波時計

前編


 南の島に来て、心が総て開放され、本当の意味での幸福を知った。
 突き抜けるぐらいに碧くて明るい空と海。
 これ以上のものはないと思うぐらいに贅沢だ。
 手足を伸ばすと、底抜けに気持ちが良かった。
 木陰でのんびりしていれば、大好きなひとがやってくる。
「良い果物が手に入ったぜ、おら」
「有り難う」
 受け取ったパパイヤは、ほんのりと冷たくて、将臣が井戸水で冷やしてくれていたのは、直ぐに気付いた。
「有り難う、ちょうど喉が渇いたところだったんだよ」
 望美は歌うように言うと、パパイヤにキスをする。芳しさとみずみずしさを、唇を通して感じた。
「甘くて美味しそう!」
 うっとりとした声で絶賛すると、将臣は苦笑する。
「俺はこっちのが、甘くて美味しそうだと思ったけどな」
「何が?」
「これだ」
 剥き出しになっている望美の肩を、将臣は絶賛するかのようにくちづける。先ほど井戸水でも飲んだのであろう将臣の唇は、ひんやりとしていて果実よりもみずみずしかった。
 肌が気持ち良く震える。望美は自分の声だとは思えないほどの、甘い声を出していた。
 全身に鳥肌が立つぐらいに、ざわざわと気持ちが良い。頭の芯までとろけそうだ。
「……やっ! 冷たいっ!」
 ごまかすように声を上げると、将臣は可笑しそうに笑う。
「そりゃそうだ。さっき、すげえ綺麗な泉を見つけて入って来たからな。お前に渡したフルーツも、それで冷やした」
「そうなんだ…」
「ああ。生きたいか?」
 眩しそうに目を細める将臣は、何時にも増してあだめいて見える。
 存在だけで犯罪だ。
 セクシィ過ぎる。
「行きたい!」
「よし、奥さん、連れて行ってやるよ」
 まるで王子様がお姫様をエスコートするように手を差し延べられて、望美は機嫌良く将臣の手を取った。
 期待を胸に、ただ将臣に連れられていく。
「体力いるかもしれねぇからな…。着いたらしっかり果物を食っておけよ」
「うん、解ったよ」
 最初、望美は将臣がどういう意味で言っているのか、意味が解らなかった。
 ただそれに従えばいいのだろうぐらいに、ぼんやりと思っていた。
 こうして手を繋いで歩くだけでも、楽しくてしょうがない。将臣に惚れているからかもしれない。
 うっすらと暗いが、心地の良い森をふたりして緩やかに歩いていく。
 歩くだけでも気持ちが良い森がこの島には沢山あった。
「マイナスイオンいっぱいで、凄く癒されるよね「
「そうだな…。特にここは凄く癒される場所だぜ?」
「うん期待している」
 ふたりで暫く仲良く歩くと、まるでお伽話に出てくるような、緑豊かで清らかな泉が姿を現した。
 ここに入るだけでも、相当癒されるだろうと、望美は思わずにはいられない。
「…凄く綺麗…」
 ここまで綺麗なものを見せられると、ボキャブラリが追い付かない。
「だろ? 入らないか? 一緒に…」
 将臣の提案は官能的過ぎて、望美は戸惑わずにはいられない。
 恥ずかしさと期待が胸をときめかせ、煩いぐらいに胸の鼓動が烈しく高鳴る。
「あ、あのさ…、水が綺麗過ぎるから…恥ずかしい」
 望美は声を不自然に上擦らせながら、複雑な気持ちを説明する。すると、将臣は真面目腐った表情を浮かべた。
「俺も恥ずかしいってお前は思わないか?」
「あ……」
「綺麗なお前を最高の自然のなかで見たいって、言ったら?」
 将臣は、まるで服など見えていないかのように、望美のボディラインを眺めてくる。
 視線がなまめかしく犯罪。
 視線だけで抱かれている気分になる。
 喉の奥から熱いものが込み上げてきて、からからに渇いた。
 胸の奥が支えている。
 将臣は、久々に伸びた髪を解き、ばさりと肩に広げる。
 なんてセクシィなのかと、望美はときめかずにはいられない。
 その薄い布きれを取れば、鍛えられた躰が、見えるだろう。
 筋肉の盛り上がった胸や、無駄な肉等ない引き締まった腰とヒップライン。
 それらを透視でもするかのように見るだけで、望美の熱い部分はとろとろにとけだしていった。
「…あ、将臣くん…」
 愛の熱でぼんやりとなった視線を向けると、将臣が頬を撫でてきた。
「望美、誰もこねぇから、ガキの頃みてえに開放的になってもかまわねぇんじゃないか?」
 武骨な指で頬を撫でられるだけで、熱い吐息が唇から漏れた。
「……うん」
 自然と唇と首が同意に傾き、望美は将臣の腕にしがみついた。

