恋の咬み痕


「水着は絶対にビキニだからな」
「嫌よ。露出が大きいもん!」
 将臣がふざけた雰囲気でビキニを提案するものだから、望美は拗ねて唇を尖らせた。
 全くなんて幼なじみだろうか。
 仲間たちと海に行くのに、いきなりのビキニ提案だなんて。
 望美は自分の躰に自信があるほうではなかったので、何だか複雑な気分だ。
「将臣君のか、彼女でも何でもないんだから、どうしてリクエストに応えないといけないのよ。か、彼女さんに頼んだら?」
 少し言葉を詰まらせながら、望美はわざとつっけんどんに言う。
 それが気に食わないのか、将臣は不機嫌に目を細めてこちらを見ている。
 一瞬、真剣に怒っているように思えて、望美はたじろいだ。
「良かったら、わ、私、遠慮してもいいんだよ。他の仲間はいるけれど、みんなカップルぽくなっているでしょ? どうせ泳げないからいいかなって…」
 望美がしどろもどろに言うと、将臣は益々不機嫌になっていくようだった。
「余り気にするな。アイツとは少しは仲がいいかもしれねぇが、付き合ってはいねぇよ。だから、お前も気にするな」
 将臣がつっけんどんに言うものだから、望美は腑に落ちないまま頷くしかなかった。
 将臣と家の前で別れた後、望美は溜め息をつく。
 一体、いつから幼なじみの顔色を窺うようになってしまったのだろうか。
 それは「好き」だという感情を自覚してから。
 素直で無邪気ではいられなくなってしまった。


