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今年最後の日は愛する人と過ごしたい。 それは恋する乙女の切なる願いだ。 年が変わる瞬間、一緒にいたいのは、誰もが思うことなのだ。 ゆきも強く思う乙女なのだ。 相手が年上だからそう思うのかもしれない。 カウントダウンイベントに顔を出すのも良いし、二年参りに行くのも良い。 楽しくて賑やかなのも良いが、それではふたりきりのロマンティックは堪能できない。 ロマンティック溢れる年越しにするのなら、やはりふたりで静かに大晦日を過ごすのが一番良いと思う。 派手さはないが、だがふたりしか知らないとっておきの想い出を作ることが出来るのだ。 だから今年は愛する人とロマンスに溢れたクリスマスを過ごしたい。 ロマンティックに、そして静かに。最高の大晦日を愛する人と迎えたい。 そばを食べて静かに迎えるのも良い。 少し背伸びをして、スパークリングワインを飲みながら過ごすのも良い。 ロマンスが溢れたら、それだけで幸せな気分になれるから。 愛する人とふたりきりでいられたら、もう他には何も要らない。 これが最高の大晦日だと思う。 小松の本格的な休みに入った昨日から、ゆきは小松家に押し掛けている。 いつも会えない分、ここでたっぷり、ふたりきりの時間を堪能するのだ。 小松は、日本独自の風流を楽しむから、昨日は餅つきをし、鏡餅を作った。 そして、今日は大晦日。 小松は静かに過ごしたいと望み、ゆきもそれには同意した。 年越しそばの下準備も、自分達で行う上、小ぶりではあるがおせち料理も作った。 いやがおうでもお正月気分が盛り上ってくる。 お正月用品の買い出しも楽しかった。 新鮮なものを求めて、人混みにも向かい、ゆきは小松と一緒に揉みくちゃになる。 「命が三つは必要な人混みだね」 小松のうんざりとした言葉に、ゆきもまた苦笑する。 「そうですね」 人混みで潰されそうなゆきのために、小松は精一杯守ってくれた。 これは本当に嬉しい。 こうして大好きなひとに守られる。 これも、人混みの醍醐味なのかもしれないと、ゆきは思った。 大晦日の夕方には総ての準備を終えて、のんびりとする。 ここまで総て仕切ったのは、勿論、小松で、てきぱきと自らも準備をしてくれた。 年神様をお迎えするのだからと、小松は色々と準備をする。小松の指示に従って、ゆきも準備をしたのだ。 そのせいか夕方にはくたくたになってしまった。 「しっかりとお正月の準備は、出来たでしょ。雑煮は私が作るよ。君にうちの味をしっかりと覚えて貰わないといけないからね」 小松の言葉に、ゆきはただ頷いた。 小松家の味。 それを覚える。 その意味は、深く考えなくとも解るからこそ、ゆきは心して覚えなければならないと、気合いを入れていた。 「明日も雑煮食べたり、初詣に行ったり、忙しいからね。流石にそれなりの時間で眠らないとね」 「はい」 小松と年末年始を過ごす。 親密さが増す時間の使い方に、ゆきはつい顔が緩んだ。 「さて、全部準備が終わったから、あとは新しい年を迎えるだけだね。疲れた?ゆき」 「いいえ。大丈夫ですよ。疲れていないです。それよりも楽しかった」 「それは良かった。勿論、私もとても楽しかったけれどね」 小松は満足そうに言うと、甘く目を細めた。 「こうして毎年、帯刀さんと一緒に大晦日を過ごしたいです」 「私もね。大晦日や正月はとっておきの日だからね」 小松はフッと笑うと、ゆきの頭を柔らかく撫でてくれた。 「やはり、大晦日はのんびりと過ごすのが、一番だね。夜通しのカウントダウンなんて、私には考えられないけれどね」 小松は溜め息を吐きながら、お茶をすすった。 静かな年末。 ふたりで何をするというわけではない。 ただ、静かに過ごしたい。ゆきにとっては、それだけだった。 ふたりでのんびりとして、お風呂にも入って、部屋着でのんびりするという、いつもの小松では考えられないことをするのも、また楽しかった。 深夜近くなり、年越しそばを準備する。 そばは流石に買ったのだが、天ぷらは自宅で揚げ、だしもちゃんと準備をした。 小松の家からは、流石に除夜の鐘は聴こえない。 そのため、静かに除夜の鐘が聴ける、テレビをつけた。 「そばはとても美味しいね」 「美味しいです」 そばを愛する人とふたりきりで食べることが、美味しく感じさせてくれるのだ。 「ふたりきりでこうしてそばを食べて過ごすのは、これからは難しくなるだろうね。賑やか過ぎるだろうからね。それそれで良い年越しなのかもしれないけれどね」 小松は苦笑いを浮かべながらも、何処か楽しんでいるように見えた。その瞳は本当に楽しそうに笑っている。 「それは、来年は、カウントダウンだとか、行くつもりだからですか?」 ゆきはきょろんとした目で、小首をかしげた。 「もうすぐ分かると思うから、楽しみにしていて。今、実感出来ないということは、まだ早いということなんだろうね」 小松はクスリと笑うと、ゆきの頬を円やかに撫でた。 子供扱いされたのが、ほんの少し癪に障るが、直ぐに分かるのであれば、ゆきはそれでも構わないと思う。 そばを美味しく頂くと、間もなく年が変わる。 ゆきは時計を見たあと、小松に微笑みかけた。 「帯刀さん、間もなくですね」 「そうだね」 ふたりは寄り添って、年が変わるのを待つ。 静まり返った透明の時間に、ゆきは心まで澄んで行くのを感じる。 『新年、明けましておめでとうございます』 テレビではアナウンサーが静かな華やかさをにじませた声で言う。 それとほぼ同時に、ゆきは小松に引き寄せられて、そのままキスを受ける。 甘くて深い今年初めてのキス。 キスが終わると、頭がぼんやりとした。 「……明けましておめでとう、ゆき」 「明けましておめでとうございます、帯刀さん」 ふたりは微笑みあってもう一度キスをする。 お互いにしっかりと抱き合って、何度もキスをした。 「……これからもずっと一緒にいよう……」 「はい、これからも、ずっと……」 ふたりは約束をするようにしっかりと抱き合うと、お互いの温もりを確かめあった。 最高の年始め。 これ以上のスタートはないよ。 今年は幸せが充ち溢れた年になる。 ふたりともそう思わずにはいられなかった。 希望に溢れた年になる。 そう確信する、深い時間だった。 |