*節分の願い*


 節分は、子供の頃から大好きだ。

 節分のことを考えると、ついワクワクしてしまうのだ。

 豆まきも好き。

 いわしも美味しい。

 そして、いつからか定番になりつつある、恵方巻きも大好きだ。

 こんなことは、他にないとゆきは思う。

 それを今年は大好きな人と出来るのだから、嬉しくてしょうがない。

 大好きな人と節分を祝い、その準備をする。

 運気も節分を境目に変わると聞いたことがあるから、きっとより良い運気になるに違いない。

 そんなことを、ゆきは考えた。

 小松の時空とは節分の過ごし方は変わっているかもしれない。

 ならば、新しい節分を、小松と一緒に過ごせるに違いないと思った。

 

 今年の節分は、幸運なことに休日だ。

 これならば、とっておきの節分を、大好きな小松と過ごすことが出来る。

 準備から慌てず出来る日程が、ゆきにはとてもありがたかった。

 

 朝から、恵方巻きの準備をする。ゆきは、具材は海鮮を重点的に使おうと思い、新鮮な食材を買いに出た。

 小松も一緒に来てくれるのが、頼もしい。

 小松と一緒に日用品や食材の買い物をすると、まるで結婚したようで、くすぐったい幸せについにんまりとしてしまう。

「お正月の時も思ったけれど、この時空にいると、様々な行事がお祭り化というか、イベント化して、経済と深く結びついているね。厳かな行事のはずなのにね」

 小松は苦笑いを浮かべると、派手な節分ポスターに視線を送った。

「折角だから、楽しく過ごしたい……。というのは、確かにあるかもしれないですね」

「そうかもしれないね。私も、楽しくなった行事はキライではないからね」

「なら、良かったです」

 ゆきは、小松が楽しんでくれたら、それが一番嬉しい。

「魚介類はこれぐらいで、構わないですね。後は、豆を買わないと。年の分だけ、節分の豆は食べないといけないですからね」

「本当に、買い物をすることから行事だね。鬼やらいも、いつの間にか、家族の楽しい行事になったようだからね」

 小松はフッと微笑むと、ゆきを見守るように見つめていた。

 

 買い物も終わり、車で小松の家に向かう。

 こうしてふたりで買い物をして、のんびりと帰宅するのが、幸せだ。

 休日にこのような過ごし方はやはりステキで、楽しい。

 幸せな気分だ。

 何気ない休日なのかもしれない。だが、これこそが素晴らしい幸せを生む休日なのだと、ゆきは思った。

 

 家に戻ると、ゆきは恵方巻きの準備をする。

 今日は、手巻きにして、自分で恵方巻きを作るのだ。

 これだけでも楽しくてわくわくするのは違いなかった。

 寿司飯を作るのを、小松に手伝って貰い、ふたりで食卓に材料を並べる。

「随分と楽しそうな食卓だね」

 小松は見るなり、面白そうに静かに微笑む。

「子供が好きになるかもしれないね。とても楽しそうだ」

「本当に楽しいですよ」

「君と一緒だと、どのようなイベントもとっておきだと、思ってしまうね」

 小松は何処か楽しそうに言うと、食卓についた。

「さあ、とっておきのやり方を教えて貰おうかな」

 いつもは小松に教えて貰ってばかりだから、ゆきは自分が教えられることがあるのが、とても嬉しかった。

「はい。では、まず、す巻きの上に焼き海苔を広げて、ご飯をまんべんなく伸ばします」

 小松は、器用だからから、ゆきに言われたようにきちんとする。だが、何処か、不器用なところも、微笑ましい。

 ゆきも同じように寿司飯を広げるが、小松のようにきれいに広げられなかった。

 どこか、敗北感すら感じてしまう。

「ご飯を並べたら、好きな具材を上に乗せていって下さいね。端に寄せると巻きやすいみたいです」

「なるほどね」

 手巻き寿司になると、ついつい欲張りになってしまう。

 色々な具材をつい、いっぱい乗せてしまいそうになる。

 小松はと言えば、やはり合理的なやり方を好むからか、巻いてもはみ出ない食材を選んでいる。

 ゆきは、そのあたりのチョイスは流石だと思った。

 ゆきは好きな食材を入れて、ついつい欲張ってしまうのだ。

 小松は、食べやすくて、きれいな巻き寿司を作ってしまった。

 ゆきはと言えば、やはり巻くのに苦労した。小松が意地悪な笑みを浮かべながら、ゆきを見ている。

 敗北感が強く、つい拗ねた気持ちになった。

「恵方巻きは、少し太いほうが良いんですよ」

「それは負け惜しみだね」

 小松はからかうように言いながら、少しイビツになってしまったゆきの巻き寿司を見ていた。

「ここまでしたら、どうしたら良いのかな?」

 小松の言葉に、ゆきはまた得意そうな表情になる。

「今年の恵方は、南南東なので、そちらに向かって、心のなかで願いながら、無言で食べきります」

「……随分と、面妖なことをするんだね」

 小松は益々苦笑いを浮かべる。

「願いが叶うかもしれないチャンスですよ!帯刀さん!」

「ま、そうなのかもしれないけれど、呪いやまやかしの一種のようにしか、私には思えないけれどね」

「そうともとれるかもしれませんが、それでも楽しいですし、願いが叶うかもしれませんから」

 ゆきが自慢するように言うと、小松は可笑しそうな吹き出しそうな表情を浮かべた。

「君が言うのだから、しんじてみようかな」

「そうして下さい」

 小松とゆきは、今年の恵方に向かうと、巻き寿司を無言で食べ始める。

 ゆきの願い事。

 それは、となりにいる愛するひとと、ずっと一緒にいられたら良い。

 ただそれだけなのだ。

 小松と一緒にいられたら、これ以上に幸せなことはない。

 二人が健康で穏やかな時間が過ごせたら、それだけで良いのだ。

 本当にそれだけで幸せだ。

 その願いを願うだけで、不思議なぐらいに幸せな気分になれた。

 これは本当に幸せなことだと、ゆきは思った。

 恵方巻きは、願うときに幸せな気分を味わえるから、あるのかもしれない。

 ゆきは素敵な風習だと思った。

 大好きなひとや家族と一緒に願うことが出来るのだから。

 これ以上のことはないだろう。

 自分達で作った恵方巻きを、水を飲まずに無言で食べ終わると、流石にふたりとも直ぐに水分を取った。

「帯刀さん、たっぷり願いましたか?」

「勿論。君は?」

「勿論です」

 ふたりは、あえて何を願ったかは言わない。

 だが、何を言わなくても、何を願ったかは、お互いに分かる。

 そんな関係になれたことが、ゆきには嬉しかった。

 互いに微笑みあえば、何を思ったか分かる。

 そんな理想的な関係を確認できたのが嬉しくて、ゆきは節分に感謝していた。




マエ