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小松が忙しくなる前に、旅行を無理矢理スケジュールに入れたのだ。 ゆきはずっと楽しみにしていた旅であったから、小松が頑張ってくれたことを、心から感謝していた。 京都へは新幹線で向かい、東山の南禅寺にはタクシーで向かう。 南禅寺の紅葉が楽しみでしょうがない。小松と手を繋いで、紅葉の南禅寺界隈をゆっくりと散歩が出来ると想像するだけで、ゆきは嬉しかった。 一泊二日のほんの短い小旅行ではあるが、ゆきは小松と過ごせることが嬉しくてたまらなかった。 「一泊二日の旅だから、ガイドブックで調べた場所の総てを回れるわけではなないけれどね。君が楽しんでくれたら、私は構わないよ」 小松はあくまで、ゆきを優先に考えてくれている。 それが嬉しかった。 今回は東山に場所を絞って、紅葉狩りをする。 南禅寺といえば、やはり境内にある、水道橋だ。ここをのんびりと歩く。 「凄いロマンティックです。紅葉もきれいで最高です。帯刀さん、ありがとうございます」 目に鮮やかな紅葉を小松と見ると、更に素晴らしく見える。 愛するひとと手を繋いで紅葉を見ることが出来るなんて、このままこの場所にいたくなる。 「ふたりで歩いた祇園界隈にも足を伸ばす?」 「はい」 あちらの世界でふたりで回った京の町。この場所とは違うが、その雰囲気をずっと味わうことが出来るのは素晴らしい。 「枯れ葉は踏みしめないの?」 小松はからかうように言う。そこには、優しさと甘さが滲んでいる。 「帯刀さん、私のことを子供だと思っていませんか?」 「さあね」 ゆきが拗ねるように言うと、小松はただくすりと笑うだけだ。 ゆきは唇を尖らせると、つい誘惑に勝てずに、落葉を踏みしめ始めた。サクサクと音を立てるのがとても小気味が良くて、ゆきはつい笑顔になる。 「見事な落葉の絨毯ですね。寝転びたいぐらいです」 「流石にここでは止めておきなさい」 苦笑いをする小松に、ゆきは素直に頷いた。 紅葉の季節で観光地化している京都は、人が多くて、落ち着いて紅葉を楽しむことは上手く出来ない。 だが、これもひとつの味なのだと、ゆきは思った。 南禅寺から祇園方面に向かう。 ここでの人の多さは閉口しそうだ。 だが、小松とふたりで一旦、路地に入ると、静かになった。 「このあたりだったら、静かかな」 「そうですね」 ふと、ふたりの横を、綺麗に着飾った、芸妓や舞妓が通りすぎる。 和の美しさを体現している。 とても綺麗だ。 「綺麗ですね、舞妓さんや芸妓さんは」 「確かに華だね。愛でられるためにある」 小松はあっさりと認める。それがゆきには余り面白くはなかった。 「帯刀さんは、ああいう綺麗なひとが好きなんですか?」 拗ねるように言っても、小松には全く効かないことは分かっている。むしろ、小松には、逆効果になる。 「華を愛でるのは嫌いではないけれどね」 小松はくすりと笑い、ゆきを挑発するように見つめた。 その眼差しにムッとして、ゆきは先に歩き始めた。 小松の思うつぼなのは分かっているが、何だか悔しくてたまらなかった。 「だったら、愛でてあげて下さい!」 「全く……」 小松が呆れるように呟いている。 小松はゆきを追いかけるようなことはせず、先程と同じペースで歩いている。 余裕があるから悔しい。 どうしてこんなにも余裕があるんだろうか。ゆきなんて、全く余裕はないというのに。 益々悔しかった。 いつまで経っても小松は追いついてこない。 ゆきが大したことではないのに嫉妬をしてしまったから、小松は呆れているのだろう。 呆れられるとほんのりと辛かった。 余りにしょんぼりしてぼんやりとしていたから、落葉に足を取られて、躓いた。 バランスを崩してしまい。ゆきはそのまま転びそうになる。 「しょうがないね、君は」 小松が溜め息を吐きながら、ゆきの身体を上手く受け止めてくれた。 「有難うございます」 ゆきがほっとしながらお礼を言うと、小松はじっとその目を見た。 見つめられると、ドキドキしてしまう。息が出来ないぐらいにだ。 「全く、君からは目が離せないね。本当に見ていて面白いね。華では絶対に楽しめない。華は人形、これに対して君は生身の人間らしいものを持っているからね。君しか持っていない貴重はものだよ」 小松は微笑みながら、艶やかに見つめ、ゆきに顔を近づけてくる。 本当にズルい。 ゆきが顔を真っ赤にさせていると、小松はくすりと笑った。 「君は本当に可愛いね。紅葉よりも紅くて可愛いかな」 小松にからかわれるように見つめれて、ゆきは更に恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。 高台寺と八坂の塔を見て、一日が終わってしまった。 宿は、人混みで騒がしかった昼間の光景とはうってかわり、とても静かだった。 部屋からは紅葉が見える。 京らしい繊細な料理を食べ、お風呂に入った後、ふたりは部屋から紅葉を見つめた。 とても落ち着いた美しさだ。 「昼間とは落差がありすぎますね」 ゆきが苦笑いを浮かべると、小松もそれには同意する。 「そうだね。確かに」 小松は苦笑いを浮かべながら、しっかりと頷いた。 本当に苦笑いを浮かべずにはいられない程の落差だ。 「ゆき、君もかなりの落差だと思うけれどね」 小松は笑うと、ゆきを背後からしっかりと抱き締めてきた。息が出来ないぐらいに強く抱き締められる。 「昼間とは違って、とても艶やかで大人の女性のようだね」 小松の透明で艶のある声で囁かれると、ゆきは背筋を震わせる。 こうしてふたりで紅葉を見ながら静かに過ごすのは、とても贅沢なことのように思えた。 ロマンティックでうっとりする。 だが、本当は、紅葉だとかは全く関係がないのかもしれない。 それはただのスパイスで、小松と二人きりならば、どのようなシーンでもロマンティックになるのだと、ゆきは思う。 「ゆき、そろそろ紅葉から私に夢中になるのを変えて欲しいんだけれど」 小松の言葉に、ゆきは微笑む。 「私はいつだって帯刀さんに夢中ですから……」 ゆきの言葉に、小松は笑顔で頷いた。 「私も君に夢中なのは間違いないけれどね」 小松は、ゆきを寝具へと誘う。 寒くなり始めた、京都の冬。 お互いに温め合うために、ふたりはしっかりと抱き合った。 |