朝編
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本当に心地が良い眠りだった。 ゆきは、とても良い気分で目覚める。 何だか手がとても優しくて温かい。 この温もりのお陰で、安心して眠れたのだと、ゆきは思った。 目が慣れてくると、まだまだ真夜中で暗いことに気付いた。 優しい温もりに導かれるように、そっと自分の真横を見つめた。 すると、小松が同じように布団を敷いて、眠っているのが見えた。 しかもゆきを守るようにしっかりと手を握りしめていてくれている。 温かくて、なんて素晴らしいのだろうか。 小松はこうしてゆきを看病してくれていたのだろう。 小松には感謝と愛情がたっぷりと滲んでいて、ゆきは泣きそうになる。 ほんとうに幸せだと、心から思わずにはいられない。 「……ありがとうございます、帯刀さん……」 ゆきは、小松を起こさない程度の声で呟くと、笑顔になる。 本当に幸せだ。 恋人に愛されているのだというこを実感することが出来て、かなり幸せだ。 ゆきは自分からも小松の手を握りしめる。 風邪を引いて幸せだなんて、今までは思ったことなど、一度としてなかったというのに。 これは小松に看病してもらったからだ。 ほんの少しだけ、ゆきは病人で良かったなどと、不謹慎に思った。 もう一度、幸せな気持ちで眠りにつこう。 きっと目覚めは素晴らしいものになっているに違いない。 まだ熱いが、熱も下がっていることだろう。 小松天使が見守ってくれているから、きっと大丈夫。 ゆきはそう強く確信をした。 夜中にゆきの様子が気になってしまい、小松は目が覚めた。 やはり、風邪とはいえど、万病のもとだ。しかも、恋人が風邪にかかっているとなると、心配はどんどん膨らんでゆく。 小松は握りしめていた手を一旦外す。 「……ん……」 眠るゆきは、手を離されたことが余程不満なのか、甘い抗議の声を上げる。 可愛らしいゆきらしい声だ。 自分を必要としている声が嬉しくて、小松は思わずくすりと笑ってしまった。 本当に香穂子は可愛らしい。 可愛くて、愛しくてしょうがないと、小松は思わずにはいられない。 小松は、ゆきを起こさないように、そっと躰を起こして、額に手のひらを宛がう。 まだ少し熱い。 熱は完全には下がってはいないようだった。 「……さっきよりはましだけれど、明日は一日寝ていなければならないね、これは……」 後一日。 ゆきの看病することを許して欲しいと思う。 これは恋人だけに許される甘い特権なのだから。 小松はゆきの様子を見つめる。 熱は順調に下がってはいるようだが、それでも心配には違いない。 「……寒い……」 ゆきは寝言を言いながら、寝返りを打っている。 まるで小さな子供みたいで可愛らしい。 「……しょうがないね。私の君は……」 小松は、ゆきの布団の中に素早く潜り込むと、腕の中にゆきの柔らかくて華奢な躰を閉じ込める。 こうして抱き締めていて幸せなのは、きっと自分の方だろうと、小松は思う。 「……これで温かいでしょ?」 小松はクールに囁いた後、それとは真逆に熱く抱き締めた。 「……ん……」 ゆきは満足しているかのように溜め息を吐くと、そのまま無意識で小松を抱き締める。 「……全く、君はしょうがない子だね……」 小松は呆れたように呟きながらも、幸せで、ギュッとゆきを抱き締める。 こうしていると小松までも暖かくなる。 とても気持ちがよくて素晴らしい気分になる。 愛しさが込み上げてくる。 「……ゆき、おやすみ。愛しているよ……」 小松は低くとっておきに甘い声で囁くと、そのまま目を閉じた。 とても心地が良い温もりに包まれて、ゆきは幸せな気持ちで微睡んでいた。 このままずっと眠っていたい。 そんなことをぼんやりと思ってしまう。 ふいに額に冷たくて気持ちが良い、やさしい感覚を覚えた。 導かれるようにゆっくりと目を開けた。 すると既に朝になっており、ゆきは目を見開いた。 本当によく寝た。 ふと隣を見ると、小松の寝具は既に片付けられている。 ゆきは、何だかほのぼのとした気持ちになった。 とても素敵な気分だ。 ふと布団の中にゆきとは違う温もりが残っていることに、気付いた。 直ぐに分かる。 小松だ。 小松がゆきを抱き締めて、温めてくれていたのだ。 幸せな気持ちがほわほわと心に広がり、ゆきは思わず微笑んだ。 そっと襖戸が開く音がして、ゆきが起き上がると、様子を見に来てくれた小松と目が合った。 「起きていたの?」 「……はい」 「……そ。熱はどうなの?」 小松は手のひらをゆきの額に柔らかく宛がう。 ひんやりとしていて、とても気持ちが良かった。 「……まだ熱はあるね。お粥を食べて、くすりを飲んで寝ていなさい」 「はい……。帯刀さん、色々とありがとうございます」 「今はしっかりと治すことだけを考えなさい」 「ありがとうございます」 ゆきは、小松が恋人で本当に良かったと心から思う。 小松は、直ぐに土鍋に入った、熱々の卵がゆを持ってきてくれる。 普段、料理などしない小松だから、本当に一所懸命に頑張って作ってくれたのだと思うと、嬉しくなってしまった。 「ありがとうございます」 「私が作ったから、味は保証しないけれど」 しらりと言う小松が可愛くて、ゆきは思わずくすりと笑った。 そっと卵粥を食べる。 ほかほかと温かくて、本当に美味しい。 とろとろだ。 「美味しいです」 「それは良かった。しっかりと食べて、薬を飲んで寝ていなさい」 「はい」 こんなに優しく看病されたら、もっと風邪でいたくなる。 だが、それがワガママなことなのは、ゆきには充分に解っていた。 食べ終わると、小松はテキパキと片付けをしてくれる。 何だかお姫様にでもなった気持ちだ。 片付けの後、小松は様子を見にきてくれた。 「何だか、お姫様にでもなったような気分です」 「お姫様でしょ?君は実際に私の」 さらりと物凄い甘いことを言われると、ゆきはドキドキしてしまい、顔を真っ赤にさせた。 「さ、薬も飲んだし、もう一眠りしなさい」 「……ありがとうございます」 布団に横になると、小松はゆきの手をしっかりと握り締めてくれる。 「帯刀さん、お仕事は?」 「今はノマドの時代。うちで出来るよ」 「だったら、もう少しだけそばにいて下さい……」 ゆきはつい甘えてしまう。 「しょうがない子だね。君の願いだから叶えるけれど」 「ありがとうございます。帯刀さんが何よりもの特効薬ですよ」 「そ。だったら良いけど。そばにいてあげるから、風邪なんてさっさと治しなさい」 「……はい」 目を閉じる。 ゆきは次目覚めた時には、きっと風邪なんて何処かにいっていると、感じずにはいられなかった。 |