*都会の雪*


 今が一番寒い季節。

 今年は寒い上に、都会でも積雪を記録している。

 タイミング良く、休みの日に大雪になる。

 天気予報で、休みの日にかなりの雪が降り、翌日の交通機関に影響が出ると聞いて、小松は会社に泊まることにした。

 泊まると言っても、自宅にいるのと同じぐらいに快適だ。

 しかも今日はゆきがいる。

 ゆきとギリギリまで一緒にいられるのが、何よりも幸せで幸福だ。

 こんなにも幸せな気持ちになれるのは、ひとえにゆきのお陰だ。

 小松は愛する者がそばにいるだけで、こんなにも幸せであることを、ゆきに教えて貰ったのだ。

 この時空には、小松の宝物がたくさんある。それを見つけたのだ。

 生まれた時空にも沢山の大切なものがあった。

 だが、それらを総て捨て去ったとしても、この時空で得られるものは大きく、かけがえがなかった。

 生まれた時空を懐かしく思い出すことはあっても、後悔だとかしたことはないし、戻りたいと思ったこともない。

 そばにゆきがいる。それだけでこの世界にいる価値がある。

 

「かなり大雪になってますね。成人式の皆さんが可愛そうですね」

 ゆきは、ペントハウスの窓からずっと外を見つめている。その眼差しは、キラキラ輝いていて、雪よりも美しい。

「そうだね。だけど、少しの雪で、街は麻痺するんだね。便利で進化した街であっても、自然には勝てないということなんだね」

「そうです。自然は偉大ですから勝とうとしてもダメですから」

「確かにそうだね。自然には逆らえない。逆らえば痛い目にあうからね」

「そうですよ」

 確かに、小松が生まれた世界に比べて、この世界はとても合理的で、しかも進化して出来ている。

 その分、時間の流れは緩やかな動きを許してはくれない。

 生き急いでいる。誰もが。

 そんな世界でも、ゆきは、やはり小松の光となってくれる。

 それはとても嬉しい。

 生き急いでも、ゆきがいるから、この時代でも迷子にならずに済むのだ。

「どうしましたか?帯刀さん」

「君がいるから迷子にならずに済むよ」

 小松がゆきを抱き寄せると、ゆきははにかんだように、見上げた。

「それは迷子にはならないですよ。私はちゃんとここの地理にはそれなりに詳しいですから?」

 小松の言葉の意味を取り違えるところも、憎めなくて可愛い。

 ぬけているところもあるというのに、芯が強くしっかりとしている部分もある。

 信念の強さは、小松も感心するほどだ。

 程好い抜けたところと、しっかりとした部分の対比が、ゆきの一番の魅力なのだろう。それは小松も理解していた。

「君は可愛いね、本当に……」

 小松がくすりと笑うと、ゆきは訳が分からないように、目を白黒させた。

「あ、あの、帯刀さんっ、どうしたんですか?」

「何でもない。君が本当に可愛いと、思っただけだよ」

 小松がぎゅっと抱き締めると、ゆきは益々、訳が分からないといった顔をした。

「これだけ降っていると、明日の通勤は大変のようですね」

「だから、こうして私は仕事をしているんだよ。少しでも無駄を省きたいからね。明日は交通事情に左右されることなく、仕事に集中出来そうだね」

 小松は、ゆきへの抱擁を解くと、再び仕事に集中していた。

 仕事を進めながらも、恋人がそばにいるから、いつでも抱き締めて、癒されることも出来るのだ。

 しかも、今日は休日であるから、次々にどこからともなく出てくる仕事もほとんどない。

 最高の仕事環境が構築されているのは、間違いない。

 小松が仕事に集中すると、ゆきも、集中出来る環境作りに協力してくれていた。

 だからこそ、かなり仕事を捗らせることが出来た。

 

 お茶の時間になり、ゆきはブレイクにと、日本茶と漬け物を出してくれた。

「帯刀さん、少し休憩をなさいませんか?」

 ゆきの気遣いを嬉しく思いながら、小松は仕事を小休止することにした。

「有り難う」

 小松はふと窓の外を見る。

 するとゆきは、かなり深くなっている。そとは、さぞかし美しい銀世界になっているのだろう。

「随分と雪は積もってきたね。通りで仕事に集中が出来るはずだよ」

「雪だるまを作ったら楽しいでしょうね」

「君は、あちらの世界でも雪と戯れていたからね。雪だるまを作りたいの?」

 小松の言葉に、ゆきはしっかりと頷いた。

 まるで幼い子供のように無邪気な表情を浮かべている。小松は、純粋にゆきのことが可愛いと思う。

 ゆきに逆らえるはずなんてない。

 小松は苦笑いを浮かべると立ち上がる。

「少しだけ、雪を見に、下の庭に行く?」

「はい」

 ゆきは笑顔で、ハッキリと返事をした。本当に嬉しそうだ。ゆきには逆らえない。

 小松は、ゆきにしっかりと防寒をさせた後、手を繋いで、ビルの下にある、庭に出た。

 庭と言っても、小さな公園程の広さがあり、のんびりと出来るのだ。

「帯刀さん!雪ですよ!雪!」

「はい、はい。君は全く雪が好きでしょうがない子なんだね」

 はしゃぐゆきを尻目に、小松はじっと見守る。

 ゆきは、一生懸命夢中になって、雪だるまを作る。

 雪だるまは、猫の形をしている。

「平田さんですよ!」

 ゆきは、平田殿の模様をつけて、綺麗な猫を作っている。

 それを見ているだけで、小松は、ごく自然に笑顔となる。

「帯刀さん、上手に出来たでしょう?一緒に写真を撮りましょう?」

「はい、はい」

 ゆきは、スマートフォンで写真を撮り、小松もそれに倣う。

 ゆきとならば、バカげた写真ですらも、嬉しく、楽しく、撮ることが出来る。それはとても嬉しいことだ。

「さてと、そろそろ、君のお鼻も真っ赤だよ。行こうか」

 小松はゆきの鼻をちょんと指先でなぞった。するとゆきはくすぐったそうな顔をした。

 

 手を繋いで、ペントハウスに戻ったあと、小松は再び仕事に集中する。

 ゆきがそばにいると、仕事はかなり捗るのだ。

 自分が、仕事ばかりをしているから、ゆきはつまらないのではないだろうか。

 小松はふと考える。

「ゆき、つまらなくない?」

「いいえ。全く。ご飯作るのも楽しいですし」

 ゆきの表情は明るく屈託がないため、小松はほっとする。

「それは、良かった」

 小松は、また、仕事に集中した。

 

 夜になっても、雪はおさまらない。

「何だか、ゆきに閉じ込められているみたいで、ステキです。帯刀さんとふたりで、この場所に。ロマンティックじゃないですか?」

 ゆきのはしゃぐ声に、小松は改めて気づく。

 ゆきは、どのような状況でも楽しめる。それは、小松には嬉しいスキルだ。

 理想の相手。

 そう思わずにはいられない。

「そうだね、ロマンティックだ」

 小松の言葉に、ゆきはうっとり頷く。

 大雪の夜。

 考え方次第で、とてもロマンティックになる。




マエ