなので……、今日はもう帰りますね」

 ゆきは携帯しているマスクをして、帰り支度をする。

 小松は切れるようなクールな眼差しをゆきに向けると、綺麗な手のひらを額にしっかりとあてがった。

「風邪?どれ?」

 こうして、ほんのりと冷たい小松の手のひらを額にあてられると、ひんやりしていて、とても気持ちが良い。

 ゆきは思わず目を閉じた。

「……帯刀さんの手のひら、とても気持ちが良いです……」

 ゆきはいつまでもこうしていて欲しいと思わずにはいられない。

「……熱があるね。私の冷たい手が気持ちが良いだなんて、君はどうかしているよ」

 小松は呆れるように呟くと、ゆきの額から手をそっと離した。

 とても気持ちが良かったから、ゆきは何だか残念な気持ちになってしまう。

「どうして言わなかったの?結構、熱は高いよね?」

 小松は厳しい声で言うと、ゆきを軽く睨み付けた。

 厳しい眼差しを向けられてしまうと、ゆきはしょんぼりとしてしまう。

 言わなかった理由はたった一つしかない。

 小松と一緒にいたい。

 ただ、それだけなのだ。

 恋する女の子は、少しでも長く大好きなひとと一緒にいたいものなのだから。

「……帯刀さんと一緒にいたかったんです。ただ、それだけなんです……」

 小松相手に嘘を吐くことなんて出来ないから、ゆきは正直に言った。

「……だったら、ついでに一緒にいると良いよ」

 小松は冷たく言うと、立ち上がる。

「ここにいなさい。直ぐに戻ってくるから」

 小松はそう言って、和室に入ってゆく。

 じっと待っていると、気分が悪くなってしまう。

 額が熱い。

 頭がぼんやりとして、くらくらした。

 小松は和室から出てくると、直ぐにゆきの様子を見る。

「風邪薬は飲んだ方が良いね。待って、直ぐに準備するから」

「ありがとうございます……」

 薬を飲めば、少しは体調の悪さを緩和することが出来るだろう。

 ゆきは素直に薬を飲むことにした。

 ゆきが飲んだのを確認したあと、小松はいきなり抱き上げてきた。

 これにはゆきも驚いてしまい、つい目を見開いて小松を見つめてしまう。

「た、帯刀さんっ!?」

「少し休んでから帰りなさい。布団を和室に敷いたから、ゆっくりと横になって。薬を飲んだあとは、少し眠った方が良いからね。後で責任を持って送るから」

「はい」

 ゆきもそうしたほうが良いと判断し、素直に頷いた。

 小松は和室に連れていってくれ、コートなどを脱がしてくれた。

 布団のなかに入ると、ゆきはほっとした。

 事前に布団を温めていてくれたからか、とても気持ちが良い。

 枕元には、ちゃんとスポーツドリンクを用意してくれている。

 本当に有り難い。

 気持ちが良くて、このままうとうととしてしまいそうだ。

「……ゆっくり休みなさい。眠りたいだけ、眠っても構わないから……」

「ありがとうございます……」

 今は、眠ることに集中しようと思う。

 小松がこうしてのんびりとゆっくり出来るように、してくれたのだから。

「ゆっくり休みなさい。眠るだけ眠ると良いから……」

「……はい」

「よし、良い子だ」

 小松はゆきの頭を柔らかく撫でてくれる。魔法の塊なのではないかと、思わずにはいられない。

 とても心地が良くて、ゆきはそのまま目を閉じた。

 ゆっくりと眠れそうだ。

 ゆきはそのまま深く目を閉じた。

 

 ゆきの寝息を確認して、小松はホッと息を吐く。

「……本当に、君は手間がかかる恋人だよ……」

 熱のせいかほわほわとしているゆきの顔を、小松はそっと撫でる。

 誰にも見せられないぐらいに、甘い顔をしていると、小松は思っている。

 こんな顔をするのは、ゆきに対してだけだ。

 他の誰に対しても出来ない。

 それは、小松が誰よりも解っている。

 ゆきはかなり辛そうだ。

 ただ、小松と一緒にいたい。

 それだけでこうしてずっと一緒にいてくれた。

 それが嬉しい。

 風邪を引いているから無理をするなと、本来ならば怒らなければならないところだが、何故か甘やかせてしまうのは、それだけゆきを愛しているからだろう。

 小松は愛しさが込み上げてくるのを感じながら、ゆきの頬をもう一度撫でた。

 このままゆきを看病したい。

 小松はゆきの瞼にキスをした後、電話をしに、リビングへと向かう。

 ゆきの調子が悪いから、このまま泊まらせると伝えるのだ。

 それに、ゆき自身も移動は大変だろう。

 小松は電話を取ると、ゆきの家に電話をかけた。

 

 ゆきはとても気持ちが良い眠りを貪っていた。

 ほわほわと、とても幸せな気分だ。

 このまま目覚めたくないと思いながら、躰が怠くて目が覚めた。

 ふと、そばで、小松が仕事の書類に目を通しているのが見えた。

「……帯刀さん……」

「目が覚めた?お母さんには連絡をしておいたから、今夜は泊まってゆきなさい。ゆっくりと養生すると良い」

「……ありがとうございます」

 ゆきはホッとした。

 この怠さで家に戻るのは、とてもキツイと思っていたからだ。

 両親は、小松をとても信頼しているから、問題はないと思ったのだろう。

 ゆきが調子が悪いのは解っていただろうから、それを思ったこともあるのだろう。

 ゆきはホッとした気持ちを抱きながら、小松を真っ直ぐ見た。

「……ゆき、私のパジャマの上を用意するから、それを着なさい。締め付けないほうが良いでしょ?」

「ありがとうございます。助かります……」

 パジャマの上だけを着るなんて、なんともロマンティックな展開だと、ゆきは思わずにはいられない。

「ここに置いておくから」

「はい」

 小松はパジャマの上をゆきの前に置くと、和室から一旦、出ていった。

 ゆきは直ぐにパジャマの上に着替えて、布団の中に入った。

 さきほどよりも少しサッパリしていて気持ちが良い。

 暫くして、小松が布団を持って、和室にやってきた。

 ゆきの横に、もう一組の寝具を置く。

「私がここにいたら、君の看病がしっかりと出来るからね」

「……ありがとうございます」

 小松が横で眠る。

 それだけでゆきは、安堵とときめきを同時に感じた。

「私がそばにいるから、気分が優れないようならば、直ぐに言いなさい」

「はい」

「よし、良い子だ」

 小松はフッと微笑むと、ゆきの頭をまたくしゃりと撫でてくれた。

 ゆきは二度眠りに落ちる。

 とても幸せだった。

 

 ゆきは夜中に喉がからからになるのを感じて目を開けた。

 すると、手をしっかりと握られていた。

 それが何よりも幸せで嬉しい。

 ゆきは小松のお陰で直ぐに治ると確信し、喉を潤した後、二度眠りに眠りに落ちた。




マエ