後編
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勿論、迷子ふだには、ゆき 飼い主 小松帯刀と書いておいた。 ゆきは自分のものだから、これぐらいは許される。いや、当然だと小松は思わずにはいられない。 ゆきは嫌がるかもしれないが、小松は是非やりたかった。 ゆきの可愛さを引き立てるためならば、本当に何でもやりたくなってしまうのだ。 どうしようもない恋人だということは分かってはいる。 しかし、ゆきの可愛さの前だと、小松の箍が一気に外れてしまうのだ。 それだけ、ゆきに心底惚れているということなのだろう。 しかし、ゆきの可愛い姿を誰にも見せたくはないという葛藤もある。 ふたりきりのハロウィンパーティであれば良いのにと思う。 海賊と守り神の白いネコ。 自分達にはピッタリだと小松は思う。 これ以上の組み合わせはないのかもしれない。 小松はひとりほくそ笑む。 恋人のコスチュームプレイを思い浮かべて、ニヤニヤする自分は、なんてバカなのだろうかとも思う。 白ネコの他に、ゆきは舞妓スタイルも似合うのではないかと、小松はついつい考えてしまう。 全く自分はどこまでゆきに夢中なのだろうか。 だが、個人的にゆきの舞妓姿は見てみたいと思った。 今年のハロウィンパーティは、ゆきの自宅で、ごく内輪で行われる。 小松は、事前に、ゆきに白ネコのコスチュームを渡しておいた。 最初は、着ぐるみにゆきは驚いてはいたが、最後には可愛いと言い出す始末だった。 着ぐるみならば、セクシーさだとかがほど遠いから大丈夫だと思ったのかもしれない。 遊園地の着ぐるみショーのアルバイトのような気分になっていたのかもしれない。 これには、小松も苦笑する。 ただ着ぐるみにすれば、色気がなくなると言う計算もゆきにはあった。 そんな計算は必要はない。 ゆきは分かっているのだろうか。 自分がどれぐらい可愛いかを。 可愛いから、本当は誰にも会わせたくない。見せたくないと、小松が思っていることを、ゆきは分かっているのだろうか。 我ながら危ない思想だと思う。だが、それほどまでに、ゆきに夢中なのだ。 白ネコのコスチュームを渡した時に、ゆきは恥ずかしそうにしながらも、それを着ると言ってくれた。 だからこそ、ハロウィンパーティが楽しみであり、不安でもある。 招待をされているのは、ゆきに好意を持っている者ばかりなのだから。 ゆきを、魔の手から守らなければならないと、小松は強く思っていた。 そのためにも、ハロウィンパーティ中は片時も離れられないと、小松は思った。 ゆきの家で行うパーティ。 さぞかし盛り上がることだろう。 だが、小松はゆきを守るものとして、ずっと傍らにいることを誓った。 ハロウィンパーティ当日になった。 ゆきが、パンプキンパイ、パンプキンプリンを作ってくれているらしい。 甘いものは余り好きではないのだが、カボチャを使ったものであれば、何とか食べられる。 小松は、ゆきの手作りお菓子を楽しみにしている。 ゆきは、小松の好みをちゃんと分かってくれている。 小松好みの料理もお手のものだ。 そろそろ、妻にしたいと、思っている。 妻にすれば、毎日、一緒にいられるのだから。 小松は熱い想いを抱きながら、ゆきの自宅へと向かった。 海賊スタイルで車を運転するのは悪くないと、小松は思った。 車だと、余り見られることがないから良い。それに本物の海賊のような気分にもなれる。 今年のハロウィンは平日に当たるから、パーティは10月の最終土曜日に行われる。 明日は日曜日で休みなのも丁度良いのかもしれない。 小松は、ゆきの家の前まで車を走らせ、車止めに停めた。 近くの駐車場という選択もあったのだが、それは、今日に限っては避けたかった。 小松は派手な海賊スタイルのままで、ゆきの家のインターフォンを押した。 すると直ぐにゆきがやって来た。 ゆきの仮装は、可愛い白ネコ。 余りにも似合いすぎて、このまま拾って自宅に持ち帰りたくなった。 可愛くてつい表情を緩めてしまう。 「……あ、あの、帯刀さん……?」 ゆきは恥ずかしさと困惑を見せながら、小松を見上げる。 その仕草がまた可愛くてしょうがない。 「こんな可愛いネコは見たことがないよ」 ゆきはホッとしたような笑みを小松に向けた。 「帯刀さんもステキです」 ゆきはうっとりと呟く。 「有り難う。だけど、ひとつ忘れているよ?」 「な、何でしょうか?」 「語尾に“にゃん”がついていないよ」 小松がわざと意地悪に笑いながら見つめると、ゆきは真っ赤になった。 「……忘れていたにゃん……」 消え入るように言うゆきが可愛くて、小松は離したくなくて、真ん丸な白い手をギュッと握り締めた。 「さてと案内して貰おうかな。にゃんこさん」 「はいにゃん」 ゆきは着ぐるみ姿でぽてぽてと歩きながら、小松をパーティ準備がされた、リビングへと案内した。 ゆきが小松に手を繋ぎながらやってきたものだから、ゆきの大ファンたちは、やきもきするような表情をする。 「海賊にネコは切っても切れないものでしょ?」 小松は勝ち誇った笑みを滲ませながら、恋のライバルたちを見た。 ゆきが小松を選んだのは、紛れもない事実なのだからと、小松は誇らしく思った。 パーティの料理は、ゆきが作った、パンプキンパイやパンプキンプリン、パンプキンスープなどが盛大に並べられていて、見ているだけでも楽しい。 だが、小松にとっては、美味しいパンプキン料理よりも、ゆきのほうがご馳走のように思えた。 「帯刀さん、パンプキン料理はいかがにゃん?」 「では、パンプキンプリンを。私はネコを捕まえているのが忙しいから、君が食べさせて」 「え……?」 小松の申し出が恥ずかしくて、ゆきは真っ赤になりながら見つめた。 「ほら」 恥ずかしがるゆきに構わず、小松はパンプキンプリンをねだる。 ゆきらははにかみながら、ココナッツミルクが効いた、パンプキンプリンを食べさせてくれた。 「なかなか、美味しいね」 小松がにっこりと微笑むと、ゆきは嬉しそうに笑った。 「ゆき、パーティの後は、私の家でもっと美味しいご馳走が食べたいかな」 小松はゆきに、甘く艶やかに耳打ちをする。 「ハロウィンパーティの最高のご馳走は君だよ……」 小松の囁きに、ゆきは真っ赤になりながら俯いた。 「パーティが終わったら、うちに行こう……」 小松は甘い囁きに通りに、ゆきを自宅に連れ去ると、海賊宜しく、激しく愛した。 ハロウィンの夜に相応しいのは言うまでもなかった。 |