いつも元気いっぱいで、さばさばしていると言われていても、本当はとてもウェットで泣き虫。 そんなことを知っているのは、自分だけだと思っていた。 朝から少しだけ熱っぽい。 喉もほんの少しだけ痛いが、気にならないぐらいだ。 薬を飲んでいれば、ケロリと治ってしまうぐらいの症状。 だから望美は別段気にすることもなく、いつものようにからりと明るい様子で将臣を起こしに行く。 「将臣くんっ! 早く起きなよっ! 起きないと、望美スペシャルを食らわせるわよっ!」 いつものようにノックもせずに、望美はズカズカと将臣の部屋に入ると、いきなり布団をひっぺがした。 「…っ! 寒いからもう少し寝かせろよ…っ!」 将臣は寝ぼけている割には、思い切り望美から布団を奪おうとしている。 「遅刻するよっ!」 「…じゃあ遅刻の理由を考えていてくれ…」 「太陽が黄色かったから…とか?」 「…それいただき…」 「そんなこと言ってないで、とっとと起きなさいっ!」 とうとう実力行使とばかりに、望美は将臣の胸倉に掴みかかる。 「しょうがねぇな」 「しょうがないはどっちよ! ったく、寝汚いんだからっ」 もそもそと将臣が起きる姿を、望美は仁王立ちして監視をする。 「ちょっ! 望美男さんっ! レディの着替えを邪魔するなんて、ルール違反」 将臣の茶化した言葉に、望美は途端に真っ赤になって、将臣を意識した。 耳朶までが沸騰したように熱くて、望美は胸が焼け付くほどにドキドキしてしまう。 「二度寝しないでねっ! 下で待ってるからっ!」 「はあい、望美男さん」 あくまでふざけた調子の将臣を睨み付けると、望美はキリッと将臣を睨み付けた。 将臣の部屋を出ても、まだ頬が熱い。手のひらで頬を冷やすように包み込むと、胸の奥がきゅんと痛んだ。 熱さを感じながら将臣を待っていると、いつもの少しクールな表情で下に下りて来た。 「望美、行くぜ。このままだったら早くしねぇと間に合わないからな」 「もうっ! 誰のせいだと思っているのよっ!」 「さあな」 くつくつとご機嫌そうに喉を鳴らしながら笑う将臣に、望美は拗ねてしまう。 唇を尖らせていると、将臣がちらりと望美を見た。 「…お前、今日はあんまりムリしねぇほうがいいんじゃねぇの?」 将臣はさらりと関心なさげに呟いた。 「大丈夫だよ。だって元気満開だもん」 「ま、あんまりムリはしねぇことだな」 将臣は望美の肩をさりげなく一度だけ、ポンと叩くと、自転車の鍵を開けた。 いつものように全速力で、自転車を激しく漕ぎまくる。 ジェットコースターに乗っているようなスリルに、望美は歓声を上げずにはいられなかった。 楽々、間に合うことが出来て、ふたりは江ノ電へと乗り込んだ。 授業を受けているうちに、耳の裏が酷く熱くなっているような気がした。 全身に気怠さがあり、なかなか授業に集中することが出来ない。 昼休みになると流石に気分がどんよりとしてしまい、明らかな気分の悪さが表情に現われるようになっていた。 流石にこれには、友人たちも心配そうな表情を浮かべている。 「大丈夫なの? 望美、凄く顔色が悪いよ?」 「うん、有り難う。大丈夫だよ。午後の授業は楽しみな、映画鑑賞があるから、どうしても受けたいんだ。だから、頑張るよ」 「…そう。望美、凄く待遠しい授業だって言ってたもんね。だけど気分が悪くなったら、言ったほうが良いよ。酷くなったら困るもんね」 「そうだね」 午後の授業は、予告があったときから、とても楽しみにしていたものなのだ。 だから気分が悪くて早退だなんて、そんなことはしたくない。 「望美、マジで気をつけなよ。私たちから有川くんに言っておくから」 「大丈夫だよっ!」 明るく笑って将臣を見ると、いつものようにクールな態度は変えていない。 望美の気分の悪さもさして気にも留めていないような雰囲気すらある。 少し寂しさを感じながら、望美は将臣に一瞥を投げた。 「有川くん、望美が気分悪そうなのに、意外に平気そうだなあ。何だか、月日の経った夫婦みたいだよね」 非難をしているのか茶化しているのか微妙なところで、友人は呟く。 「付き合いは長いけれどねぇ」 望美は笑いながら、また将臣に視線を投げる。だが将臣が望美を見ることはなかった。 楽しみにしていた映画による授業は、内容もかなり充実していて楽しめるものだった。 気分が悪いのを押して、見たかいがあるというものだ。 望美は気分の悪さを忘れてしまうぐらいに夢中になっていた。 だが、授業が終わる頃には、すっかり体力を使い果たしてしまい、望美はぐったりとしていた。 ショートホームルームが終わる頃には、かなり気分が悪く、なのに妙にテンションが高くて、にこにこ笑ってしまうばかりだ。 「望美、とっとと帰るぞ」 チャイムが鳴るなり、将臣は望美の鞄を持ち、しっかりと手を握り締めて来る。まるで恋人繋ぎのようにしっかりと指を結んできた。 「行くぜ」 「…うん」 将臣は望美をしっかりと引っ張りながら、足速に学校を出て、駅に向かう。 「ここからうちはすぐだから、もう少しの辛抱だ」 「…うん、有り難う」 熱で喉がからからして気分が悪い。望美が呼吸を乱しながら、熱で潤んだ瞳を向けて来た。 望美駅のベンチに腰を掛けると、将臣は自販機の前に立つ。 スポーツドリンクを買うと、それを望美に差し出してくれた。 「喉がからからになってんだろ? ほら、飲めよ」 「あ、有り難う…」 望美が一番欲しかったものを、素早く気付いてこうして差し出してくれる。 それがとても嬉しい。 望美が欲しいものを、さり気なく感じ取り、こうして与えてくれる。 誰も気付かないのに、将臣だけは気付いてくれるのだ。 先ほどだって、心配してくれた友人を尻目に、将臣は特に気にしていないようだった。本当は、望美が授業をとても受けたがっていたことを知っていたから、あえて言わなかったのだ。 せめて授業だけは受けさせてやりたいと、将臣は思ってくれていたのだ。 いつもさり気なく見てくれている。 望美だけが知っている優しさに、思わず微笑んでしまう。 スポーツドリンクで喉を潤すと、望美は大きな溜め息を吐く。 「助かったよ。将臣くんがいつも気付いてくれるから、助かるよ」 「ああ。いつでも見ててやるから」 将臣の言葉は、望美のこころを芯まで温かくしてくれる。 いつも見てくれているから、どんなことが起こっても平気なのだ。 「将臣くん、有り難う…」 望美は優しさに感謝を込めてもう一度呟くと、将臣にとっておきの微笑みを送った。 |