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幼馴染みだならか、なかなか恋する気持ちを伝えられない。フラれたら普通の失恋よりも、きっとショックが大きいだろうから。 久し振り将臣と隣りの席になり、望美は何故だか落ち着かない。 ちらちらとついつい横ばかりを見てしまい、観察するのに大忙しだ。 今まで気付かなかったことに色々気付かされる。 例えば、将臣の睫毛が意外に長いことや、本当に細微な程に整った容貌をしているのを改めて感じる。 新鮮な毎日だ。 だがこんなに将臣ばかりを見ていると、気付かれるのは当たり前の話になる。 不意に将臣に真直ぐに見つめられて、望美は心臓が競り上がってくるほどにドキドキした。 「なあ、お前さ、最近、俺をじっと見ているけど、何か言いたいことでもあるのか?」 「言いたいことって…、な、何かなあ…」 意味不明な誤魔化し方をしながら、望美は視線を明後日方向に這わせる。 「言いたいことが何かって、こっちが聞きたいんだよ? で、何か用なのか? 相談したいこととか…」 将臣が真剣なまなざしを向けてくるものだから、望美は慌てる余りにを引きつらせた。 「悩みとか、そ、そんなのはないんだ。マジで、うん。ただ、見たいだけで…」 言い訳にならない言い訳に、将臣は益々困惑ぎみな表情を浮かべる。呆れたようにため息を吐くと、望美の頭をとんとんと何度か叩いた。 「何かあったらマジで言えよ。相談ぐらいには乗ってやるから」 将臣は心配そうに何処か愁いのある瞳を望美に投げる。それが切なげで、望美は息が詰まりそうになった。 「大丈夫だよ。何かあったら将臣くんに相談するよ」 本当は最も相談し難い、相手ではあるのだけれども。 「何でも言えよ。聴いてやるから」 「うん、ありがとう」 将臣は薄く魅惑的に笑ってくれた。 こうして見つめるだけでドキドキするのはどうしてだろう。 将臣の顔なんて小さなころから見飽きていてもおかしくないはずなのに。 見つめずにはいられなくなる。 移動教室の合間の、廊下を歩いている時ですらも、見つめずにはいられない。 「有川くん、ちょっと…いいかな?」 可愛い声に振り返ると、望美たちの背後にに、はにかんだ表情をした女の子が立っていた。 表情と仕草で解る。将臣に告白に来たのだ。 不良ぽく見えるのに不良ではなく、頭も良くて、クールさと熱さが同居する将臣は、女子のなかでも人気は高い。 だからこうして、勇気を振り絞って告白にくる女の子は少なくはなかった。 女の子は大きく深呼吸をすると、一気に想いを吐き出す。 「好きです!これを…!」 差し出されたのは、誰がどう考えてもラブレターだ。 将臣は手紙に視線を落とし、一瞬、逡巡する。 答えを聴くのが怖くて、望美のほうが余程ドキドキしていた。 「…悪いけど、俺、コイツと付き合っているから」 いきなりだった。 こちらはこころの準備など全く出来ていないというのに、将臣は不意に抱き寄せてきた。 「あ、ま、まさ、将臣くんっ!」 余りに突然過ぎる出来事に、望美はうろたえる。 事が事なだけに、思わず将臣は惚けた顔で見てしまっていた。 「いいから、そのまま笑って頷け」 命令形の囁きに、望美は従う。引きつった笑顔に、不安げな瞳。動揺をあからさまに見せつけてしまう。 「…春日さん、ホント?」 疑わしげに見つめてくる女の子のまなざしを振り払うように呼吸を整えると、望美は背筋をしっかりと伸ばした。 胸の鼓動が、信じられないほどに激しくなる。その強さはと言えば、心臓病だと思ってしまうぐらいだ。 「そうだよ。