*静かなる聖夜*

3


「……ゆき、行くよ」

「はい」

 小松はゆきの手をしっかりと取ると、静かに立ち上がる。

 クリスマスや誕生日に、プレゼントは私を、まさか自分がするなんて、ゆきは思ってもみなかった。

 小松と料亭を出て、車に乗り込む。

 ここまで、本当に何も話すことが出来なかった。

 緊張し過ぎて、カチカチになる。

 いつか、小松と大人の関係になるということは、分かっていたし、とてもくすぐったい未来だと思っていた。

 小松は車を静かに出す。

 何も話さない。

 緊張しながら小松の横顔を見つめると、いつも通りの怜悧な表情だった。

 落ち着いて大人の表情は、とても魅力的だ。

 それに比べて、自分はなんて子供なのだろうかと、ゆきは思った。

 差がありすぎる。

 小松とは釣り合わないのではないかとすら、ゆきは思った。

「……ゆき、緊張しているの?」

「……緊張しています……。だって、帯刀さんとその……」

 大好きなひとに総てを知られてしまう。

 それは恥ずかしいのと同時に、何処か誇らしげでもある。

 だからこそ、一番美しい自分を知って貰いたいと思うのが、乙女心なのだ。

 だからこそ、余計に緊張してしまう。

 いつもならば夜景を楽しむのに、今夜はそんな余裕はない。

 小松にしか集中することが出来ない。

 闇に白く清らかなものが浮かび上がったが、それが雪であることに気づいても、何もする余裕なんてなかった。

「……そんなに固くならないで、ゆき。大丈夫でしょ。だって、君の相手は、私なんだからね」

 小松は、ゆきの手をするりと握り締めた。

「はい。有り難うございます。小松さん……」

「落ち着いてゆき」

「はい」

 小松に言われると、ゆきは何とか落ち着きを取り戻す。

 大好きなひとだから。

 ほんの少しだけ、落ち着きを取り戻した。

 

 小松の車が、自宅の駐車場に入った。

 ゆきの身体が震える。

 小松のものになるのだ。

 緊張し過ぎて、なかなか車から出ることが出来ない。

 それに気づいたからか、小松は車から降りて、助手席側のドアを開けてくれた。

「どうぞ、ゆき。行こうか」

「は、はいっ」

 小松に手を取られて、ゆきはぎこちなく歩いてゆく。

「……ゆき、やはり寒いのだね。雪が降ってきたよ」

 小松は闇空を見上げた。

「いつのまに……」

「……この世界では、クリスマスに雪が降ることを、ホワイトクリスマスと言うんだってね……。とても美しいね」

「……はい」

 ゆきは空を見上げながら、楽しむ余裕がない自分に気づいた。

「さ、行こう」

「はい」

 小松の家に行くのは初めてではない。

 だが、今夜は特別なのだ。

 クリスマスの最高のプレゼント。

 それは、本当は指輪ではなく、小松自身なのかもしれない。

 ゆきにとっては、生涯を通して、一番大切なひとだからだ。

 小松と手を繋いで家に入る。

 ゆきがおおきな深呼吸をしながら部屋に入ると、小松はそっと肩を抱き寄せてくれた。

「緊張しないの。良いね」

「はい」

 ゆきはもう一度深呼吸をして、小松を見直した。

「少し落ち着こうか」

 小松は、火鉢がある和室に通してくれる。

 この部屋には畳の床暖房があり、ほんのりと温かくなっっる。

 部屋の真ん中には火鉢があり、ゆきはそれにあたる。

「温かいお茶でも飲もうか。落ち着くでしょ」

「有り難うございます」

 小松は、お茶を用意して、ゆきに渡してくれた。

「……有り難うございます……」

 ゆきのとなりに、小松は腰を下ろす。

「落ち着いた?」

「……なかなか、すぐには」

 ゆきがひきつった笑みを浮かべながら小松を見つめると、穏やかで優しい笑みが返ってくる。

「覚悟というか、決心はついたかな?」

「……決心はもうついています。ただ、少し怖いだけなんです……。帯刀さんが、私にがっかりしないかとか、そんなことばかりを考えてしまいます」

「私が、君にがっかりする筈がないでしょ。君を誰よりも愛しているんだから……」

 小松は低い声で囁くと、ゆきを強く抱き締めてくる。

 包容に愛を感じる。

 ゆきもまた、同じように小松をしっかりと抱き締めた。

 小松が、ゆきを艶やかな眼差しで見つめると、深い角度でキスをしてきた。

 色香がある官能的なキス。

 唇をお互いに吸いあい、舌を絡ませあう。

 ロマンティックなのに、情熱的なキスに、ゆきはこのまま蕩けてしまうのではないかと思った。

 何度も何度も唇を重ねあう。

 クリスマスの夜に相応しいキスだ。

 身も心も熱くなり、小松色に染まって行く。

 息が出来ないぐらいまでキスを交わしたあと、ゆきは思わず小松を抱き締めた。

「ゆき、しっかりと愛し合おうか……。私たちは、もう、身体で愛し合う段階にきているんだよ。さあ、おいで……」

 小松はゆきを抱き上げると、そのまま寝室へと連れていってくれた。

 

 何もかもが初めてだったが、小松がリードをしてくれたから、怖くはなかった。

 全身をくまなく愛されて、ゆきは幸せでしょうがなかった。

 この広い世界で、小松だけが自分を理解してくれている。

 たったひとりのひと。

 ゆきは、誰よりも愛しているひとに、こうして抱かれるのが、何よりも嬉しかった。

 小松に愛されること。

 それが何よりものクリスマスプレゼントだと、ゆきは思った。

 

 幸せな気だるさのなかで、ゆきは目が覚めた。

 目を開けると、小松と目があった。

「おはよう、ゆき」

「おはようございます……帯刀さん……」

 ゆきがはにかみながら挨拶をすると、小松は柔らかなキスをくれた。

「ゆき、有り難う。最高のクリスマスだったよ。もう君を離せないぐらいにね」

「帯刀さん……」

 ふたりは微笑みあいながらキスをする。

 クリスマスの朝、ふたりの愛は更にステップアップを果たした。




マエ モドル