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目が覚めると、小松が傍らにいて、抱きしめてくれていた。
小松はまだ眠っている。
無心になって目を閉じる小松の寝顔は、完璧なまでに美しい。
しかも、障子窓から柔らかく降り注ぐ陽射しが小松の顔を薄らと照らして、美しさを助長している。
ゆきはうっとりとしてしまい、小松をじっと見つめていた。
「目が覚めたの?」
目を閉じながら、小松が低く魅惑的に囁いてくる。
「----帯刀さん、起きたいたんですか?」
「君の可愛い寝顔を堪能させてもらったよ?」
くすりと笑われて、ゆきは恥ずかしくて顔を隠そうとする。だが、小松はそれを許してくれない。
「ほら、ゆき、顔なんか隠さないの」
「……だって、私のほうが先に起きたと思っていたのに、帯刀さんのほうが先に起きていたなんて」
「君の可愛い寝顔を堪能することを私が見逃すはずはないでしょ?」
小松はゆきをわざとギュッと抱き締めた後、唇に触れるだけのキスをくれた。触れるだけのキスは、なんて甘くて、幸せな暗示がするんだろうか。
「ゆき、改めて、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
ゆきは幸せな気持ちになりながら、頬を薔薇色に染めて、挨拶をした。
「ゆき、今年もずっと君と一緒にいられるのを嬉しく思うよ。宜しく」
「こちらこそ、ずっと帯刀さんと一緒にいられることを嬉しいです。ずっと宜しくお願い致します」
ふたりはもう一度キスをすると、お互いに笑顔を交わし合った。
小松はゆきを抱きしめながら、ふと時計を見る。
「もう9時近いんだね……。しょうがないか。新年からしっかりと君を愛したからね」
小松は相変わらずテレなどなく呟いている。
ゆきは恥ずかしくて、小松と上手く目を合わせられない。
確かに昨夜はしっかりと愛されて、幸せな年の始まりを過ごした。思い出すだけで、ゆきは恥ずかしくて堪らなくなる。
「君はいつまで経っても初々しいままだよね。もう、こうしてふたりで一緒に夜を過ごすようになってから、結構経つのにね」
「恥ずかしいのは恥ずかしいです」
「私だけでしょ? だからそんなに恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。君を誰よりも知っている私だけなんだから」
「……そうなんですけれど……」
この恥ずかしさを小松はきっと解ってはくれない。
大好きだけれども、愛して止まないひとだけれども、何もかも知ってくれているひとだけれども、やはり、恥ずかしい。
「ゆき、今夜もまた一緒に過ごすのだからね。そろそろ慣れて貰わないとね。君は私の妻になるんでしょ」
小松はさらりと何でもないことのように言うが、ゆきは胸が苦しくなるぐらいにドキドキしてしまうほどにときめいてしまう。
真っ赤になって息が出来ないぐらいのときめきに、瞳を潤ませて小松を見つめていると、不意に額にキスを受けた。
「私と一緒になったら、これが日常茶飯事になるよ」
「はい」
嬉し恥ずかしの瞬間を思い浮かべて、ゆきは余計に恥ずかしくなった。
恥ずかしいけれども、嬉しい。こんな感覚は小松しか感じさせてくれない、特別なものだ。
「さてと、君とずっとこうしていたいけれど、お正月の行事はちゃんとしたほうが良いからね。お雑煮とお節料理を食べたら、神社にお参りに行こうか。こういったことは大切にしないといけないからね」
「はい」
ゆきとしてもこのままでいたいが、ここはしょうがない。
ふたりは起き上がると、お正月の支度を始めた。
ゆきは簡単に着ることが出来る着物を持ってきたので、それを着る。
小松はといえば、素早く着物に着替えて、堂々とした男らしい姿をゆきに見せてくれている。
うっとりするぐらいに素晴らしい。余りに熱っぽく見つめてしまったからか、小松がゆきを怪訝のそうに見つめた。
「どうしたの?」
「帯刀さんはやっぱり素敵だなと、和装がお似合いだなあっと思っていたんですよ」
「やはり女性は和装が似合うと私も思うよ」
小松はゆきに柔らかく微笑みかけると、頬を優しく撫でてくれる。小松がさり気なく褒めてくれるから、和装をして良かったと、ゆきはつづく思った。
お節料理はゆきの母親が用意してくれたもの、そしてお雑煮は見よう見まねでゆきが作る。薩摩伝統の干し海老を探して、それを雑煮の中に入れる。小松に少しでも喜んでもらいたかった。
お節料理を食卓に並べて、お雑煮を出すと、小松はフッと幸せそうにどこか懐かしそうに微笑む。
「……懐かしいね、この雑煮。有難う、ゆき」
小松が優しい笑みを浮かべてくれるだけで、ゆきは幸せな気持ちになれた。
薩摩風の雑煮をずっと用意したいと思っていたから、それが叶って嬉しいと思う。
静かに正月の食卓を愛する人と囲みながら、ゆきはずっとこのような時間が重ねていけたら良いのにと、思わずにはいられなかった。
お正月特有の儀式的な食事が終わった後、ゆきは、小松とふたりで初詣に出かけた。
「初詣って混むんだね」
「そうですね。だけど、これがお正月の醍醐味にも思えますよ」
「確かにね」
小松は納得したように頷くと、ゆきの手をしっかりと握りしめてくれた。
「ゆき、私の手を離さないようにね。はぐれてしまうと後後困ってしまうことになるからね」
「はい」
小松はゆきを守るようにしっかりと手を握り締めてくれる。その力強さに、ゆきは愛されていること守られていることを深く感じずにはいられなかった。
氏神様にふたりで参拝をする。
手を清めた後、いよいよ、小松とゆきの番になる。
ゆきはお正月らしい張り詰めた清らかな気持ちで、神様に手を合わせる。
日ごろの感謝と、小松とずっと一緒にいられることを祈って。
本当に大好きなひとと一緒にいたい。
許される限り、ずっと、ずっと、いたいと、神様に純粋に願った。
お祈りが終わりゆきが目を開けると、小松がフッと微笑んだ。
「終わった?」
「はい」
「随分と熱心に祈っていたようだけれど?」
「願い事は秘密ですよ」
ゆきがもったいぶったように言うと、小松は眉を少しだけ上げる。
「帯刀さんは?」
「私? 私も秘密だよ。当然。まあ、私は神に祈るなんて非合理なことは、君と一緒でないとしないけれどね」
小松はさらりと言うと、ゆきの手をもう一度しっかりと握りしめてくれる。
「さあ、行こうか。神に愛される運命の君だから、きっと叶うね」
「叶うと良いです」
ゆきは素直に笑顔で言うと、頷いた。
叶うと良い----
隣にいる誰よりも愛するひとと一緒にいられたら、これ以上に幸せなことはないと、ゆきは思わずにはいられなかった。
来年もずっと、一緒に----
ゆきは必ず願いはかなうと信じて、小松と共に神社を後にした。
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