*仕事始めの日*


 お正月が明けてしまった。

 今日から小松は、本格的に始動する。

 また、会えない日々を重ねることになるのだ。ゆきにはそれが切なくて辛い。

 小松の冬休みの間は、ずっと一緒にいられたのに、今はもう違うのだ。

 1月4日というのが、こんなにも辛いとは、ゆきは思いもしなかった。

 毎日のように会えるのなら、定期的に濃密な時間を持てるのであれば、これほどまでの切なさは感じないのかもしれない。

 だが、そうではないのだ。

 これからまた、泣きそうになるぐらいに、なかなか会えなくなってしまうのだ。

 それはかなり痛い。

 これ以上の痛みはないのではないかと思うほどに、切ないのだ。

 苦しくて堪らなくて、ゆきは、小松と過ごすいつもの朝よりも辛かった。

「どうしたの?」

 ゆきが暗い表情だからか、小松が心配をして、声をかけてきてくれた。

「お休みが終わってしまったと思っていました……」

「君はまだ冬休みの最中でしょ?」

「そうなんですが、帯刀さんと一緒のお休みが終わってしまうのが、それはそれで切なくて……」

 ゆきが素直な気持ちを口にすると、小松は優しい笑みを浮かべた。

「君は本当に可愛いことばかりを言うね」

 小松はゆきをしっかりと抱き寄せると、甘い、甘い、キスをしてきた。たっぷりと甘いキスに、ゆきは鼓動のスピードが一気に高まるのを感じる。

 こんなにもドキドキするのは、小松に対してだけだ。

 ゆきは喉がカラカラに渇くのを覚えながら、ずっとこの甘い感覚があれば、とても幸せだと思った。

「……ゆき、そんな切なそうな顔をしないの。私も君と同じ気持ちだよ。だけど、名残惜しいと思う気持ちはね、幸せな時間と言うのは、会えない時間があったり、切ない時間があったりすれば、するほど、際立つんじゃないかな?幸せだと、思うんじゃないかな?」

 小松の言葉に、ゆきは確かにそうだと感じた。

「そうですね。それは分かっていますが……」

 だけど、小松とこれからまた逢うのが難しくなるのが切ないのだ。

 小松はゆきの気持ちを宥めるために、唇を重ねてくる。

 とっておきの甘いキスだ。

 何度も、何度も唇を重ねるのに、全く足りない。もっともっとキスをしたかった。

 ゆきの気持ちを汲んでか、小松はギリギリまでずっとキスをしてくれた。

「ゆき、今日は挨拶回りと財界の新年会があるけれど、それでも良いなら、私と一緒にいる?」

 小松の提案は本当に嬉しい。まだ一緒にいられるのかと思うと、これ以上に幸せなことはない。

 だが、ゆきは心配になる。

 一緒にいて、小松の邪魔にはならないだろうかと。

 小松の仕事の邪魔になることだけは、どうしても避けたかった。

 これは、ゆきがいつも心がけていることだ。

「私が邪魔にはならないですか?」

「流石に、挨拶先に一緒に行くのは憚られるかと思うけれどね。だけど、午後からは社で挨拶を受けるのが殆どだから、一緒にいても大丈夫だよ」

「では、会社で午前中はいますね」

「そうだね。挨拶回りもそんなにないからね。むしろ受ける方だから。どうしても、午前中に二件だけ回らなければならなくなったからね。それだけたしね」

 ここは小松の言葉に甘えても良いのだろうか。そうすればただのわがままになる。

「まあ、こんなことをするのは、今日しか出来ないけれどね。だから、今日は特別。あまあまデーだよ。君と一緒にいたいのは、私も変わらない。それに、今日一日は、君は私のアシスタントをすれば良いしね」

 ゆきが心苦しく思っていることを、小松はよく知っているか、然り気無い気遣いを見せてくれた。

「本当に良いのですか?」

「これは私のわがままだよ。それに君を付き合わせているのは、むしろ、私のほうだからね」

 小松は決してゆきだけのわがままではないと言ってくれている。ゆきには、それがたまらなく嬉しかった。

「帯刀さん、有り難うございます」

 ゆきが小松に抱きつきながら礼を言うと、柔らかく抱き返してくれた。

 

 結局は、小松の会社に、一緒に出勤となった。

「午前中は、朝礼に出たあと出掛けるから、ここで待っていて。会食があるから、戻ってくるのは二時ぐらいになる。昼食は用意させるから。あとは、君が好きなことをして待っていて。勉強とか」

「あ、あのだったら、私、邪魔になりそうなので、帰ったほうが……」

「いて欲しい。君には、私の仕事ぶりを知ってもらえる良い機会だからね。やることないのならば、パソコンを立ち上げておくから、こちらを入力していて。では、出るよ」

 小松はテキパキと言うと、朝礼に行ってしまう。

 ひとりになったゆきは、小松に言われたことを、することにした。

 

 食事を終えた頃、小松が帰ってきて、直ぐに各社からの挨拶を受ける。

 ゆきは挨拶に来た他社の社員に、年賀を渡す役目をかって出た。

 そのあとも、バタバタと忙しくて、ゆきは自分がいて本当に良かったのかと思った。

「ご苦労様でした、帯刀さん」

「君がいてくれて助かった」

「私はなにもしていないです」

「いいや、私を癒してくれる」

 小松は穏やかに言うと、ゆきをいきなり抱き締めてきた。

「……君がそばにいると、やはり私は頑張れるみたいだ……。本当にそうなのか、試したくて連れてきたが、本当にそうだったね」

 小松は疲れているのに、満たされたような声を出す。

「私も帯刀さんと一緒ならば頑張れますよ」

 ゆきの言葉に、小松は応えるように甘い笑みを浮かべて頷いた。

「……ゆき、私と一緒に暮らさない?もう、君と会えないのは堪えられない」

 小松の情熱的な言葉に、ゆきは瞳に涙を滲ませながら頷く。

 こんなにも甘くて幸せな気持ちはない。

 感動する余りに言葉がうまく出てこない。

「ゆき?」

 小松が心配するように声を揺らす。

 ゆきは幸せな気持ちに満たされながら、感動でどうにかなりそうだ。

「はい、一緒に暮らしたいです」

 ゆきは小松に強く頷く。

「有り難う、ゆき。これからもずっと一緒にいよう」

 これから共に歩いていける。

 毎日会えるのが嬉しい。

 いつも一緒にいられるのが嬉しい。

 これからずっと一緒にいられるのが、嬉しい。

 こんなにも幸せなことはない。

 大好きな人とずっと一緒にいられるだから。

 小松としっかりと抱き合いながら、とっておきのお年玉を貰ったような気分になった。

 




マエ