*紅葉の季節*


 小松の会社の立地条件はかなり素晴らしくて、ビルの裏手には、並木道があり、ちょうど、枯葉の絨毯が見事に敷き詰められていた。

 見つめるだけで目の保養になると思わずにはいられないほどの、見事な美しい絨毯だった。

 路上の簡易パーキングに車を置いて、ふたりは並木道散歩を楽しむことにした。

 歩くだけでも、ロマンティックさがわき上がってくる。

 いつだって、どこだって、その気になれば、うっとりとするシーンはやってくる。

 小松と二人でしっかりと手を繋いで、枯れ葉を踏みしめて歩く。

 これだけで充分すぎるぐらいに幸せだ。

 映画に入り込んだような気分に、充分すぎるぐらいに浸ることが出来た。

「これで良かったの?」

「はい。とっても幸せです。満足ですよ。私は帯刀さんと、手を繋いで落ち葉の絨毯を踏みしめて歩きたかったんですよ。それだけで充分」

 枯れ葉を踏みしめると、サクサクと音が響く。

 これがまた素敵なBGMとなって、ゆきの心をよりロマンティックに変えてくれた。

 素敵すぎて、ゆきはつい、自分の世界に入り込んだ。

「ほら、帯刀さん、さく、さくって、とても良い音がさはますよ!」

 ゆきは幼い子供のように派手に音を立てながら、はしゃぐように歩いた。

「君は本当に面白い子だね。話を聞いているだけで、こちらがつい笑顔になってしまうね」

 小松は、ゆきを引き寄せてくる。

 ギュッと抱き締められて、ゆきは心が甘酸っぱくなるぐらいの幸せを感じていた。

 くすぐったいが、とても幸せだった。

「今日は私が休んでいたから、君をあまり楽しませることが出来なかったね。申し訳ない」

「充分に楽しかったですから、平気です。楽しいですよ」

「ふたりで紅葉でも見に行こうか?」

「え、本当に!?」

 小松と紅葉狩りに行けるなんて、うきうきするを通り過ぎて楽しい。ドキドキやわくわくも越えるぐらいに、楽しみになる。

 小松と美しい自然を堪能するという部分で意義があるのだと、ゆきは思った。

「最高の紅葉狩りになるように直ぐに手配をするよ」

「はい、有り難うございます」

 小松と紅葉狩りが出来るというだけで、ゆきは嬉しくて、楽しくてしょうがなかった。

 落ち葉の上のダンスに気合いが入ってしまう。つい、つい、小刻みに踏みしめてしまった。

「ゆき、それぐらいにしておいて、なにか食べに行こうか」

 小松は時計を見る。

「結構遅いね。お茶漬け専門店だとか、うどん屋あたりに行くしかないね。消化に悪いからね」

「確かにそうですね」

 小松と一緒にいられるのが嬉しくて、ゆきはついつい時間を忘れてしまっていた。改めて時間を確認して苦笑いをする。

「折角、久々に会ったのにこの体たらくはなんだろうね。本屋で紅葉特集の本を物色してから、お茶漬け専門店に行こうか」

「賛成です!」

「本当はもっと良い夕食にしようと思っていたんだけれどね」

 小松は申し訳なさそうに苦笑した。

「お気持ち受けとりましたから、大丈夫です」

 ゆきは笑顔で言いながら、枯れ葉を踏みしめる。踏みしめるだけで、素敵なダンスをしているような、気分になる。とっておきの素敵なことをしているような気分だ。

「向こうにいる時から、君は落ち葉を踏みしめるのが好きだったね」

 小松は楽しそうに言いながら、ゆきを見守ってくれている。

 向こうの世界に、ふたりが出逢った時空でも、このようにして見守ってくれていた。

 小松と手を繋いで、一緒に枯れ葉を踏みしめて歩くのが、最高のデートだった。

 あれほど素敵なデートは他にはないと、ゆきは思う。

 それをこうしてまた再現することが出来るのが、ゆきにはとても嬉しかった。

 やはり秋も深まっているのか、夜になるとかなり寒くなる。身体を小さくさせても足りないぐらいに寒い。

 風が更にきつく吹いてくる。

 ふと、小松に引き寄せられ、抱き締められた。

 背後から抱き締められたかと思うと、小松は楽しそうにみのむしのように、トレンチコートでゆきを包み込んだ。

 ほわほわとして温かい。

「とても温かいです」

 ゆきは小松がくれた温もりにうっとりとしながら、そのままじっとする。

「ほわほわとして、温かいです」

「私も温かいよ」

 お互いの温もりをシェアするとはいうのは、なんて素敵なのだろうかと、ゆきは思った。

「こんなことはしていられないね。さあ、行こうか」

「そうですね」

 寒い夜は、こうしてふたりで温もりをシェアしたいのが本音だが、流石に今はしょうがないと、ゆきは思った。

 小松の車を停めている、簡易パーキングに向かった。

 

「楽しかった?」

「楽しかったですよ。充分に帯刀さんを堪能しました」

 ゆきはシートベルトをしながら、小松に楽しく充実した気持ちで伝えた。

 車は近くのショッピングビルに向かう。

 そこで紅葉特集の本を物色してから、軽い夕食をとる。

 ごくごく普通の恋人たちのデート。

 このような日常を、愛する小松と一緒に過ごすことが出来るなんて、思ってもみなかった。

 このようなささやかな日常が、ゆきには幸せでたまらなかった。

 目ぼしい紅葉特集の本を買い、それを見ながら夕食をとる。

「京都に行きたいね。良い雰囲気だろうからね」

「行きたいです!」

 お互いに想いが重なり、つい笑顔になる。

 京都に行けば、京で過ごした時間を再現できるだろうか。

 そんなことを考えていた。

「では、今回は京都で決まりだね。すぐ手配をしよう」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。ちゃんと休みは取れる手はずだからね」

 小松のことだ。何とかしてくれるのだろう。

 無理はしないで欲しいと、ゆきは思わずにはいられなかった。

 だが、京都に紅葉を見に行くのは楽しみだ。

 ゆきはついつい小躍りしたくなるような気持ちになった。

 小松と小旅行をするのも初めてだ。それも嬉しかった。

 秋の京都で何が待ち構えているのかが、ゆきには楽しみで、楽しみでたまらない。秋の最高の思い出になるのは。間違いなかった。

「ゆき。今日はこのまま一緒にいようか」

 小松がふわりと手を握りしめてくる。その強さに、ゆきは頬を赤く染めながら頷いた。

 小松と共にいられる時間が、長ければ長いほど、ゆきには嬉しい。

 小松と過ごす秋の夜は、ロマンティックで温かく、素晴らしいものになるに違いないと、ゆきは感じていた。

 


 マエ モドル ツギ