 水着をあれこれと物色し、結局は将臣のリクエストに答えることとなってしまった。深層心理で、そうしたいと願っていたのかもしれない。
 仲間たちと近場の海にわいわいと出掛ける。
 地元では有名な、穴場スポットにいくのだ。ここならまだ海も綺麗だ。
 女子更衣室でこそこそしながら、望美はウォータープルーフの日焼け止めを塗った。
将臣が誘ったのだろう女友達は、サンオイルを綺麗に塗りこめて、大胆なビキニを身に着けている。
 これだと、きっと男たちを挑発するだろう。そう思うぐらいに、女の子は綺麗で豊かなボディラインを持ち、セクシィだった。
 それに比べて自分はどうだろうか。
 いつも制服で隠しているが、普通よりは少しだけ大きい胸、ひょろ長い手足。セクシィにはほど遠い。
 望美は髪を上げると、白いパーカーを着て、下半身はパレオをしたままビーチに出た。
 自意識過剰になりすぎて、恥ずかしい。
 特に将臣をとことんまで意識してしまう。
 ビーチには既に男の子の友人たちが集まっていたが、誰もが望美を見た。
 すんなりとした脚も腕も、そして柔らかそうな上向きのバストも、誰よりも綺麗で艶があることを、本人だけは気付いてはいない。
 すべすべとした純白の肌を、誰もが触りたいと思っているとは、思いも寄らない。
 望美は将臣だけに見て欲しくて、その瞳を上目使いで見た。
 怒ったような眼差しをしている。
 余りに鋭い視線に、望美はうなだれてしまった。
 綺麗にやけた将臣の肌はとても精悍で、鍛えられた躰は締まっている。
 芸術品ともいえる躰を、一瞥もできずに、望美は小さくなってしまった。
「将臣! 海に入りましょうよ!」
 将臣が連れてきた彼女は、ベタベタ甘えている。それを直視出来ない。
「ああ。みんなも入ろうぜ。あ、望美」
 名前を呼ばれて、惨めな気分で顔を上げる。
「お前は日に焼けたくなかったら、パレオとパーカーは脱ぐな」
「あ…」
 それはみっともないということだろうか。望美は自分の躰を見た。益々、自信がなくなってしまう。
「パラソルの下にいる」
 望美はそう答えると、ひとりで留守番となった。
 留守番する誰かが必要だったから、将臣はあんなことを言ったのだろう。海に誘ったのも、留守番の雑用がいるからだ。
 そう考えると、怒って今すぐ帰りたくなる。バスタオルを掴んで立ち上がろうとしたところで、声をかけられた。
「ひとり?」
 顔を上げると、綺麗な顔をした軟派な男の子がいる。
「ひとりのような、ひとりじゃないような…」
「正直なんだ」
 男の子はニコニコ笑いながら、当然とばかりに望美の横に腰を下ろす。
「可愛いよね、君は」
 一瞬、何を言われているのか解らずに、望美はぽかんと口を開けた。
「からかわないで」
「からかってなんかない。君はこのビーチで一番の視線を集めてる。それに気付かないのかい?」
「え、あ、あの、その…」
 綺麗な男の子にそこまでストレートに言われると、流石にときめいてしまう。望美は頬を赤らめながら、素直に微笑んだ。
「有り難う」
「どういたしまして」
「おい、望美! 何をやってる!?」
 何時も以上に不機嫌な声に顔を上げれば、将臣がムスッとした顔で立っている。
 望美は突然現れた将臣に目を丸くした。
「将臣くん?」
「何だ、男連れ? だったら僕は退散かな? またどこかで会えたらいいね」
 悪びれなく笑うと、男の子は立ち上がって行ってしまった。
「望美、ちょっと来い!」
「え、あ、ちょっと、将臣くん…っ!」
 力づくで腕を引っ張られて、望美はいやがおうなく立ち上がる。
 望美が戸惑うのも構わずに、将臣は容赦がない。
「ねぇ、どうしちゃったって言うのよ!」
 誰もいない岩影まで連れていかれ、望美は不安でならなかった。
 静かで影になったそこは、ビーチとは違い静まりかえっている。まるで別世界に来たかのようだ。
「どうしたの?」
「あんな男に、媚びるような瞳を送っているんじゃねぇよ!」
 魂の奥底から出る強い声。
 どうしてこんなに将臣が怒るのかを、望美は理解することが出来ない。
 考えれば考えるほど、へこんでしまう。
「別に、そんなつもりはなかったのよ。だけど、将臣君がひとりにするから、私…」
 将臣が熱っぽい眼差しでこちらを見つめてくる。
 喉がからからに渇くぐらいに、ドキドキした。
 なんて艶のある眼差しなのだろうかと、思わずにはいられない。
「こんな男を狂わせるような恰好をしやがって」
「将臣君が、ビキニにしろって言ったんじゃない。私なんか幼児体形だし、色っぽくもないし…」
 怨みがましく言うと、将臣の表情は、余計に険しいものになる。
「お前は幼児体形なんかじゃねぇよ」
「だって隠せって」
「誰にも見せたくねぇからだよ」
 将臣は望美の腰を抱きよせると、うなじに冷たい唇を押し付けてくる。
「や…っ…!」
 強くうなじを吸い上げられて、望美は肌を酷く震わせた。
 全身に甘い衝撃が走り抜け、望美は思わず首をのけ反らせた。
「あっ…!!」
 唇を離された後、将臣は薄く笑う。
「男除けのおまじないだ。これでお前は俺に近付くことは出来ねぇはずだ」
 将臣は満足そうに笑いながら、赤く染まる肌を指先で撫でて来た。
「上手く活用しろよ?」
「将臣君には効かないの?」
「効かす理由はねぇだろ」
「どうして?」
 望美が小首を傾げると、将臣は耳元に唇を押し当てた。
「俺がお前の防虫剤だからな」
 こんなに大胆な防虫剤なんて見たことはない。望美が苦笑いすると、将臣は更に抱き寄せてくる。
「いっぱい痕をつけてやる」
 将臣は意地の悪い笑みを浮かべると、望美の胸の谷間に唇を寄せると、また朱いしるしをつけていく。
「やっ…!
 下着の周りに更に跡を色濃く乗せて、濡れた水着を押し付けていく。
 こんなに熱いひとときは、今までになかった。
 情熱的な将臣も。
 唇がゆっくりと近づいてくる。
 重なったそれは塩っ辛い味がした----
コメント

幼なじみです。
寸止めに仕様かと思いましたが、折角の夏野ので、濡れ場に続きます。



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