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年下の恋人に、本当はいつも振り回されている。 当の本人は、もちろん、そのようなことは思ってはいないだろう。 だが、実際にはそうなのだ。 ひょっとしたら、自分が振り回されているぐらいは思っているかもしれない。 そのふしは、確かに有るのだから。 だが、本当に、いつも夢中になってハマっているのは、自分の方だと、小松は思っている。 ゆきの前だと、ゆきが絡むと、冷静ではいられなくなってしまうのだから。 冷静沈着で、合理主義だと言われた男がだ。 これには、小松は苦笑するしかない。 同時に、制御が効かないぐらいに、ゆきに夢中になっているということなのだ。 人生最大の誤算。 それはかなり良い誤算だとは、小松も思ってはいる。 ゆきにこんなにも夢中になって、愛しいと思うなんて。 そんな相手が見つかるなんて。 思ってもみなかった。 結婚なんて、子供を作るためにするものだと、ずっと思っていたのだ。 小松は、ゆきをしっかりと抱き寄せて、その温もりを堪能する。 この優しい温もりをもう離せないし、離さない。 ずっとこの温もりをそばに置く。 人に強い独占欲を持つなんて、そんなことは今までなかったというのに。 小松は自分の変わりように、苦笑いをするしかなかった。 「……私をこんな風に変えたのは、ゆき、君だからだよ……」 小松はフッと微笑みながら囁くと、あどけないゆきの寝顔にキスをした。 本当に、自分ではどうすることも出来ないぐらいに、ゆきを愛している。 小松は、ゆきを更に抱き込んだ。 漂っている。 とても気持ちが良い。 本当に、このまま墜落しても構わないと思うぐらいに気持ちが良い。 ゆきは快適な疲れを抱きながら、なんて幸せなのだろうかと思った。 こんなに気持ちよく眠れたことが、今まであっただろうか。 そんなことをぼんやりと考えてしまう。 目を開けるのが勿体無いと思いながらも、しっかりと目を開けたくて、ゆきはゆっくりと目を開いた。 すると目の前には、小松が微笑んでいる。 余りに小松の綺麗な顔が近くて、ゆきは一気に目覚めてしまった。 つい目を見開いてしまう。 「た、帯刀さんっ……!」 「おはよう、ゆき」 「お、おはようございます、帯刀さん……」 小松の顔がこんなにも近いと、ゆきはドキドキせずにはいられない。 小松の本当に美しい顔立ちを間近で見ると、うっとりしてしまう。 「……雪はやみましたか?」 「……さあ。私も、今、起きたところだからね。解らないよ」 「そうですか」 「何、雪が止んで欲しかったの?」 「そういうわけでは……」 ゆきが困惑していると、小松はクスリと笑った。 「雪が止もうが、止まないが、私たちには全く関係のないことだと思うけど。違う?」 小松に官能的な笑みを向けられてしまうと、ゆきは胸が切なくなるぐらいにときめかずにはいられない。 恥ずかしくて、つい、顔を隠してしまいたくなるぐらいに。 顔を隠そうとすると、小松に制止されてしまう。 「……あ、あの、帯刀さん」 「恥ずかしがることなんてないでしょ?君と私の仲……、なんだし」 「だ、だから、恥ずかしい」 恋人だからこそ、ゆきは恥ずかしくてしょうがないのだ。そのあたりも、小松が理解してくれたらと、思わずにはいられない。 「本当にいつまでも初々しい反応をするよね?君は……」 小松にくすりと笑われてしまい、ゆきは恥ずかしくてたまらなかった。 「帯刀さんだからこそ、恥ずかしいことってあるんですよ……」 「……そう?だって私は、世界中の誰よりも、君のことを知っている男だと思っているけれど?」 小松は笑みが滲んだ瞳で、ゆきを真っ直ぐ見つめてくる。その瞳に、ゆきは息が上手く出来ないぐらいに、ドキドキしてしまう。 こんなにもときめいてしまう相手は、確かに小松しかいないと、ゆきは思う。 「……ゆき。君の表情を見ていると、それを認めざるをえないといった、感じだよね?」 小松は低く艶がたっぷりと含まれた声で囁いてくる。 小松は甘いからかいを止めようとはしないのだ。 小松は、今や経済界の寵児と呼ばれ、起こした会社をかなりの勢いで成長させている、合理主義の冷徹な人物だと称されていることが多いのに、ゆきと二人きりだと、こうしてイジワルばかりをする甘く艶のある大人になってしまうのだ。 そのギャップを知っていると言う、優越感はかなりあるのではあるが。 「……そろそろ、降参しなさい……」 小松はクスリと笑いながら、ゆきのまろやかなボディラインを、意味ありげになぞってくる。 小松の指先で触れられるだけで、ゆきは背中に官能的な震えを起こした。 また肌が熱くなる。 このままなら、蕩けてしまうような甘くて官能的な世界に、また落とされてしまいそうになる。 「経済界の冷徹なひとが、そんなことをしても良いんですか!?」 ゆきは声を甘く震わせながらも、小松になんとか、強く出ようとした。 だが、小松はそんなことはお構い無しといった風に、微笑んだ。 「そんなこと、誰が言ったかは分からないけれど、私には全く関係のないこと。言わせておけば良いよ。私は、君の前では、甘い恋人だから……ね」 「……甘いイジワルさんですよ」 ゆきが拗ねるような声で指摘をすると、小松はいきなり押し倒してきた。 「きゃっ!」 「ダメだよ、ゆき。お仕置きとご褒美、どちらもご所望のようだから、たっぷりとね……」 意味ありげに小松に見つめられると、ゆきはもう負けたも同然になってしまう。 これは流石に抵抗出来ない。 それを小松はよく解っているのだ。 「寒いのに、わざわざ起きて、外に出ることはないでしょ?」 小松はゆきの柔らかな頬にキスをすると、温かくてまろやかな肌をじっくりと愛撫し始める。 ゆきのツボを心得ている小松に、勿論、抵抗することなんて出来る筈がなかった。 結局、小松に甘くて熱い艶やかな時間を作られて、溺れてしまった。 疲れているのに、満ち足りた、愛し合った時、特有の気だるさを感じながら、ゆきは二度目覚める。 すると、ベッドの中には小松はいなかった。 何処に行ったのだろうかと、ぼんやりと考えていると、小松がマグカップを持って、こちらにやってきた。 「雪は止んだよ。少ししたら、外の様子でも見に行こうか?」 「ありがとうございます」 ゆきは小松からマグカップを受け取る。温かなミルクが入っていて、今のゆきにはちょうど良かった。 「たまにはこんな休日の過ごし方も良いでしょ?」 「はい……」 「良かった」 小松は甘く微笑むと、ゆきに柔らかなキスをくれる。 雪の日の熱くて遅い朝。 そこにあるのは、ほわほわとした優しい幸せだと、ゆきは思った。
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