*ハロウィン・パーティ*

前編


 ハロウィンパーティなんて、自分には似合わないことぐらいは、小松にも分かってはいる。

 だが、愛するゆきに誘われた以上は行くしかない。

 ハロウィンパーティというのは、仮装をしなければならず、小松はなんて厄介なのだろうと思った。

 ゆきに言われなければ、絶対にしなかったと思う。

 ゆきに言われたからこそ、行く気になったに過ぎないのだ。

「ハロウィンパーティとやらの、定番の仮装って、何なの?」

 小松は分からなくて、ゆきに訊いてみることにした。

「定番は、魔女だとか黒猫、吸血鬼あたりですけれど……」

 ゆきの言葉を聞きながら、小松は、ついついゆきがその扮装をしている姿を思い浮かべてしまう。

 妄想と言っても良いぐらいだ。

 どの姿をしても、ゆきは蕩けるぐらいに可愛いだろう。

 想像するだけで、小松はその甘さにくらくらしそうになった。

 こんな想像をするなんて、自分は相当ゆきのことが好きなのだろうかと、思わずにはいられない。

「帯刀さん……?」

 妄想に浸っている小松を心配したのか、ゆきが声をかけてきた。

 小松は咳払いをして誤魔化すことしか出来なかった。

「……ゆき、君がその格好をしたら、可愛いとは思うけれど、私は全くかわいくないよ。こればかりは保証するね」

 小松は苦笑いを浮かべながら呟いた。

「そんなことありませんよ。帯刀さんの方が、可愛いに決まっています」

「大人の男に、可愛い、は、ないでしょ」

 小松は苦笑しながら、ゆきは本当に可愛いことを分かっていないと思った。

「大人の男性だからこそ、可愛いと思うんですよ」

「それもどうかと思うよ、ゆき」

 小松は苦々しい笑みを浮かべて、困ったと考える。

 すると、ゆきは小首を傾げて、ただ小松を見つめた。

「君はしょうがないね……」

 本当にしょうがないぐらいに可愛いと、小松は思わずにはいられない。

「私は君が提案するもの以外を考えるよ。絶対に黒猫や魔女じゃないとダメではないんでしょ?」

「そうですけれど……」

「だったら、私はそれ以外の格好を考えるよ」

 小松は静かに呟くと、ゆきを見つめた。

「もったいない」

 ゆきが本当に残念そうに言うものだから、小松は苦笑いをするしかなかった。

「全く君は、そんな顔をされると、私も怒れないでしょ」

 小松は、ゆきが愛しくて堪らなくなり、思わずその頭を撫でた。

「ハロウィンパーティまでは、まだまだあるからね。まだまだ考えたら良いから」

 小松はゆきをふわりと抱き締めながら、内心ハロウィンが楽しみでしょうがなかった。

 

 ハロウィンのことを色々と調べて、様々なことが分かった。

 精霊や幽霊、悪魔や魔女、邪悪であったりなかったりするものが混じっているのはご愛敬だが、そのようなものたちの祭りであるようだ。

 そして、仮装をした子供たちが家々を回り、『Trick or treat』と言いながら、お菓子を貰って回るイベントなのだというのが分かった。

 小松は京にいることも長かったので、所謂、地蔵盆のようなものろうかと思った。

 仮装こそはしないが、あれもお菓子を貰うために多くの地蔵を回り、菓子を貰うところは同じだからだ。

 いたずらか、ごちそうか。

 ゆきに対してはそのどちらもしたいと小松は思い、ついほくそ笑んでしまう。

 いたずら。

 ゆきに対してのいたずらは、お菓子よりも甘いいたずらではあるのだが。

 小松は、異国の甘さたっぷりなお菓子よりも更に甘いいたずらを用意しようと思っていた。

 

 ハロウィンパーティでの仮装衣装がなかなか決まらない。

 小松は、コスチュームが沢山ある店に向かい、吟味をするが、なかなか良いものが見当たらない。

 スーツ姿の男が、ハロウィンのコスチュームを探しているというのは、なんとも滑稽な様子だと、小松は苦笑する。

 しかもパーティグッズコーナーというのは、若い者たちがほとんどで、小松はかなり異端な雰囲気だった。

「これにしようかな……」

 小松は結局、『海賊セット』というのを買った。

 元の時空にいる時は、海軍の提督に憧れを持ち、そのようになりたいと、小松は強く思っていた。

 だからごく自然に、海賊セットを手に取った。

 ふと、キワモノにしか見えない、動物の着ぐるみがその横に置いてあり、小松は思わず目を見張った。

 白いふわりとした猫。

 耳と尻尾が着いた、とても可愛いものだ。

 小松は思わず見つめて興奮する。

 それぐらいに可愛いセットだった。

 しかも鈴と迷子ふだの付いた、首輪つきだ。迷子ふだは、猫の名前と飼い主の名前が書けるようになっている。

 こんなにも可愛いものを見たことはないと、小松は思った。

 ゆきが着たら、さぞかし可愛いだろう。

 ハロウィンだけではなく、他にも使えるかもしれない。

 だが、そこまで考えて、小松は邪なことを考えている自分に苦笑せずにはいられなかった。

 小松は苦笑いを浮かべるしかない。

 本当にどこまでゆきのことを好きなのだろうかと。そして、どこまで夢中なのだろうかと、小松は思った。

 船乗りにとっては、猫は守り神だ。

 だからこそ、海賊と白ネコがピッタリだと思った。

 小松はついついゆきの姿を想像して、にやけてしまう。

 いけない。

 いくら夢中だとはいえ、ここまで表情を崩してはならない。

 小松は反省しながらも、ちゃっかり、海賊と白ネコのコスチュームを買い求めた。

 これで準備は完璧だ。

 あとは、ゆきがこのコスチュームを着てくれるのかが問題だと思った。

 何とか丸め込んで、ゆきにこのコスチュームを着せたいと思う。

 だが、そうなると誰にも見せたくはなくなると、小松は苦笑する。

 可愛いゆきは、自分だけで独占したいと、思わずにはいられない。

 ゆきに対しては独占欲の強すぎる自分に、小松は益々困ったと、甘く考えるしかなかった。

 ハロウィンパーティが楽しみでしょうがない。

 こんな余興が楽しみだなんて、今まで考えたことはなかった。

 それに、余興といえど、仕事が絡んでいることがほとんどだったのだ。

 だが、今は違う。

 ゆきがそばにいてくれ、新しく、そして自由で楽しい世界を見せてくれる。

 心から楽しんで良いのだと、小松に教えてくれる。

 それが何よりも嬉しいことだ。

 自由に楽しんで良いのだと、自由に感じて良いのだと、教えてくれたゆきに、心から感謝している。

 本当に最高の相手を見つけられたのだということを、小松はひしひしと感じていた。



モドル ツギ