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「はい」 小松はゆきの手をしっかりと取ると、静かに立ち上がる。 クリスマスや誕生日に、プレゼントは私を、まさか自分がするなんて、ゆきは思ってもみなかった。 小松と料亭を出て、車に乗り込む。 ここまで、本当に何も話すことが出来なかった。 緊張し過ぎて、カチカチになる。 いつか、小松と大人の関係になるということは、分かっていたし、とてもくすぐったい未来だと思っていた。 小松は車を静かに出す。 何も話さない。 緊張しながら小松の横顔を見つめると、いつも通りの怜悧な表情だった。 落ち着いて大人の表情は、とても魅力的だ。 それに比べて、自分はなんて子供なのだろうかと、ゆきは思った。 差がありすぎる。 小松とは釣り合わないのではないかとすら、ゆきは思った。 「……ゆき、緊張しているの?」 「……緊張しています……。だって、帯刀さんとその……」 大好きなひとに総てを知られてしまう。 それは恥ずかしいのと同時に、何処か誇らしげでもある。 だからこそ、一番美しい自分を知って貰いたいと思うのが、乙女心なのだ。 だからこそ、余計に緊張してしまう。 いつもならば夜景を楽しむのに、今夜はそんな余裕はない。 小松にしか集中することが出来ない。 闇に白く清らかなものが浮かび上がったが、それが雪であることに気づいても、何もする余裕なんてなかった。 「……そんなに固くならないで、ゆき。大丈夫でしょ。だって、君の相手は、私なんだからね」 小松は、ゆきの手をするりと握り締めた。 「はい。有り難うございます。小松さん……」 「落ち着いてゆき」 「はい」 小松に言われると、ゆきは何とか落ち着きを取り戻す。 大好きなひとだから。 ほんの少しだけ、落ち着きを取り戻した。 小松の車が、自宅の駐車場に入った。 ゆきの身体が震える。 小松のものになるのだ。 緊張し過ぎて、なかなか車から出ることが出来ない。 それに気づいたからか、小松は車から降りて、助手席側のドアを開けてくれた。 「どうぞ、ゆき。行こうか」 「は、はいっ」 小松に手を取られて、ゆきはぎこちなく歩いてゆく。 「……ゆき、やはり寒いのだね。雪が降ってきたよ」 小松は闇空を見上げた。 「いつのまに……」 「……この世界では、クリスマスに雪が降ることを、ホワイトクリスマスと言うんだってね……。とても美しいね」 「……はい」 ゆきは空を見上げながら、楽しむ余裕がない自分に気づいた。 「さ、行こう」 「はい」 小松の家に行くのは初めてではない。 だが、今夜は特別なのだ。 クリスマスの最高のプレゼント。 それは、本当は指輪ではなく、小松自身なのかもしれない。 ゆきにとっては、生涯を通して、一番大切なひとだからだ。 小松と手を繋いで家に入る。 ゆきがおおきな深呼吸をしながら部屋に入ると、小松はそっと肩を抱き寄せてくれた。 「緊張しないの。良いね」 「はい」 ゆきはもう一度深呼吸をして、小松を見直した。 「少し落ち着こうか」 小松は、火鉢がある和室に通してくれる。 この部屋には畳の床暖房があり、ほんのりと温かくなっっる。 部屋の真ん中には火鉢があり、ゆきはそれにあたる。 「温かいお茶でも飲もうか。落ち着くでしょ」 「有り難うございます」 小松は、お茶を用意して、ゆきに渡してくれた。 「……有り難うございます……」 ゆきのとなりに、小松は腰を下ろす。 「落ち着いた?」 「……なかなか、すぐには」 ゆきがひきつった笑みを浮かべながら小松を見つめると、穏やかで優しい笑みが返ってくる。 「覚悟というか、決心はついたかな?」 「……決心はもうついています。ただ、少し怖いだけなんです……。帯刀さんが、私にがっかりしないかとか、そんなことばかりを考えてしまいます」 「私が、君にがっかりする筈がないでしょ。君を誰よりも愛しているんだから……」 小松は低い声で囁くと、ゆきを強く抱き締めてくる。 包容に愛を感じる。 ゆきもまた、同じように小松をしっかりと抱き締めた。 小松が、ゆきを艶やかな眼差しで見つめると、深い角度でキスをしてきた。 色香がある官能的なキス。 唇をお互いに吸いあい、舌を絡ませあう。 ロマンティックなのに、情熱的なキスに、ゆきはこのまま蕩けてしまうのではないかと思った。 何度も何度も唇を重ねあう。 クリスマスの夜に相応しいキスだ。 身も心も熱くなり、小松色に染まって行く。 息が出来ないぐらいまでキスを交わしたあと、ゆきは思わず小松を抱き締めた。 「ゆき、しっかりと愛し合おうか……。私たちは、もう、身体で愛し合う段階にきているんだよ。さあ、おいで……」 小松はゆきを抱き上げると、そのまま寝室へと連れていってくれた。 何もかもが初めてだったが、小松がリードをしてくれたから、怖くはなかった。 全身をくまなく愛されて、ゆきは幸せでしょうがなかった。 この広い世界で、小松だけが自分を理解してくれている。 たったひとりのひと。 ゆきは、誰よりも愛しているひとに、こうして抱かれるのが、何よりも嬉しかった。 小松に愛されること。 それが何よりものクリスマスプレゼントだと、ゆきは思った。 幸せな気だるさのなかで、ゆきは目が覚めた。 目を開けると、小松と目があった。 「おはよう、ゆき」 「おはようございます……帯刀さん……」 ゆきがはにかみながら挨拶をすると、小松は柔らかなキスをくれた。 「ゆき、有り難う。最高のクリスマスだったよ。もう君を離せないぐらいにね」 「帯刀さん……」 ふたりは微笑みあいながらキスをする。 クリスマスの朝、ふたりの愛は更にステップアップを果たした。
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