私たちは付き合っているよ」 先程までこの身に纏わりつくいていた不安を払拭するかのように、望美はキッパリと言い切る。 その潔い強さが、女の子から疑いや希望を無くさせた。 「…やっぱりそうだったんだ…」 女の子は先が真っ暗だと言わんばかりの切ない声で呟く。表情は今にも涙雨が降り出そうだった。 同じように将臣のことが大好きだから、望美も痛いほどに気持ちが解る。泣きそうになっていると、ふと女の子が望美と将臣を交互に見つめた。 「本当に付き合っているんなら、その証拠を見せてよ。それなら諦められるよ」 付き合っている証拠と言われても、そんなものはない。ふたりが顔を見合わせていると、女の子は真直ぐこちらを射るように見つめてきた。 「私の前でキスをしてみてよ。そうしたら、付き合っているって認めてあげても良いよ。ちゃんと有川くんを諦めるから」 キス。 付き合うことを通り過ぎて、いきなりそこにいきつくとは、望美は思いもよらなかった。将臣と唇を重ねる。想像するだけで、顔から火が出そうだ。 耳まで真っ赤にしながら将臣を見上げると、困り果てた顔をしていた。 「…やるしか…ねぇだろ?」 低い声で囁かれて、緊張は高まる。望美はこのまま心臓がスキップして逃げ出しそうになった。 「やるしかないって…」 望美が女の子に聞こえないような小さな声で囁くと、女の子は余計に不審そうなまなざしを浮かべてきた。 将臣は望美の肩を強く抱くと、顔を近付けて来る。 ロマンティックなキスを夢見ていたのに、こんなかたちでファーストキスをすることになるなんて、思わなかった。 相手は、夢を見ていた男の子であったが。 将臣の顔が近付くにつれて、なんて綺麗な顔をしているのかと思った。 じっと見つめていると、将臣は目を閉じ、唇を重ねてくる。 想像よりも硬くて、少し冷たい将臣の唇。 胸の奥が甘い想いで満たされて、涙が零れてしまいそうなぐらいの幸せを感じた。 「…っ!?」 将臣の舌が、望美の歯列を割り込み、口腔内に入りこんでくる。 生暖かい将臣の舌は、望美の上顎をくすぐったり、舌を絡めさせてきた。 望美の舌を奪うように、将臣が舌を吸い上げて来る。 背筋にゾクリとした感覚が走り抜け、望美はの半身が俄かに力が入らなくなっていた。 将臣はそれを支えるように、腰をしっかりと腕で支えてくれる。 いつしかキスだけに夢中になっていた。 ここには誰もいなくて、自分達だけしかいない錯覚を覚える。 リアルさなど、何処かにいってしまったようだ。 息をするのさえも忘れて、望美はキスに夢中になっていた。将臣の肩にすがりつき、ただキスを求める。 初めてのキスのはずなのに、頭のなかまで熱くなって、おかしくなってしまいそうだった。 キスに夢中になり過ぎて、キスをしながらの呼吸方法も分からなくて、望美は何時しか酸欠状態になってしまった。 限界まで追い詰められた後、望美は将臣からずり落ちていく。 「おいっ!?」 将臣は驚いて、慌てて望美を引き上げて、何とか立たせてくれた。 将臣のキスが終わっても、まだ呼吸が上手く整わなくて、望美は胸を上下に揺らしていた。 「解ったわ。これでちゃんと諦められるよ。ごめんね」 女の子の声が、望美を現実へと引き戻す。 先程の非常に密度の濃いキスを一部始終見られていたのだ。 恥ずかしさが全身を駆け巡り、どうしようもなくなってしまう。 望美は恥ずかしくてたまらなくて、女の子をまともに見られなかった。 女の子が行ってしまってからも、躰の熱は激しく籠ったままだ。 何も言えずに将臣を見上げると、照れもせずにクールなまなざしを望美に返して来た。 「…お前にキスをしたことを俺は謝らないぜ。したかったから、したんだからな」 望美は呆然と将臣を見つめるしか出来なかった。 |