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お正月は大好きなひとと過ごしたい。 寒い時期であるのは勿論だが、新しい年と時間を大好きなひとと過ごしたい。 同じ新しさを共有することで、より暖かな関係になれそうだから。 それに、大好きなひとと一緒に、年始めを過ごす。 これ以上に幸先の良いスタートはないだろうから。 お正月の朝はのんびりとしたい。 だが、それも叶わない。 小松は、お正月は厳かな日であると、いつも以上に引き締まった時間を過ごすから。 昨日は寝るのが遅くなってしまったから、ゆきはかなり眠い。 本当に眠くてしょうがないのだが、あいにく小松は、ピシッとした時間を過ごしていた。 ゆきもそれに従う。 小松と結婚したら、今以上にお正月は大変だろうから、今から慣れておきたいということもあった。 ゆきは朝から動きやすい着物に着替える。せめて、お正月だけでも、着物を着たかった。 小松は勿論着物だ。 スッキリとしていて、本当によく似合っている。 ゆきは、小松の落ち着いた着物姿が大好きで、ついつい見惚れてしまった。 ゆきは、朝から、ダイニングテーブルについて、小松を待つ。 朝のお雑煮は、小松が作ってくれるのだ。 小松が作ってくれるのは嬉しいが、どこか落ち着かない。 やはり、いつもはゆきがキッチンに立っていることが、多いからだろう。 だが、小松は流石に器用で、テキパキと雑煮を作っている。 ゆきが出る幕なんて、無いほどの腕前である。 何だか拗ねるような気持ちにもなった。 ゆきは、おせちを詰めたお重をテーブルに準備したり、小皿や箸を準備する。 すると小松が、雑煮を持って来てくれた。 「どうぞ、ゆき」 「有り難うございます」 「お屠蘇は夜かな。初詣に行くからね」 「はい」 ふたりはお互いの顔を合わせる。 こうして、ふたりで元気な顔を合わせることが出来るのが、ゆきは何よりも幸せだった。 「明けましておめでとう、ゆき。今年も、これからもずっとよろしく」 「明けましておめでとうございます、帯刀さん。今年もこれからもずっとよろしくお願いします」 ふたりは挨拶をしたあと、温かく微笑んだ。 お正月の一番の楽しみは、やはり雑煮であり、おせち料理である。 小松の作ってくれた雑煮を食べるのが、ゆきは楽しみでしょうがない。 「いただきます」 小松が作ってくれた雑煮のだしはとても美味しくて、それこそお代わりを何度もしたくなる。それぐらいに美味しかった。 「帯刀さん、美味しいです」 「それは良かった」 小松は薄く笑いながら、ほんのりと喜んでくれている。ゆきは本当に美味しいと思い、ついお代わりを熱望する。 「本当に美味しいです。おかわりしたい」 「余り食べ過ぎると、動けなくなるから、ほどほどにしておきなさい。それに、今夜はゆっくり夕食も食べようと思っているからね」 「はい」 ここは小松に従ったほうが良いと思い、おかわりは断念した。 「食べたら初詣に行くよ。余り混んでいないところにするよ」 「はい」 「うちの会社の近くに小さな神社があるけれど、そこにしようかと思っている。君もそれで構わないよね」 「はい」 小松とふたりで初詣が出来る。それだけで良いのだ。ふたりでお願いが出来ればそれで良いのだ。 正月のあさげの後、ふたりは初詣に出かけた。 朝の空気がとても気持ちが良くて、思わず深呼吸する。 「さ、行くよ。ゆき」 小松が車を出してくれ、神社に向かう。 和服の男性が車を運転する姿を見ると、それだけでとても魅力的だった。 ついうっとりと見つめてしまう。 小松が和服で運転する姿は、本当によく似合っていた。 ゆきはついうっとりと見つめてしまう。 「どうしたの?さっきからこちらばかりを見て」 「あ、あの、和服の男性が車を運転する姿は素敵だと思って、ついつい見惚れていました」 ゆきは恥ずかしかったが、素直に呟いた。 「和服の男なら誰でも良いのかな?」 小松は少し意地悪にわざと言う。 「勿論、帯刀さんだからです」 「よろしい」 小松はフッと甘く笑うと、ゆきの頬を冷たい指先でそっとなぞった。背中がゾクリとする快感に、ゆきは甘い戦慄を呼吸した。 車を、会社の駐車場に停めた後、小松と手を繋いで神社へと歩く。 こうしてのんびりと歩くのも、お正月ならではだ。 空気が冷たく張りつめて澄みわたっている。この空気を吸っているだけで、全身が清らかになった。 神社は、ビジネス街にあるからか、かなりの穴場スポットのようだった。 流石に、正月だからひとは多いのだが、それでもこみ合っている他の神社よりは、ずっとひとは少なかった。 この一年、上手くいきますように。 神様にしっかりとお願いをする日。 愛する小松と一緒にいられるのが、ゆきは何よりも嬉しい。 甘くて華やかな気持ちで、ゆきは、今、願いを神様に伝えられるのが嬉しい。 小松と一緒に祈る。 神様に感謝しながら、静かに祈る。 ふたりでいつまでも一緒にいられたら、こんなに素敵なことはない。 強く、深く、ゆきは祈った。 「願い事、しっかりと伝えられたかな?」 「はい。帯刀さんは?」 「勿論」 ふたりはお互いに何を願ったのかを互いに分かり合える。だから、あえて訊かなかった。 お参りのあとは、やはり恒例のおみくじだ。 「私は小吉でしたよ。帯刀さんは?」 「私?こういうのは、当たるも八卦、当たらぬも八卦でしょ」 小松がかなり冷たく言い放つものだから、ゆきは大凶のような珍しいものでも引いたのかと思った。 だが、小松が引いたのは大吉で、それで喜ぶこともなく、クールに枝にくくりつけていた。 初詣の神社と言えば、やはり、屋台が気になる。 リンゴ飴、わたがし、ベビーカステラ、たこやき。 ゆきは目移りする。 「リンゴ飴が君には一番似合うと思うけれど?」 「帯刀さんってひどい。そんなに子供ではありません」 明るく拗ねながら、ゆきは結局は、リンゴ飴を買ってもらった。 楽しい初詣も終わり、自宅へと戻る。 「何だかとても平凡なお正月だったね」 小松は苦笑いを浮かべる。 確かにドラマティックではないかもしれない。 あちらの世界にいた頃のようなものはない。 だが、ゆきはこれで良いと思っていた。 「これが幸せなんです。帯刀さんと一緒にお正月を過ごして、季節のものを食べて、こうして初詣をするのが」 「ゆき……」 小松は甘く微笑む。 「本当にそうだね」 年の始め、ふたりが一緒にいることが一番大切なことだと、お互いに強く思った。 |