|
テレビの天気予報で、これから激しい雪が降ると言っている。 激しいと言っても、そう大したことはないだろうと、ゆきは思う。 だが、都会の交通網は、雪に酷く弱い。 今夜は早目に帰るべきだろうと、ゆきは立ち上がり、帰る支度を始めた。 「ゆき、何をしているの?」 小松は静かに訊いてきた。 「雪が酷くなる前に帰ろうと思っているんです。この辺りの交通網は、雪に酷く弱いので……」 ゆきが苦笑いを浮かべながら呟くと、小松はクールに眉を上げた。 「帰れなくなったら、泊まっていけば良いでしょ?そのほうが安全だと、私は思うけれど」 小松は何でもないことのように、しらっと呟く。 だが、ゆきにとっては、甘く激しく緊張してしまうぐらいにドキドキすることで、つい、固まってしまった。 「あ、あの。と、泊まりですかっ?」 「そうだけど」 さらりと小松に言われてしまい、ゆきは真っ赤になりながら、目だけを見開いている。 「ゆき、目玉オバケみたいだけれど」 「め、目玉オバケって、そ、そうしたのは帯刀さんでっ」 「そう?私は大したことは何もしていないけれど……」 小松はしらっとしているが、何処か面白そうにもしている。 「ね、何をそんなに慌てているの?」 小松は半ばからかうようにゆきを見ている。ゆきが何を意識しているのか、お見通しだとばかりに。 「……や、やっぱり、早目に帰ります」 ゆきが甘い緊張と拗ねた気持ちを混ぜたよたいな気分で言うと、いきなり手を掴まれてしまった。 「……折角、久しぶりに逢えたのに、君はそんなにもつれないことをするの?私はもっと君と一緒にいたいと思っているけれど、君は違うの?」 艶やかな声で攻めるように言われると、ときめき過ぎて反論出来ない。 「……一緒にいたいです……」 ゆきはもじもじと話す。すると、小松はフッと甘く笑った。こんなにも魅力的な笑みを浮かべるのは、本当にズルい。 きっと、ゆきが抵抗出来ないことを知っていて、追いつめているに違いないのだと、思わずにはいられない。 「ゆき、だったら、今夜は帰らなくても構わない……。違う?これから、もし、帰ったとしても、途中で電車が止まったり、私の車が止まったりしたら、困るでしょ?」 小松はどんどんゆきを甘く追い詰めてゆく。 それが、ゆきにはほんのりと悔しかった。 「……解りました……」 観念するしかない。ゆきが返事をすると、吉羅はフッと微笑んだ。 「そう。やはり君は良い子だね」 小松はそのままゆきを引き寄せると、抱き締めてきた。 小松に抱き締められてしまうと、総ての思考回路が停止をしてしまう。 小松のこと以外は考えられなくなってしまうのだ。 これには流石のゆきも困ってしまう。 何もかも小松に流されてしまうからだ。 だが、流されても構わないだなんて、思ってしまう自分がいるのだ。 それぐらいに小松のことを愛している。夢中でいるということなのだろう。 小松の胸に顔を埋めて、ゆきは観念する。観念するというよりは、自ら進んで小松のそばにいて甘えているというのが、正しいのかもしれない。 「……ね、降参した?」 「降参なんてしていないです。ただ、こっちのほうが良いかなあって……」 ゆきはそのまま素直に受け入れたことを小松に知られたくはなくて、わざと拗ねるように言う。だが、それがただの嘘であることぐらいは、小松には十分知られているのだから、始末が悪い。 「こうして雪に閉じ込められるのも悪くはないでしょ?私は、雪に感謝をしているかな。まあ、雪に弱すぎる、この合理的な世界に……、かもしれないね」 小松はクスリと笑うと、ゆきをさらにしっかりと抱き締めた。 「……総てを、合理的に……。なんて無理があるのかもしれないね……。合理的だ、計算されていると思っていても、その隙間にあるものには負けてしまう……。まあ、ありがちなんだろうけれどね。世の中総てが、合理的に、計算通りにいくと、それはそれで面白くはないのかもしれないね」 「そうですね……、きゃっ!!!」 ゆきはいきなり床に押し倒されてしまい、思わず甘い声を上げた。 この先のことを考えると、ゆきはドキドキし過ぎて、真っ直ぐ自分だけを艶やかに見つめてくる小松を、まともに見つめられない。つい視線を反らしてしまう。 これぞ、計算されていない、想定外だと思う。 キス以上のことを、小松とはしている間柄ではあるけれども、やはり想像以上に緊張してしまう。 白い肌を真っ赤にして狼狽えるらゆきを、小松は面白そうに見つめていた。 「私に押し倒されたことなんて、これまでも何度もあるでしょ?今更じゃないの?」 小松はまるでゲームをするかのように呟くと、ゆきの唇を深い角度で奪ってゆく。 何度も音を立ててキスをされて、ゆきはだんだん理性が溶けてゆくのがわかった。 頭がぼんやりとするぐらいにキスをされて、ゆきはほわほわとした満たされた気持ちになる。 とろんとした眼差しを小松に送ると、フッと甘く笑ってくれた。 「こうして雪の夜に二人きりで過ごすことは、ステキなことでしょ?ふたりだけの時間を過ごそうか……」 まるで小松は魔法をかけるように艶やかに呟くと、ゆきをしっかりと抱き締めて、愛し始めた。 小松と愛し合う。 自分と同じ名前を持っている、白くて清らかなものは、ゆきに純粋で幸せで、情熱的な時間を与えてくれた。 外の雪が綺麗に積もったのか。 そんなことをぼんやりと考えながら、ゆきは、目を開けた。 愛し合っているあいだは、全く何もかも目に入らなかった。 いつの間にか、温かで優しいベッドに寝かされていた。 横には小松がきれいな顔をして、ゆきを見つめている。 「……帯刀さん、朝ですか?」 「……いいや、まだ、夜中だよ」 「……雪は降っていますか?」 「まだ、降っているようだね」 「そうですか」 通りで少し寒い。 ゆきが甘えるように小松にピタリとくっつくと、ギュッと更に抱きすくめられる。 「ゆき、そんなことをしていたら、どうなるか、解っている?」 小松は艶やかに何処か意地悪に囁くと、そのままゆきを押し倒す。 「雪なんて溶かすぐらいに熱くしてあげる……」 小松の言葉に、ゆきは従わずにはいられなかった。 深々と降る雪に、負けないほどに愛を燃え上がらせながら、ふたりは愛し合う。 明日はロマンティックな朝を迎える迎えられると思いながら。
|