「絶対に見たらダメだよ!」
 衣服を取り去る間、望美は将臣に強く釘を刺す。背中を向けて、せめて前だけは見られないようにする。
「…ったく。見られるより凄いことをしているじゃねぇか」
「そ、そんなことを言っても、恥ずかしいのは、恥ずかしいし…」
 望美がごにょごにょと言っていると、背後で将臣が喉を鳴らして笑っているのが聞こえた。
 望美は衣服を脱いで畳んだ後、そっと泉のなかに入ろうとする。
「望美! ちゃあんと心臓あたりに水をかけてから入れよ。危ねぇからな」
「はあい。将臣くんは説教くさいよ」
「うるせぇ」
 将臣が背中を向けている間、望美は言われた通りに胸に水をかけてから、ゆっくりと泉に躰を沈めた。
 将臣はまだ背中を向けている。誰かをしっかりと護れる逞しい背中であり、そこには護ってきた証である無数の傷がうっすらと付いていた。
「…やっぱりカッコイイんだよね…。スケベなのはたまに傷なんだけれど…」
 あの背中に護られている自負で、心が温かくなる。
 ぼんやりとしていると、不意に水をかけられてしまった。
「きゃあっ!」
 顔に思い切りかかる水に、望美は思わず声を上げた。目の前には、将臣が可笑しそうに立っているのが解る。
「ぼーっとしてんじゃねぇぞ! おら!」
 何度か水の攻撃を受けても、黙っている望美ではない。もちろん、激しく反撃を開始した。
「もう! 仕返し!」
「ったく! 冷たいだろっ!」
 将臣も水びたしになりながら、笑って反撃をしてくる。
 まるでふたりして子供の頃に戻ったかのように、無邪気に水遊びに興じた。
 最初は水のかけあいだったが、途中で鬼ごっこのように追い掛けあう。
「こっちよ!」
「おし!」
 ふたりして楽しげな声を上げ、自然の中で戯れあう。
 泉の温度も、僅かな木漏れ日も、どれもがロマンティックで最高のシーンを演出してくれている。
「えいっ!」
「うわっ!?」
 望美を思い切り水をかけると、将臣は少しひるんだ。
「ったく、水びたしだぜ」
 濡れた髪を将臣は欝陶しいそうにかきあげる。その仕草がとても艶めいていて、望美は思わずドキリとする。
 素敵過ぎて、激しく興奮してしまう。水よりも熱くてとろりとした液体が体外に流れ落ちた。
 ただ見つめずにいられないでいると、将臣の瞳が深い艶を帯びてくる。
「…綺麗だな」
 本当に心から言ってくれているのが解る、深い秘めやかな声。背筋がぞくぞくするほどに、将臣は望美の性を刺激した。
 全身が、喜びや官能で桃色に染まっていく。
 恥ずかしさが意識を支配して、望美は胸を手で隠した。
「…隠すなよ。もったいねぇ」
「…私なんかより、将臣くんのが綺麗だよ…」
 素直な気持ちを現すと、将臣は甘く笑う。
「んなわけねぇさ…。お前のが余程綺麗だぜ」
 将臣は望美の手を取ると、そのまま自分の腕の中に閉じ込める。
 余りに強い抱擁に、望美は息を乱した。
 呼吸が出来ないぐらいに将臣を想い、また想われて…。
 望美は濡れた将臣の胸に顔を埋めて、幸福の余りに泣きそうになった。
「…したい…」
「え? 夜も今朝もしたのに大丈夫なの?」
 望美が無邪気に言うと、将臣は困ったように笑った。
「大丈夫に決まってる。今朝より、昨日の晩よりも、絶好調なんだぜ?」
 耳元で甘く囁かれて、顔から炎が出そうになる。
 望美がドギマギしている間に、将臣は背後から抱きしめてきた。
 濡れた肌がぴったりと密着をして、言葉では言い現せない官能を生む。
 好きだと思う気持ちが、誰よりも強くなった。
「こんな綺麗なお前を抱かないのはもったいねぇだろ?」
「ま、将臣くん…」
 濡れた首筋から肩口にかけて、噛むようにキスをされる。朱い華が愛の証として咲き乱れているに違いない。
 望美は喘がずにはいられなくなった。
 肌が震えて、下半身は力が入らなくなる。
「…望美…っ!」
 乳房を背後から持ち上げるように揉まれた。つんと上向きの乳首を指先で弄られて、立っていられなくなるような衝撃が、下腹部を襲った-----



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