*記念日*

後編


 小松はちゃんと覚えてくれていた。それが嬉しくてしょうがない。

 ゆきは心が熱くなり、思わず瞳の奥に涙を浮かべてしまった。

 なんて素敵で情熱的な感情なのだろうかと、ゆきは思った。

 小松はちゃんとゆきがどうすれば喜ぶかを解ってくれているのだ。

 それは本当に嬉しくて、ゆきは瞳に大粒の涙を沢山浮かべたり

「驚いた?」

「驚きました。だけどとても嬉しいです。有り難うございます、帯刀さん……」

 ゆきは感激をする余りに声を震わせてしまう。それほどまでに、小松のサプライズが嬉しくて、嬉しくて、しょうがなかった。

「私が君との記念日を忘れるはずがないでしょ?誰よりも君のことは解っているつもりだけれど」

 小松らしい言い回しに、ゆきはつい泣き笑いの表情を浮かべてしまう。それぐらいに、小松のプレゼントのような最高のサプライズが嬉しかった。

 本当に大好きだ。

 何度好きだと言っても足りないかもしれない。

 それぐらい小松を愛していると、ゆきは感じた。

 このひとと一緒になれて良かったと、ゆきはつくづく思った。

「有り難う、帯刀さん……」

 きっと何度、「有り難う」と言っても足りない。

「今日はふたりでゆっくりとお祝いをしよう」

「有り難うございます。嬉しいです。素敵な婚約記念日になりました」

「そうだね。君に求婚してもう一年か……。早いものだね。この一年は私にとっては、とても充実していたからね」

「私もです」

 小松と結婚してから、こんなにも幸せな時間は他にはないと思うほどに充実した素晴らしい時間だった。

 こんなにも幸せな人生をくれた神様に、何度感謝してもしきれないと、ゆきは思う。

 シャンパンが運ばれてくる。

 スパークリングを見つめると、お祝いをして貰っているような気持ちになる。

「じゃあ乾杯しようか」

「はい」

 婚約記念日に。

 かけがえのない、この瞬間に。

 ゆきは小松とグラスを重ねた。

 夜景を見ながらの食事は、ロマンスと美味しさを充実させてくれる、幸せなものだった。

 ふたりでかけがえのない時間を重ねることが、何よりものプレゼントになると、ゆきは思った。

「騙し討ちのようで、申し訳なかったけれどね。君に楽しんで貰いたかっただけだから」

「有り難うございます。楽しいサプライズでしたよ」

「それは良かった」

 食事を楽しんだり、テーブルの下で手を繋いだり、温かな瞬間を重ねた。

 小松と夜景を見ながら食事が出来る。

 幸せ過ぎて、ゆきはずっと笑っていた。

「こんなに素敵な時間をどうも有り難うございます。本当に幸せで、嬉しいです」

「それは良かった。君に喜んで貰えるのが、私には一番だからね」

 小松の言葉に、ゆきもついつい笑顔になった。

 コースの最後は、デザートとコーヒー。

 デザートもコーヒーも、とびきり美味しいものであるのに、ゆきは切ない気分になる。

 やはり始まりがあれば、終わりもある。この時間が泡沫のように消えてしまうことが、ゆきにとっては何よりも切なくて苦しいことだった。

「どうしたの? 急に食欲がおちたみたいだけれど」

「……素敵な時間もおしまいだと思うと、とても寂しくて……」

 ゆきが素直にしょんぼりしながら言うと、小松は落ち着いた甘い笑みを浮かべた。

「ゆき、楽しい時間はこれからだよ」

 小松が恭しく手をしっかりと握り締めてくれた。その手はとても温かくて、ゆきは思わず握り返す。

「デザートが済んだら移動しようか。部屋を取っている」

「はい」

「今日は特別な日だからね」

「はい」

 プロポーズを受けて、婚約をした日も、ゆきにとってはスペシャルな日であったが、今夜もまたそれに優らずに劣らない日になった。

 素晴らしい日になった。記念日には相応しい日だ。

 次に素敵な瞬間があると分かると、ゆきは俄然、元気になった。

 デザートもコーヒーも、とびきりに美味しく感じる。美味しさというのは、やはり自分の感覚に影響するのだと、ゆきはあらためて感じた。

 食事の後、小松はゆきの手を引いて、夜景が美しい部屋に誘ってくれる。

 美しくて素晴らしい部屋だった。

 海辺の夜景が一望できて素晴らしい。

 もうここには、小松と自分しかいない。

 ゆきは小さな女の子のように、ついつい騒いでしまう。

「素敵な眺めですよ! 帯刀さんっ!」

「それは良かった」

 小松は落ち着いた艶やかな声を滲ませながら呟いてくる。

「帯刀さんも一緒に外を見ましょうよ!」

「そうしようかな」

 小松の声は、いつもよりも艶を増した声で囁くと、ゆきを背後から抱き締めてきた。

「た、帯刀さん……」

 首筋に唇を押し当てられて、ゆきは背筋に甘い旋律を感じずにはいられない。

 しっかりと引き寄せられるように抱き締められて、ゆきは身体を震わせる。

 抱き締められながら夜景を見つめると、官能的なロマンティックが吸い上がる。

「綺麗だね……」

 小松は艶やかに微笑みながら呟くと、ゆきのボディラインを意味ありげに撫でた。

 息が甘く競り上がり、ゆきは思わず弾ませた。

「ゆき、明日は休日だから、ふたりでゆっくりとしようか……」

「はい。有り難うございます」

 ゆきがお礼を言った瞬間に、小松はまた官能的に身体をまさぐってきた。

 こうなると、既に夜景を見るどころではなくなってしまう。

 ゆきは、小松に身体を支えてもらえないと、上手く立てなかった。

「……ゆき、愛しているよ……。これからもこのような時間を持とう」

「はい。私も帯刀さんのことを愛しています。ずっとふたりで、温かな時間を持ちましょう」

 ふたりで笑顔で微笑みあう。

 こんなに満たされた時間は他にはないと、ゆきは思う。

 いいや、いつも満たされている。

 小松との時間は、いつも素晴らしく、そして充実していると、ゆきは思う。

「……沢山想い出を重ねて、ふたりで毎日を記念日にして行こう」

 小松の言葉は、幸せが充ち溢れている。

 毎日が記念日だなんて、なんて素敵な言葉なのだろうかと、ゆきは思う。

 小松と何度も唇を重ねた後、ベッドへと向かう。

 また、素敵な記念日が出来た。

 ロマンティックな夜は、ふたりだけの記念日に相応しい、温かくて幸せなものだった。

 

 愛し合った後、ふたりはお互いを見つめあい、確認するように抱き合い、そして微笑みあう。

 ずっとこうしていられる。

 それが確認できる記念日になった。


マエ モドル