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ゆきは、振袖を着付けて貰い、髪を結い上げて貰う。 ようやく世間に大人と認められる日だ。 これで小松と肩を並べていける。 ゆきはそれが嬉しい。 「まあ、ゆき。本当に綺麗ね。とても美しいわ!」 母親は、ゆきをうっとりと見つめてくれている。 なんだか照れてしまう。 だが、くすぐったい嬉しさもある。 「今日は帯刀さんが迎えに来るのよね。もう、あなたをお嫁に出したような気分よ。まあ、もうすぐそうなってしまうんだけれどね……」 母親はフッと柔く何処か寂しそうな笑みを浮かべる。 「……お母さん……」 ゆきもまた、母親の気持ちを感じとり、複雑な気持ちになった。 切ないほどに母親の気持ちが伝わり、今は感謝しかない。 「だけど本当に綺麗ね、ゆき。私たちも鼻が高いわよ。ね、都ちゃん」 母親と一緒に見守ってくれていた従姉妹の都も、うっとりと見つめてくれている。 「本当に、私が男だったら、ゆきを直ぐにでも嫁に貰っているよ。あんな嫌味なエリート男に、お前をあげないよ。そうさせないようにずっと阻止してきたつもりだったんだけれどね……」 「都ちゃんたら……」 母親がくすりと笑っている。 誰もが綺麗だと言ってくれている中、ゆきは愛するひとは同じように褒めてくれるのだろうかと、ドキドキした。 一番、この姿を見て貰いたいひとは、小松なのだから。 中庭で、家族全員で記念撮影をする。 こうしてみんなに祝って貰えて、ゆきは嬉しかった。 不意に門から呼鈴が聞こえる。 ゆきは思わず門まで駆け寄る。 すると予想通りに小松が車でやたてきてくれた。 「帯刀さん!直ぐに門を開けますね」 ゆきが操作をして門を開けると、小松のハイブリットカーが静かなに中に入ってきた。 小松は車を来客駐車スペースに停めると、静かに降りる。 今日のスーツ姿は益々素敵だと思わずにはいられなかった。 ゆきが小松に見とれていると、ゆっくりと近づいてくる。 「成人式、おめでとう。ゆき」 「小松さん……」 小松は、ゆきを見つめるなり、目をスッと眩しそうに細めた。 「……やはり君は和装が似合うね。着物姿の君が、一番素敵だと、私は思っているけれどね」 「有り難うございます、帯刀さん」 小松に誉められると。やはり気分が良くなる。 「まあ!小松さん、いらっしゃい!今、皆で記念撮影をしていたんですよ。是非、加わって下さい!」 母親は小松を記念撮影の輪に入れる。 小松も今年は正式に、ゆきたちと家族になるのだからと、一緒に撮影に入るようにと、促してくれた。 小松を含めて記念撮影をし、ゆき単独や、小松や両親と一緒にも撮った。勿論、ゆき一人でもだ。 撮影をギリギリに終えたあと、ゆきは小松や両親と一緒に成人式会場へと向かった。 両親と小松。 まるで人生の一番支えてくれる一番そばにいるひとが代わる、引き継ぎ式のようにも思えた。 会場に到着すると、ゆきは小松と両親に笑顔を向ける。 「いってきますね」 「はい」 人生において最もそばにいてくれる人々に、ゆきは笑顔を向けてから、会場に入る。 愛する人々に見守られて、ゆきは晴れの日を迎えられるのが、何よりも嬉しかった。 成人式に出席し、有り難い話を聞きながら、ゆきは二十歳になったと、ひしひしと実感する。 これからは、大人としてはずかしくない行動をしなければならないと思った。 式が終わり、両親は別の車で先に帰ってしまった。 ゆきは小松と一緒に、先ずは写真館に向かい、この姿を撮影して貰う。 「君にとっては、これが最後の振袖だからね。きちんと記録に残して貰っておこう」 「はい」 すでに小松とは春に結婚することになっている。 ゆきは、大学卒業してからでもと思っていたが、小松の希望もあり、成人式が終わった後直ぐにということになったのだ。 ゆきも、今はそのほうが良かったと、幸せに感じている。 小松とこうして幸せな時間を重ねることが、何よりも幸福だからだ。 自分だけの記念撮影と、ゆきは強く望んで小松との記念撮影をした。 いつか生まれてくるだろう、ふたりの子供が、大きくなった時に、見せてあげたいと思ったからだ。 記念撮影の後、ドライブをする。 「ね、ゆき、大切な成人式でしょ?御両親と一緒にお祝いをしなくても良かったの?君は春には私と一緒になって、家を出るのだから……」 「家族とは昨日、お祝いをしましたし、今朝とお昼にもささやかにお祝いをしました。だから、両親はそれで十分だと、言ってくれています。今日は大切な成人式だから、帯刀さんとも生涯忘れられない思い出を作りなさいって……」 「……そうか。有り難いことだよ」 小松は穏やかな笑みを浮かべると、しみじみと感謝を滲ませた声で呟いた。 こうしてふたりきりでいられるように取り計らってくれた両親に、ゆきもまた心から感謝していた。 成人式のお祝いだからと、小松は格式の高い料亭に連れていってくれた。 たった一度だけのお祝いだからと、小松は気遣ってくれたのだ。 それが嬉しい。 座敷に通されると、ほんの一瞬、しっかりと抱き締められてしまった。 「……今日はとても綺麗だね……」 小松は艶のある声で囁くと、ゆきを優しく離した。 心臓が激しく鼓動するぐらいに、ときめいてしまう。 「君は和装が似合うね。本当に……」 小松は官能的な眼差しをゆきに向けてくる。深く見つめられると、ドキドキし過ぎて、息が上手く出来ない。 「さあ、食事をしようか。君の二十歳のお祝いに」 「有り難うございます」 小松と向かい合って座ると、祝いの席らしい食事が運ばれてきた。 「今日、私は車だから飲めないけれど、君は一杯ぐらい飲みなさい。折角のお祝いなのだからね」 「はい。有り難うございます」 ゆきが猪口を持つと、小松は燗の酒を注いでくれる。 「おめでとう。ゆき」 「有り難うございます。帯刀さん」 注がれた酒を飲むと、ゆきは大人になったのだと実感する。 「おめでとう。ゆき。大人として、私の妻として、今年は一歩を踏み出すね。君を幸せにするよ。今年だけではなく、ずっとね……。その為の誓いの日だよ。今日は」 「……帯刀さん……。私もあなたを幸せにする、誓いの日にします……」 ふたりは、微笑みあうと、そっと唇を重ねる。 大人になる日。 それは誓いの日。
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